執念も度を過ぎるとかわいいもの
ダメな男を好きになる女は万国共通
ダメ男を好きになるっていうのは、女の性というかなんというか…嘘つきで、ずるい。なのに、やっぱりその人から愛されたいと思う女。彼には私がいる。私には彼がいる。それだけでいいはずなのに…振り回されて、捨てられて。ヨリはかわいそうな美人だった。寄ってくる男は、そういうヨリの美しさと弱さを嗅ぎつけているってことなのだろうか。
結婚していて余裕のある男ほど遊ぶんだ。きっとそうだと思う。ちゃんと帰る場所があって、それを大事にする人もいれば、スリルを求めてさまよう男もいる。そいつらにつかまったフリーの小鳥はかわいそうとしか言えないわ…この際、やはり女はしたたかになって、そんな輩の正体を見破るつもりで生きていかなくちゃならないのだろう。
ヨリのように、そんな東京のいろいろな男たちにうんざりして、40歳手前で人生に見切りをつける女性もいる。確かに、1人でいることは寂しいのかもしれないが、1人でいるときの自由度といったらハンパないものがある。誰かを想って生きていく幸せも、結局は自分の幸せにつながっている場合に成立するのだから、自分らしく自由に生きていける相手がいるほうが奇跡に近いわ。仕事もできるし、生きるに困らないと思えば、もういいか。
そこで出会う真木。ヨリを強烈に、執念深く、どこまでも追いかけてくる既婚者…またヨリは不倫の餌食にされるというの?でも、この人との出会いは、本当に情熱的で、衝撃的で…ヨリが初めて受け身ではなく欲しいと思えた、初めての男の人だった。
しかしそれは怖すぎる
でもね、いくらイケメンだからって、やっぱり真木はキモいと思うんだ。排卵日かどうかを確認のうえ情事に至り、そのうえ逃げても逃げても追いかけてくる。ヨリが突き放せなかったのは真木がかつての同級生だったから、というのもあるだろうし、「本当の好意」というものを知らなかったヨリが初めて出会った恋だったからだと思う。
それにしても、デブで色白・残念な学生であった真木の行動はとてもキモい。でも影響があるほどのものじゃない。ヨリが好んで買う缶ジュースを自分も買う・ヨリのいた空間に急いで行って香りを感じる・ヨリの歩いた足跡の通りに自分も歩いてみる・奥さんにヨリをそっくりな人物を選ぶなど…変態のはずだが、でもヨリにとってはそんなふうに自分に興味を持ってくれる人は今までいなかったわけで。
真木のしたことは確かに不倫。しかし奥さんだって不倫しかしてなかったからね。ダブル不倫だったわけだ。真木がヨリとちゃんと結婚したいと思って、奥さんに離婚を告げたあと、奥さんの転がり落ちていく姿は自業自得だったと思う。不倫相手に捨てられて、真木のことを確かに好きだったと発言するのは卑怯だし、真木がもしかしてヨリと出会えなくても、奥さんがもっと優しく夫想いの人だったら、真木は離婚を選ばなかったかもしれない。愛さなければ、愛してはもらえないのである。
離婚に差し当たって、別に愛があるわけではなかったはずなのに、「結婚」という言葉・重みがけっこうシビアで。結婚するときは、本当によく考えてから道を選ぶべきなんだなーと思った。
真木にとっては幸せ
ヨリと関われたこと。それが真木にとっては最大の喜びであり、自分の全部をぶつけられる相手がようやく自分の手元に来たのである。そりゃー嫌われようとも、近くにいれることが嬉しい。拒否されようと、金銭を要求されようと、それで本物のヨリと関係を続けていけるのならなんだって差し出したい。一歩間違えば犯罪レベルで、受け取る人がもしヨリじゃなかったら、初期段階で刑務所行きだったことだろう。それほどまでに、全部を捨てても、騙してでも、ヨリを欲しいと思ってくれた人が過去にいただろうか…?そう考えれば、ヨリが真木を愛するようになることは必然なんだと思える。真木は、苦しみこそが喜びであるとこの物語の中で言っているが、まさにそうなんだろう。
39歳になっても、こんなふうに情熱的に、心が揺さぶられるようなことってあるのかな…?想像もつかないことだが、何歳になっても、いつでも、全力投球できる何かを求めているものなのだろう。手に入れたいと思う・叶えたいと思う、そしてチャンスがやってきたら間違いなく早急に行動する。それが人生の鉄則なんだろうね。そして、苦しいからこそ嬉しいと言えたり、がんばれたりするのは、苦しみの先に喜びがあると知っているからこそ言える言葉であり、そう考えていつも生きているから。順風満帆に何もかも手に入れてきた人の挫折、そしてそこからの挽回。あるいは、何もなかったどん底から、1つの光を求めて歩き続けた人の挽回。いろいろなパターンがあるだろうけど、何事も逃げないことが重要だ。
モテモテの相手を持つことはつらい
真木みたいに、不倫はしてたけど奥さんだった人、心理カウンセラーとしての真木に恋する患者、そして花井さん…モテすぎる男って、不安になるしかない。真木は絶対ヨリしか見てないのに、いろいろな人がヨリを揺さぶって、いじめてくる。ヨリはそんなに弱くない。それが最後まで尾を引いて、いつ破局してしまってもしょうがない気がした。近くに女がいることを許してしまう真木もどうかしていると思うんだが…自分はヨリのことしか見えていない・昔も今も変わっていないということに自信があるからなんだろうけど、それだけでは済まされない状況を作り出してしまったのも真木なのに。焦らせてくれたよ本当に。
ラストでは、ヨリの見合い相手として颯爽と登場する真木に会うことができた。ここまで根回しから何から、とにかく姑息な手段の何もかもを使ってやってきたのだろう。そうまでして、手に入れたかった。それはヨリにちゃんと伝わったね。歯形つけるほど愛されるのは怖いのに、そうまでして手放そうとしない真木の愛情を向けられてみたいと思ってしまった女性ファンも多かったのではないだろうか。束縛されたくないのに、独占はされたいと願う、わがままな女性たち。
ヨリもね、誰かを愛することはすごく怖いことだと思っていただろうけど、真木なら絶対大丈夫だよ。愛されすぎて疲れることはあるかもしれないけれど…これからさきずっとそばにいてくれるんだと思う。こんな人、手放さないようにね。恋して、愛して、ヨリはまだまだ綺麗になっていくんだろうなーと思う。
ことばはなくても
この「姉の結婚」といい、「甥の一生」といい、作者の方は言葉よりも空気とか、表情とか、間とかを大事にしている気がする。そういうシーンがとても多かった。その行間でいろいろ考えさせられたなー。最終話までずっとひやひやしたけれど、最後も真木の強引さでまとめてくれて、いい終わりだったように思う。
愛する事も、愛されることも、自分に許してあげられるようになってよかったね。もちろん、1人で生きていくことも道であったと思うし、伴侶を見つけることが最終目的ではないとは思うのだけれど、満たされるために必要であったことは確かだろう。ここに至るまで長くて、途中嫌になることもあったけれど、うまくまとまってくれてよかった。全部をぶち壊してでも愛してくれる、そんな人…に出会いたい。
シングルマザーになった真木の元奥さん。今元気に暮らしているだろうか。人生には何度もスタートがあるのだと思うから、がんばって生きていってくれることを願っている。
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