イケメンだって恋には苦労しているのだ
くだらないことだって恋では一大事
梶雪斗。茶髪でややロン毛気味の高校生。フレンドリーで男女問わずに友だちの多い彼は、顔がいいことからモテていた。女の子だって寄ってくるし、そりゃーキャラクターだっていいよね。そんな彼が恋したのは地味―な女の子である梶ことり。今まで関わってきた女の子はみんな積極的で、恥ずかしがったり言葉が出なくなっちゃったりしなかった。自分に興味を示してくれない子だっていなかったのだ。振り回して遊んでやっているつもりだったのに、いつの間にか俺のほうが振り回されている。気づいたら…ツボにはまって出てこれない。モテ男の恋が始まる。
男は思っているより夢見がちな生き物。苗字も同じ、誕生日も同じ、血液型だって同じ…そんな共通点にドキドキする。運命なんじゃないか?って。困ったことに、雪斗もことりもかなりの不器用さん。ことりは不器用で臆病なタイプであり、雪斗は不器用だからこそ強引に突進するタイプだ。大好きな気持ちには変わりないはずなのに、すれ違いばかりの2人。そんなのどうでもいいじゃん…っていう部分を変に譲れない雪斗とことりはくだらないケンカをよくしている。第三者から見ているとくだらなすぎてしらけるようなものばかりだ。雪斗のごり押しも嫌だけれど、ことりのネガティブ思考と自分を守ってばかりの行動が本当にイラつく。それも雪斗のおかげで少しずつ変わっていってくれるので、気長に見守ってやったほうがいい。劇的な展開や横からかっさらわれることもないので、恋がそんなに簡単に成就するわけじゃないってことを学べる。
ぶつかり合いばかりで逃げていた結果、一度破局することになったときは驚いた。しかし、他に対抗馬が全然いなかったので、より戻すことは丸わかり。うまくできなくたって、伝えようとすることや、行動することが大切だ。
回り道ばかりしている
14巻もよく引っ張ったなーと思う。お互いに大好きで、惚れこんでいて、誰にも渡したくないのに、ことりだけでなく雪斗でさえも自信がないのだ。そして、初Hをのためにぐるぐる…10巻使ったことになる。本当に大好きな人と生身で触れ合ったら、いったいどうなってしまうの…?という恐怖感、高揚感。体を見せるなんて恥ずかしすぎるし、ボディラインが貧相で嫌われてしまうのではないか…?という恐怖も理解できる。雪斗だってがっつきすぎて嫌われたくないけど、大好きな人に触ったらどうなってしまうかわからないっていう恐怖もあり…ほんと、かわいいけどイラつくわ。
なかなか進展しない彼らがうまくいけたのは、周りの人たちが本当にいい人ばかりだったからだろうね。ナツメはことりの本当の友達になってくれたし、雪斗の周りにはあべっちもいて、友達もいて。もちろん、雪斗の金魚の分みたいな女もいたけれど、あの子は当て馬にも昇格できない性格の悪い女だったからね。本気で奪いにこれるほどの愛すべきキャラクターは登場していなかった。ナツメと雅弥に関しては…特に心配もないしね。当初は、ことりの乙女ゲーの“ヒカル”がポイントになって、関係性を引っ掻き回すような男の子が登場してくれる予感もあったんだけどね。なんと通信相手がナツメだったというのはおもしろかった。友達のいない女の子同士が、ゲームで出会ってそのままリアルにも最高の親友になれるなんて。素敵。
恥ずかしがってるわりに周りの事は見えていない
ことりも雪斗もお互いのことばっかりなんだよ。2人の世界で周りなんかお構いなしに見せびらかすからね。電車の中でキスするとか、いや他のお客さんの迷惑ですけど?みんながバスで待ってるときに、バスの外で公開告白とか恥ずかしすぎるけど?大好きだ!とみんなの前で言えるなら、普段から心の限り叫べばいいんだ。
雪斗は髪を茶髪から黒髪にしたり、ことりから離れたら茶髪に戻したり。いったい何なんだ?心を尽くすことが髪を染めることで示されるって、まさかのことりへの就職活動をする彼。女のために髪を切るのはアリとして、染めるのはよくわからない行動だった。また、自分で公開告白は大丈夫なのに、黒板に名前を書かれて茶化されるのは嫌いらしい。つまりは、他人に左右されるのが大嫌いだということ。彼のような男こそまさにワガママと言う。そしてそれを意図なく行っているから手が付けられない。愛しい奴なのだ。目立ちたがりなのかそうでないのか…ことりのこととなると、止まらない雪斗である。
一方のことりも、雪斗と出会い、ナツメと出会い、自分から声を出し行動できるようになった。雪斗のことをちゃんと好きだと言えるし、がんばって好きでいようとする姿勢・好かれるためにかわいくなろうとする姿勢が素敵だったよ。ウジウジしてた彼女は本当に嫌だったけれど、肝が据われば早いってことだ。
かわいそうな女ってモテるのか
少女漫画の定番は、モテ要素なし・お友達なし・夢も希望もなしという女の子が大逆転する物語。この作品においても同じような切り口で描かれており、ことりは乙女ゲーにハマる腐女子であった。恋をすると友だちもできて、自分に自信が持てて、どんどん生活が楽しくなっていく…らしい。
ただ、自分からがんばってなくても誰かが見つけてくれるなんていうのは幻想にすぎず、ちょっと現実離れした話になりやすい。ことりのことを雪斗は見つけてくれたけど、そうでなかったらずっとことりは腐っているだけだった。自分かわいそうって引きこもってたら、チャンスは訪れないのだ。確かにチャンスは誰であろうと平等にやってくる。それをつかめるかどうかが大事で、ことりはそのチャンスに飛びついて、自分の世界を変えていくことに成功した人物だと言えるだろう。自分なんかに友だちなんて…といつまでも腐っているような人は、幸せにはなれない。がんばった人にしか、楽しいことはやってこないのだ。雪斗とのことになるとダメダメなことりだが、ナツメと友だちになりたい…!とがんばって声をかけたことりはかっこよかった。
孤立した女の子に興味を持ってくれる男の子は多いのだよ。かわいそうとか、かわいがってあげたいとか、ギャップを俺だけが見つけたとか。だから、そこから変われるかどうかなんだ。悲劇の女ぶってるやつは困るが、それでも男は寄ってくる。そこからどう切り返すかは、女のしたたかさによるのだ。
甘酸っぱい初恋を思い出すように
初めて誰かとお付き合いをして、どうやって誘ったらいいのか、どんな話をしたらいいのか、迷ったことはないだろうか。地雷を踏みたくないのに踏んでしまったり、謝りたいけどどうやったらいいのかわからなくて…と、初めてだからこそウダウダ考えてしまったことだろう。そこで正直に、話し合いをしながら、関係性を深めていけるかどうか。これが大切だ。
もちろん、恋愛においては彼氏にも彼女にも余裕がなくて当たり前。焦ることはないから、ゆっくり進んでいけばいい。そういうアドバイスは、たいてい周りの百戦錬磨な友だちがアドバイスしてくれたりするものだが、「僕達は知ってしまった」の中に出てくるキャラクターたちはみな迷える子羊たち。手探りで進んでは戻りを繰り返しながらだった。
ちょっと気に食わないのは、これほどまでに引っ張った雪斗とことりの初体験。最後がマイルドすぎて、微笑ましすぎて、物足りなかったこと。感無量だろうけれど、おもしろくなかったよ…
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)