短いお話の中で爽やかに駆け抜ける少年たち
絶対に関わらないはずの人と関わる
人は見かけによらない
その言葉から始まるこの物語。タイトルからして園芸をするらしいことがわかっているので、見かけによらず花を育てるボーイズたちのお話なんだろうな~とぼやっと想像はしていました。読んでみたら、あらびっくり。思い描いていた通り意外なメンツで園芸部に入る奴らのお話だったわけですが、なぜか何度も読みたくなってきてしまうストーリー性。そして読むたび、彼らの考えていることが青春時代に大事なことだったりして、妙に胸が熱くなってしまう。そんなお話でしたね。
主人公は、要領よくてきとーになんでもこなし、比較的顔もイケメンな篠崎。そして、強烈に強面だがやさしさと真面目さでできているような男・大和田。さらに、箱をかぶって顔を見せないがよくしゃべる庄司。キャラクターのまったく違う3人が、なぜか植物を通して意気投合し始めます。1つでもいい。共通項があればこれだけ仲良くできるんだなーと思えるし、男友達っていいなーって思わせてくれます。友達ってどんなもの?どうやって作るもの?素朴な疑問だけれど、1人でいたら絶対にわからないその世界。園芸部を通して世界がどんどん違って見えていく、3人の性格が変わっていくことが何とも微笑ましいです。がんばるってどういうことか、育てるということがどういうことか。深く考えるとそういう哲学まで考えてしまいます。ちょいちょいガーデニングの知識も織り交ぜつつ進むので、草花好きな人には二度おいしい作品に仕上がってますね。
3人のキャラクター考察
まず篠崎。要領がよく、てきとーに頭を使い、てきとーに何事もなく済ませてきた彼。中学校でバスケットボール部に所属していたのも、運動部に入っていれば何となくなめられないから。そんな彼が大和田と知り合い、草花を育て、庄司の強さに触れ、どんどんピュアになっていく様子はかわいらしかったです。登場のころの彼には、表情が全然ないし、楽しそうではない。それが、何気なくコップに残った氷を鉢植えにあげたところから、心臓のドキドキが始まっています。ここで、なぜコップの氷だったのかなーと考えると、いつもの日常であってもなくても困らないようなもの・かつ形あるもの(氷)が流れるように形なきもの(水)に変わっていくせつなさ。しかし何気なく捨ててしまっていた「いらない」と思っていたものが、何かの栄養となり輝き始める奇跡・それに対する感動。篠崎にはこういった若いうちにしかできないような気付きの世界が広がっています。ちょっとどうでもいいんですけど、描写的に、ちゃんと牛乳・コーラを飲みほしてからあげたのかどうか、気になってしまいました。
大和田は、強烈な第一印象で登場。しかし几帳面さ・やさしさ・真面目さでできているとこであると分かってきます。焦りや照れ隠しがとても正直で、おじいさん・おばあさんへの優しさを忘れないピュアボーイ。
かんがえたらおれ草がダラーンからピンとなったことがこの学校に入って十日間でいちばんおもしろかったし
おれも同じだ
感動を共有できる仲間に出会えたということが、お互いにとって原動力の1つになっているでしょうね。学校を花と緑でいっぱいにしようという言葉、女子か!
そして庄司ですね。箱をかぶっていて、え?なんか違う漫画と同じ…?という感じもしながら、まさにネガティブの塊のような男の子。彼が篠崎・大和田と関わり、草花と関わるようになったことで、自分の弱さと向き合い、心の闇に勝とうとする。これが一番いい話でしたね。彼が実は超超美形であるというオチは想定内です…!
わかりにくい世界の中で唯一信用できるもの
草花は裏切らない。それが3人にとっての根本にあるような気がします。どんなに枯れていたとしても、水を与えることで生き返る。
なんて素直でわかりすい
と表現されているように、煩わしいものが植物たちにはないんですね。パシリに使われるツンパカが登場していますが、彼は篠崎にとっての闇。事なかれ主義でどうでもよかった他人のこと。救おうとも思わなかった他人のこと。しかし園芸部に入った彼なら、もしかしたらツンパカを救うかもしれない。そういった期待もさせてくれます。
また、大和田というわかりにくい奴の本当の良さは、やはり知り合って仲良くならないことにはわかりませんでした。大和田が本当は恥ずかしがり屋で、とても純粋で、人のために頑張ることができる奴だってこと。一番信用できるものは、知ろうとしない限りは手に入らないということですね。その優しさに、庄司も救われていました。見てくれがどうのこうのではない、行動で示してくれる大和田は、リアルな世界においても確実に信頼を勝ち得るでしょう。一瞬ボーイズラブも出そうなくらい、彼らの友情は愛あるものだなーと思いますね。篠崎も言ってたけど、大和田は人前であまり笑わないほうがいい。それに、いいところは俺たちが知ってるぜ…!みたいなね。
庄司という人
超美形の顔を持ちながら、それを馬鹿にされて学校へ行けなくなった不登校の男の子。自分の部屋だけが彼のテリトリー。それ以外では自分をさらけ出すことができない…。彼はそう言っていたけど、初対面の篠崎・大和田にかなりぺらぺらしゃべってましたよね。この時点で、本当は人と関わりたいと思っているということがもろバレでした。かわいい奴。
保健室で勉強し、超難関大学に合格することが条件である庄司。そんな条件を課せられた彼をすごいと言う篠崎。篠崎にとってみれば、そうやって1つのことを頑張り続けることは今までなかったことなので、衝撃の大きいものだったのでしょう。(このあたりの篠崎はすでに表情が緩みまくっていて、丸くなったなーと思いますし、あれほど怖いと思っていた大和田のフォローもしっかりしています。変わりましたね~いい方向に。)
庄司ははじめに、他の生徒に不快な思いをさせる不良が学校に通い続けることが理解できないと言っていたので、大和田が心配になりましたよ。大和田はまさに見た目がその危ない部類に入っていますからね。篠崎を介して、お互いの言い合いを介して、最後に箱を取って生身の顔で会話できるようになった庄司は、いい顔でした。顔をかくしている箱は、まさに自分を閉じ込めるという表現。不良への恐怖心・自分を表現することへの恐怖心がとれて、箱をとれたときは、かるーく感動しました。
つまらない学校生活を楽しくさせるもの
案外と、生活を楽しくなくさせているのは自分自身なんですよね。楽しもうと思っていない
何となく過ごしていることが良くない。なんでもいいから一生懸命になれること、できれば心が揺れて感動できるようなことがいいだろう。彼らを見ていると、日ごろの煩わしいものが一瞬どこかへ飛んで行って、何気なく見逃していた通勤・通学途中の道端を除いてみたくなる。さぁ今日はどんな楽しいことが待っているだろうか?そんな気持ちで楽しいことを見つけたくなる。園芸少年たちにそんなパワーをもらいます。
人生いろいろあるけど、つまらないなーと思っているだけで何もせず流されているのって相当つまらない。それより、どうでもいいことでもがっついて楽しんで、うれしかったり、悲しかったり。喜怒哀楽を自らつくれる人になって自分をもっと楽しませてあげたいですよね。本気になったらなんだって特別なことです。とりあえず花でも育ててみるか。
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