大好きでもタイミングを間違うとダメ
すべてはタイミングのズレ
もちろん、京介が悪いと思う。幼なじみで仁菜が自分のことを大好きだってことも知ってて、それでも彼は結衣子のほうへ傾いていく。それは、仁菜とは違う関係を築ける新しい存在であり、守ってやりたいと思える弱さがあった結衣子が、京介にとっては魅力的だったからに他ならない。
しかし、一番悪いのは、結衣子が自分を久米川の代わりにしていることに気づいていながら、そばにいたこと。そしてそれを伝えることもせず、仁菜にもお世話を焼き続けたこと。つまり、両方を取ろうとしたのだ。結衣子が京介を利用し、女の涙を使って捕まえたのは間違いないかもしれない。仁菜に京介と仲良しだと見せつけて、けん制したのも紛れもない事実。それでも、仁菜の気持ちを横に避けて、向き合わないけど手放さないなんて京介は虫が良すぎる。
ただ1つ、彼を擁護するとすれば、仁菜が京介に好きだと伝えたあの時、キスを断らなかったら…怖がらなかったら、うまくいっていた可能性が十分にあるということ。京介は、仁菜を傷つけたくないと思っている以上に、自分が傷つけられたくない男であり、好きっていいながらキスできないのは恋愛じゃないからだと逃げた。あの時仁菜が逃げなかったら、確かに勝機は見えていたのに…この何とも言えない苦しい気持ち、南波あつこさんが描く漫画でよくあるパターン。いっつも胸の痛い思いをさせられる。仁菜がどんな奴かってこと、京介だったらわかっているはずだったのに、余裕のなかった彼にはただの拒絶は痛すぎたのだ。仁菜が結衣子という存在が登場しなければ告白できなかった可能性は高い。でも、こんな形で想いを告げたかったわけじゃない…伝えたい言葉は、早く伝えなければ後悔することがほとんどだ。
総じて、誰も悪くないのかもね。久米川だけは悪と言えるが、それに振り回された周りの人間は、みな被害者なのだろう。
クールな三宅の片想い
静かに見つめる視線のその先。そこにはいつも高校のグラウンドを見て笑っている仁菜がいた。突如として元気のなくなった仁菜。どうして…?気になった時にはもはや彼の恋だった。
3巻になるまでまったく何もなかったのに、いきなり登場した三宅。遅い登場だったため、軽く京介に揺さぶりをかけるだけの相手かと思いきや…南波あつこさんの場合、そんなことにはならない。必ずキーパーソンだ。三宅により、京介、結衣子の目の前で仁菜は告られた。しかもクールにさらーっと…まさかの京介と似たようなキャラ…?かと思いきや、番外編をみると一目瞭然。完全に乙女な三宅の、精一杯の強がりだったことが判明する。平然を装って、一生懸命告白してくれたこと。ちゃんと仁菜しか見えてないこと、誰よりも大切に尊重してくれること…。京介じゃない、別の誰かが向けてくれる好意に戸惑う仁菜。でも戸惑いながらも、喜びを感じていく感情も本当で、自分の中での三宅の存在がどんどん大きくなっていく。京介のことが好きなのに、三宅くんのことを大事にしたい自分がいる。そう気づいていく仁菜からは、少しずつ前に進む心の成長が感じられる。
ピュアな同級生の恋、年上男子を追いかける恋…どちらのほうが上とか下とか関係ない。三宅のキャラがわかったら、もう三宅派。京介はいつまでもグダグダ悩んでいればいい!そう思ってしまう。気持ちの限りぶつかってきてくれたのは、きっと三宅だけだった。彼には感謝してもしきれないくらいだろう。
少しずつ京介から離れていく
仁菜を見ることに背を向ける京介。誰を好きでも、支えたいと想ってくれる三宅。そりゃー仁菜は三宅派になるわ。そこでおかしいのは、三宅にポジションを取られまいとして行動する京介。仁菜の兄的ポジションにいて、誰より理解し、誰より支えあってきたのは俺だ…って最初に言ってやればよかったのにさ…そうやって手放さずにいてくれればよかったのに…タイミング悪すぎなんだよ。
いつも通りの京介の優しさも、ふとしたときのフォローも。いつの間にか全部仁菜には「三宅くんに悪いから」に変換される行動になっていた。結衣子と関係したまま仁菜のことも心配する京介。それは幼なじみだから?恋だから…?恋じゃないなら、むしろ仁菜にとってはもはや迷惑な行為なのだ。
ちゃんと三宅を優先してくれることに、三宅はもう万々歳。仁菜ともっと仲良く…そう思ってクリスマスに家に読んだのに、仁菜は京介の看病に向かってしまうんだ…それが仁菜の優しさだとわかっていて、手放したくなくても、送り出してしまう三宅。そこもまた三宅の優しくて、いいところだ。もっと近づきたくて家に呼んだのに、離れるきっかけになってしまうなんて…せつなさがハンパない。
一度お別れを迎えた時、仁菜が京介に戻ってしまったら、それはそれでムカつくし、京介がもしすべて断ち切って仁菜を選んでくれるなら、そっちのほうがいいかもと思ったり…とても複雑だった。こういう苦しい演出が巧すぎて、いつも最後まで読んでしまうんだよ。人事じゃ表せない、すぐには決められない、それくらい悩んで悩みぬいて行動することはきっと大切だ。
三宅の大逆転
正直、クリスマス事件をきっかけに、誰を応援したらいいのか、わからなくなった。男が熱を出すという必殺を繰り出してきた京介にはマジで引いたし、それを素直に看病に行きたいと告げる仁菜はどこまでもタイミングの悪い子だと思った。そして、京介はいまさらそこで正直になり、もはや遅い…
みんながちょっとずつ失敗して、うまくできなくて。それでも歩き出したのは仁菜だった。どれだけ傷つこうが、自分の事だけじゃなくて周りの事を考えて、三宅との別れを選択して。そしてそこからまた片想いを始めるなんて…なかなか言えないよ?そんな仁菜だからこそ、男が手放したくなくなるんだ。
京介と三宅を比べたとき、もちろん、イケメンは三宅だと思う。引き止めたい気持ちをぐっとこらえて送り出してあげる彼は本当に優しいね。ウジウジしている京介とは大違い。確かに京介には優しさと男らしさがあるが、三宅のような一途さと決断力が足りないのだ。最後まで思いきりよくぶつかれなかった京介。それは結衣子を大切にしていこうとも決めたから。結局は、みんなが何を譲らず、どうしていきたいのかを決めてがんばっていくしか道はない。
もう一度片想いから始めようと思う
素敵。仁菜の決意が素敵。今度は思いっきり、三宅くんだけを大切にしていけるね。
最終話は沁みるね
隣のあたし。京介の隣でケータイを見て笑っている。理由は大切な彼氏からのメールが届いたから。
京介の隣にいるって意味じゃなくて、幼なじみの隣で笑いあい、ちゃんと大好きな彼氏もいる。そんなリア充な仁菜の姿を、最初から表現していたのかもしれない。単純に、家が隣同士で、ずっと京介の隣にいたかった仁菜を表現していた可能性もあるけど、この状況にもってきたいがために、これまでの葛藤があったのではないだろうか。そういうふうに考えると、巧すぎる。
みんなが一番に想われたくて、誰かに助けてもらいたくて…最後に決断するのは自分。三宅にとって最高のラストになったことは、嬉しすぎた。がんばってよかったねと言いたい。番外編の2人のその後も好きすぎる。今まで苦労した分、幸せがつまった物語。思いっきりニヤニヤしながら、おめでとうと伝えよう。「スプラウト」に比べたら最高すぎる恋だった。
大好きでも、何か1つでも掛け違ったらまったく違う物語になる。
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