原作を凌駕したラストに納得
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主人公月の永遠のライバルはやはり「L」
原作では思ったよりあっけなく亡くなってしまった探偵L。しかし、デスノートの秘密や誰がキラかはかなり早い段階から目星をつけていました。それがゆえに、原作で最終的に主人公夜神月を追い込んだニアより、Lの方を夜神月の真のライバルと考えているファンも多いものです。
この映画では、最初から最後まで夜神月とLの対決にフォーカスされており、原作のデスノートのルールを一切改変せずに、ルールを使った攻防戦を二人が繰り広げます。原作では亡くなってしまうはずのLが映画では亡くならなかったのは、デスノートのルールを逆手に取り、自分の命をもって悪を封じる方法を思いついたから。ここにLの正義感を感じると同時に、真のライバルはこの二人であると感じているファンには「Lが夜神月を追いつめてほしかった」という願望を満たしてくれる、納得いく構成になっています。
警察官の父と正義について激論。父の言葉が胸に響く。
自分の父親が警察官であり、自分を追う立場の中で、家族を欺き続ける夜神月ですが、原作では父親死亡まで月は「いい息子」を演じ続けます。しかし、映画ではLの命がけの作戦に同意した月の父夜神総一郎が、自分の息子が本当に犯人か追いつめることに一役買い、自分をデスノートで殺害しようとする息子を目撃してしまうのです。自分の息子が実はキラだったと知り、法律とは何か、正義とは何か、息子の死の直前に息子を抱きしめながら語る父と子。この演出は本当に胸を打ちます。正義への基準が違うとはいえ、父も息子も、本来目指していたのは犯罪はが起きない、被害者を出すことがない理想の世界だったはずです。方法を誤った息子に、「人は完璧ではないが、完璧であろうと努力した積み重ねが法律なんだ」と諭し、息を引き取る息子に「馬鹿野郎・・!」と涙するシーンは、父親だからこそできたことです。この原作ストーリーを改変したシーンは、ライバルLが月の罪を断罪するシーンより重く、愚行を犯した息子をそれでも愛している親心を感じ、最後の最後に月を諭すのが父であって良かったと思えるシーンです。
松山ケンイチさんのユニークな話し方がLの個性を膨らませた。
探偵L役は、今やどんな役もこなすカメレオン俳優として有名な松山ケンイチさんですが、原作に忠実なL特有のしぐさのほかに、しゃべるときに文節の中途半端なところで区切って話す無機質な話し方が、Lのミステリアスなキャラをさらに肉付けしています。松山さんのオリジナルの演出のようですが、ゆっくりとした語り口調であるにもかかわらず非常に理論的で結論を追いかけるような語り口調は、Lの聡明さや頭の回転の速さをよく表しています。
原作のLもユーモアが分かる部分があったり、時折笑顔で話すところも表現されていましたが、この作品のLは夜神月の父総一郎に、自分は父親を知らないこと、総一郎を父としての対応を称賛するシーンがあります。天涯孤独で身内らしい身内が執事のワタリくらいしかいなかったLの、家族への憧れのような心情が垣間見れるシーンは非常に貴重と言えるでしょう。自分の死も迫る中、いつものように妙な部分で文節を区切った話し方で、少しほほえみを浮かべて総一郎と会話するLが、最後の最後に親の愛情のすばらしさに感銘を受けたことに救いを感じます。
会話の最後に総一郎が敬礼をすることで、一瞬少年のような顔を見せたLを最後の最後まで優秀な探偵として表現されており、Lのストイックなイメージが崩れなかったのも見事な演出です。
主要登場人物全員がデスノートに書かれるLAST NAMEの可能性があった。
一体誰が最後に名前を書かれるのか?原作を知っている人でも予想がつかなくなってしまったのは、ノートのルールをしっかり熟知したうえで「先にノートに名前を書かれた人は後から書かれても死なない」というルールに目を付けたLの行動でしょう。これには度肝を抜かれたファンも多く、また、Lの性格上そのルールを知っていたらその行動をとったろうと、原作を大幅に改変したストーリー展開であったのも関わらず、多くのファンに支持されています。むしろこの行動でLの男気に人気が集まったともいえるでしょう。Lの行動で、最後の名前を誰が書くのか、最後の最後まで見逃せない展開になりました。これだけのオリジナルエピソードを投入しても、全く原作の世界観が崩れてない上に、夜神月やL、月の父総一郎の魅力を存分に引き出せるストーリー展開になっている点はこの映画の秀逸な点と言えます。
しかしこのデスノート、夜神月が自己顕示欲を出さずにそこそこ犯罪者をさばくのに使用していたら、ノートの使用者を割り出すことはほぼ不可能だったでしょう。人の命すら思うようにできる力を持った時、どんな天才でもその思考を誤った方向に使ってしまう事実。さみしい声で父に自分の正義感を理解してほしいと懇願していた夜神月の最期の叫びが、この映画のテーマかもしれません。
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