ライトとLの頭脳戦にドキドキが止まらない
死神レムの気持ち
映画「デスノート」の後半にあたるこの物語。死神の想いが悲しくて、せつなくて、ライトを止めなくちゃ!と思ってしまう映画だった。死神ジェラスは、家族を殺されて独りぼっちのミサをずっと見守ってきた。ADに殺されかけているミサを救うため、ジェラスはミサを襲ったADの名前をデスノートに書き込み、ミサの寿命を延ばす。掟破りのその行為により、ジェラスは灰となって無に返された。代わりにミサを見守ってほしいと頼まれたレムは、ミサのもとにデスノートと共に舞い降り、ミサにデスノートの使い方を教えるのである。
ミサは家族を奪われたにもかかわらず、奪った犯人は殺されることがなかった。そのことをずっと悔しいと思ってきた彼女。そんなとき、キラが犯人を殺してくれたことで、ミサはキラを神格化する。キラのために生きたいと思うように…怖い。でもそれくらい、感謝したい人間だったいるんだろう。犯罪者の中にはどうしようもなく更生できないような人間もいて、そんな人間ですら平等に社会に戻されることがある日本。殺したいと思っていても、殺すことは人道的でないという理由から、生きることは許される。そんな世界を許せずにいる人も、この世界のどこかにはいるのかもしれない。
ジェラスが自分の存在を失ってまで守りたかったミサという人間。そのミサを見守るレムは、その行為がジェラスを弔うことにもつながっていると思っていたのではないだろうか。それにしても、漫画の中だけだと思っていた死神を、CGでここまで忠実に表現できているのは、本当にすごいと思う。レムといい、デュークといい、残酷さとフォルムのデカさが原作とよく合っていて、デスノートのワールドをしっかりと表現してくれていた。
ライトの冷酷さ
ライトがとにかく頭が良すぎる。そして、残酷だ。人を殺すような人間は殺されるべき。犯罪を犯すような人間は消されるべき。人の命を何とも思わず、デスノートに名前を書き入れ殺していくライト。恐ろしい人間だ。そうとは知らない、彼女や父親、妹だって、大事な家族であっても許せないと思ってしまったことだろう。
ライトが、たとえその頭脳で警察の中で成り上がったとしても、悪を完膚なきまでに叩きのめせるわけではない。それはしょうがないことだ。だけど、ライトの中ではそれが許せない。相当な完璧主義者なんだよね。自分の能力をもってしても支配できないような世界ではあってならないとすら、考えていた。シンプルに、悪は殺す。生き残るのは正義のみ。一番合理的で、血も涙もないような方法だ。
前半でこそ、まだライトの中には正義があったと思う。でもそれも自分を守るための殺しを始めたところから一気に崩れ始める。彼女を殺し、ミサという協力者の寿命すらもてあそび、ついには死神すら死に追いやる。完璧なまでに考えられたその作戦。デュークもさぞ楽しかったことだろう。あの悔しそうなレムの表情が忘れられない。ミサを絶対に守れと言ったのに、ミサが記憶を取り戻せば確実に自分の命を使ってもう一度死神の目を手に入れるはずだと踏んで、行動させたライト…残酷すぎる。しかも、ミサはライトを心の底から愛しているという気持ちだけが残るようにコントロールされて…物語が終わったあとも、すべての記憶を失ったミサが、ただライトを愛してくれている。そのせつなさといったら胸が苦しすぎた。わざわざコントロールできる部分で、ミサの心をできるだけ傷つけないように、ライトを好きな気持ちにすり替えさせるその巧妙なテクニック。守るために、憎きライトの記憶を残さざるを得なかったレムの気持ちが痛すぎる。
Lの想い
Lは容赦ないイメージだった。キラという史上最悪の犯罪者を検挙するために、怪しいとみた人物には徹底的にマークし、あらゆる疑いが晴れるまで絶対に気を緩めない。漫画でもそうだったが、頭脳はライトと同等で物事に対する冷めた考え方も良く似ている。だけど決定的に違うのは、誰かのために、自分が死を選べる、というところだ。
自分にずっとついてきてくれたワタリを失ったとき、Lの悲しみはいかほどのものだったか…親というものと知らないLが、
夜神さんは父親として立派だったと思う
なんて言うのは本当に心に刺さるというか。Lはあの真っ白な表情からはうかがい知れないほど、情に熱いところがあるんだろうなと思えた。ライトのことをどうしても信用できない。だから、自分の命をかけてライトが犯人であると証明してみせた、その心意気が素晴らしすぎる。
Lが憧れた家族という形。あたたかなもの。そのすべてを持ちながら人殺しで世界を変えようとしたライト。Lにとって本当に天敵だったなと思うね。表と裏がちょうど反対になった感じの2人。ライトは表向き社交的で印象が良いが、中身は冷酷そのもの。一方のLは見た目陰気でゾンビかっていうくらい生気のない印象を与えるが、中身は熱く情も持ち合わせている。そんなLだからこそ、Lのストーリーも映画化されたんだろうなと思うよ。Lが死ぬまでの遺された23日間をどんなふうに過ごしたのか。本当に心置きなく逝けたのか。気になるよね。
デュークの裏切り
「やっぱりライト、お前は最高だ。」こんなふうにデスノートを活用する人間も今までいなかったんだろうね。デュークは邪魔することは一切せず、ただライトのすることを興味深そうに見ているだけだった。デュークが止めてくれるような存在ではないってことはわかっていたけど、ジェラスやレムのような死神もいるってことを考えたら、少し期待してしまっていた自分もいた。最後には何らかの形で救ってくれるのかもしれない・ライトという人間に何らかの感情を持ち合わせてくれるのかもしれないって。
だけど、そんなことは一切なくて。死の前に絶望し、デュークに頼らざるを得なくなってしまったライトを、デュークはあっさりと捨てた。寿命を延ばすことは禁じられている死神。殺すことは正しいんだもんね。
少し回りくどく考えてみると、デュークにも優しさがあったかもなーって思う。だって、あそこまで追い詰められて、どうしようもなくなってしまったライト。自分の父親の名前すらデスノートに書き込もうとした人間。そしてそんな息子に銃を向けなければならない警察官の父親。そこでもしデュークが彼を殺していなかったら、どうなっていただろうって…誰かがライトを殺さなくちゃならなかった。それをわざわざデュークがやってくれたんかなーって思える。ライトにとっては裏切りだったかもしれないけど、そばで見守り続けてきた、デュークからライトへのせめてもの情だったとも言えるラストだ。
自分の息子を殺さなくてはならなかった父親
ライトはキラに殺された。そういうことにして物語は終わっている。父親もまさか息子がキラそのもので、最後は死神に殺されたんだよ、なんて娘や妻に言えるわけない。そうでなければ家族の心を守れないからだ。どれほど、辛いだろうね。警察やめたくなるかもしれない。それでも仕事をしているお父さん。きっと、Lが贈ってくれた言葉に支えられているんじゃないだろうかと、勝手に思っている。いい俳優さんだし、表情がうまいなー…
デスノートは問題作っぽいけど、内容は相当考えさせられるものだし、何よりLとライトの頭脳戦がすごすぎて、楽しい映画だ。人の命の重み、家族や大切な人への気持ちなど、いろいろな感情を感じながら、デスノートがもし降って来たらどうしようかと考えてしまう私なのであった。
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