友情と思春期男子のやり直しストーリー
今までにないものと出会い変わっていく
「園芸少年」というタイトルの通り、園芸する少年の話なんだろうと思い読み始める。てっきり園芸が大好きでハマっている少年たちの話でも描くのだろうかと思っていたのだが、逆にまったく園芸を知らない少年たちが草花の魅力を知り人として変わっていくという話になっていた。
人は見かけによらない
というけれど、草花を愛でるのは見た目とか関係なくできることであり、育てれば必ず芽吹くもの。そこに自分たちの今の生活のことや、今までのこと、そしてこれからのことを考えさせてくれる出会いをぎゅっと詰め込んだ、いい話に仕上がっている。青春やなー…と思うし、忘れたくない初心な気持ちを表現してくれている。
しれっと当たり障りなく過ごしてきた篠崎、見た目が完全に不良だが真面目で純粋な大和田、いじめをきっかけとして顔を見せられなくなってしまった庄司。みんな全然違うのに、植物の世話を通して変わっていく。一度相手の事を知れば、後は化学反応を起こすのみ。意気投合して、楽しくなって、一生懸命になる。そんな当たり前の事を改めて考えさせてくれるのだ。
1人でいたら絶対に分からなかった。誰かの基準をもとに決めた何かにそって生きていても、絶対にわからなかった。主体性を持って、友達を持って、園芸部の活動が進んでいく。ストーリーの中には、ガーデニングのこともちゃんと知識として書かれているので、そういう勉強もできるし、一石二鳥の漫画になっている。
登場人物たちの良さ
篠崎は…普通にイケメンだ。性格がおとなしいから、バカにされたり、なめられることもなかっただろう。要領よく順序よく。頭を使うのも体を使うのもほどほどにこなしてきた彼。何をするにも自然と他人の指標で考えてきた彼は、決して悪い奴じゃないんだけど、頼りにはならないタイプだった。中学校でバスケ部だったのも、運動部のほうがまぁ男子は普通だしなめられることがない、とかそういう理由だ。もともといい奴だし、実はちゃんと感情を感じ取ることができて、考えることもできるのに、中学校までは本当にもったいない生き方をしてきたようだね。大和田と知り合って、庄司と知り合って、どんどんピュアで一生懸命になっていく彼が何ともかわいい。もともとイケメンなので、デレっとしている彼を見るのはいい目の保養であった。はっきり言って庄司ともそんなに変わらないくらいイケメンだと思うんだけどな。
大和田に関しては、まさにギャップの男。目つき悪くて髪の毛逆立ってて服もだらしない。だけど、真面目で、優しくて、お年寄りや弱い立場の人を大切にする大和田。ここにも、「人は見かけによらない」ということが組み込まれている。彼の言葉はいつも篠崎と庄司を勇気づけてくれた。つまらない学校生活の中で、園芸を見つけてくれたのも彼だったし、いじめのトラウマで箱から出られなかった庄司を人前に出してくれたのも彼だった。彼なしには物語はすすまないのである。その顔で、学校を花と緑でいっぱいにしたいとか言っちゃうからね。
そして庄司。箱をかぶっている描写は、まさに自分をその世界に閉じ込めていることを露骨に表している。自分の顔をバカにされたことで不登校になってしまっていた庄司。でも蓋を開けたら超絶美形だったというのは、驚き。ここにも「人は見かけによらない」というメッセージがこめられている。どれだけ綺麗な顔でも、見せたくないと思う根暗もいるんだってこと。そして、根暗だからって行動しないわけじゃないってこと。庄司は本当は人と関わりたくてしょうがない奴だった。いいところがないなんて、そんな奴はいないんだろう。大和田がそれを彼に教えてくれた。
草花と自分たちを重ねてみる
しおれた草が水をもらって元気になる。たったそれだけのことに心臓がドキドキ鳴って感動してしまった篠崎と大和田。これまでの人生の中で、こんなに「おもしろい」と心から思えたことがあっただろうか。それに出会えて彼らは本当に幸せ者だよね。自分の心が鳴ってどうしようもないような出会いって、恋みたいなものだし、奇跡だと思う。
草花は正直で、素直だ。水を与えれば元気になり、与えなければ枯れてしまう。与えすぎても腐っていき、適切なタイミング適切に管理さえしてあげれば絶対に裏切らないで返ってきてくれる。それってすごいじゃん。やった分だけ必ず身になるってことにはいろいろあるけれど、これほど煩わしさがなく、すぐに返事をしてくれるものってなかなかない。
そんな草花に自分たちを重ねてみる3人。篠崎は、パシリに使われていたツンパカを見ていたのに、ただ傍観して救うことをしなかった後悔があった。大和田には、その見た目で損したことがたくさんあって、本当はやりたいと思ったこともできなかったことがあった。草花を通してお互いに出会えて、さらに庄司も加わって、あったかい友情が生まれたね。お互い本来はかゆくなるくらいピュアだった。ピュアだからこそ、迷って悩んでいたんだね。
庄司と大和田
篠崎は元来上手に生きてきたほうなので、主人公ではあったけれど、庄司と大和田たちのほうが苦労人であり、篠崎の中に変化をもたらしてくれた立役者だった。
超美形なのに不登校になっている庄司。本当の自分をさらけ出せないと悩んでいたけれど、大和田がいつもそれをぶち壊してくれた。顔がどうであれ、庄司が頭が良くて、一生懸命努力ができて、意外と暗い性格。それがお前だって言ってくれたとき、庄司は本当にうれしかったと思う。自分が気にしていることを気にする人って、実はもういないんだ。そしてコンプレックスなんか関係なく、受け止めてくれる大和田のことを信頼できるようになる。
庄司が言っていた言葉もまた、いいものばかりだった。「学校には、いわゆる不良のような見た目の人が堂々と通っているのに、僕みたいな人は通えないんだ」っていう言葉が、個人的にはぐっさりと刺さったなーと思っている。そういえばそうだよね。邪魔だと思われるような人がなぜか堂々としているんだ。矛盾って…こういうことだろう。また、超難関大学に合格することを条件に、1人で勉強している庄司。本当に、強い人物だよ。頑張り続けられるということは、必ず役に立つはずだ。そのことに、自分1人だけでいたら気づけなかった。誰かが教えてくれなかったら知ることもなかったね。大和田と篠崎がいてくれて、彼はこれからいくらでも羽ばたいていける可能性に満ちている。
要所で、不良のことを悪く言う庄司。だけどそのたび「大和田くんは違うとわかっているけれど」とちゃんとつけるから、正直であり、優しいんだなと思う。そんな彼だから、大和田も大事にしたくなるんだ。
生きていくのがおもしろくないのは誰のせい?
…自分のせいだ。楽しもうと思ってないくせにおもしろくないって言っている。何かやりたいって思っているのに考える気がない。そうやって一生懸命にやらないから、自分がどんどんつまらなくなるんだよ。「やらされる」教育ではそういう子どもがたくさん輩出されると思うんだよね。「自分でやる」教育にしていくこと、選択肢と可能性を与えることが、大事なんだろうね。自分でそのことに気づけたら、あとはどんどん進んでいくだけ。そうすれば自分のやりたいことも、友だちも、自然と目の前に現れるんだろう。園芸少年たちがそのことをストレートに伝えてくれている。
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