本を手にするってことは価値あることだなーと思える
イラストが加わることで厚みを増した世界に
絵がね、いかにも小説から漫画になった、という雰囲気だ。なんで小説から漫画になる作品って、絵が似ているんだろうね。栞子さんはかわいいし、ビブリア古書堂の雰囲気も好きなんだが、ファンタジーではない場合、躍動感があんまりない。でもその絵がそれっぽさに繋がっているし、ストーリーの面ではおもしろいので、小説の内容により厚みが加わった印象になる。
「ビブリア古書堂の事件手帖」は、そりゃーもう人気の小説だった。古書堂で店主を務める篠川栞子、そして近くに住む五浦大輔といういかつい男を主人公に、古書にまつわる事実を紐解いていく。さすがにセリフだらけ。でもそれを読まなきゃ始まらないのが事件の真相。推理系の「名探偵コナン」くらいが読めるなら、同じように読み込んでいけるだろう。
栞子はとにかく古書に対する知識がハンパなく、その内容の理解度、歴史的背景や発売された当時の状況理解だけにとどまらない。それを基にした“読者への考察”がすごい。っていうか、古書を持つ人っていうのは、得てして言葉遊びというか、推理戦が好きなんかな。そして、その本がどう扱われたかによって、意味を推測するって…楽しいんだこれが。
持ち込まれる本たちは、それぞれの年月を経て今ここにある。この本を読んでくれた人がどんな人なのか、そしてそんな本がこれから欲しいという人たちがどういう人物なのか、なぜかドンピシャでハマっている。
人と人との出会いがあるように、人は本との出会いもある。そんな気持ちにさせてくれるから不思議だ。
本が好きなのに読めない男
本が大好きだった少年。でもおばあちゃんに叱られたことがトラウマになって、本を読みたい気持ちがあるのに、本を読みだすとアレルギー反応が起こるという、奇妙な体質になってしまった。大輔は、体ががっつり体育会系。まさか本が好きだなんて言ったら笑われるレベルでデカい図体だ。そんな彼が栞子と出会い、古書堂で働かせてもらう機会をえることができた。運命って素敵。好きだったものを仕事にできるって、最高だなーと思うよ。しかも、持ち込まれる本たちの謎が次々と新たな謎を呼び、思わず確かめずにはいられない気持ちにさせてくる。
しかも、始まりは亡くなってしまったおばあちゃんの本。彼の本とのわだかまりの原因でもあり、トラウマを解くためのきっかけでもある。おばあちゃんがあの時僕を叱ったことには…理由があったんだ。なぜか?を追求することって大事だと言われているけれど、ここまで楽しくなれるってなかなかない。解いてはならない・秘密にしたかった気持ちも明らかにできたりする…古書って魅力的。
栞子と大輔の関係は、あまり発展はしなさそうだけど、お互いを良きパートナーとして本屋さん営業は進んでいきそうである。古書との語り合いは延々とできる栞子だが、人との直接的なコミュニケーションスキルは乏しい。そんな彼女が大輔をきっかけに世界を広げていく姿は、漫画のほうがわかりやすいだろう。大輔自身も、前から憧れていた栞子さんに近づけただけでなく、念願だった本とのかかわりを持てていることがうらやましいね。好きなことを仕事にできる、そのありがたみを忘れちゃならないと思う。
大輔とおばあちゃんのエピソードが秀逸
本当によく作り込まれているエピソードばかりなのだが、大輔の働く場が見つかるきっかけとなるこの話は、中でもよくできていると思う。
おばあちゃんが大切にしていた夏目漱石の本。亡くなった後、プレミアがつくかも、なんていう理由で査定に出した大輔の母。そこからまさか、おばあちゃんの不倫の末にできた子どもだったなんて…お母さんには絶対言えないし、親戚にだって言えない。でも、おばあちゃんにだって大好きだった人がいたこと、守りたいものがあったこと、そしてその血を受け継ぐ自分がおばあちゃんと暮らせたこと…すべてにありがたみを感じてしまうね。自分の愛する人とよく似た子たち。あの人の代わりにそばで見守りたい…乙女なおばあちゃんが想像できて、苦しいような恥ずかしいような気持ちになる。
誰かがおばあちゃんのために贈った本。たったその1冊でも、見つかれば誰かにばれるかもしれないと恐れたおばあちゃん。大輔から本を遠ざけたこと、後悔しているかもしれない。そう思えば、大輔は何も言えないね。どうか秘密のまま、栞子と大輔が、時々その本を見て思いを馳せたい。複雑なようで温かさのあるエピソードが秀逸。
こんな感じで、本を書いた人の気持ちだけでなく、本を手に取った人の気持ちにまで焦点を当てていくこの物語。手元に残る本って…いいよね。いつでもそこに、その世界があるって感覚で癒される人がいるんだよ。言葉ってすげーなーと思うわ。
命の危険だって時々あるらしい
「晩年」をめぐる不穏な空気。温かい話ではなく、マジで殺されるかどうかという話まであった。古き物に関わる秘密は、誰かが誰かのために残したものであることもあるが、誰かからが何かを奪ってまでしまっておこうとするパターンもある。大庭の野郎が栞子さんをケガさせたりして、ひどいもんだ。そんなにその本を手にしたいんですか…そりゃーね、誰かを幸せにすることがあるなら、不幸にすることもあるのが物事の摂理。たかが本、されど本である。それほどまでに追い求める人も中にはいるのだ。コインのコレクターとか、ブリキのおもちゃコレクターとか、一般的な理解しかない人にはあまり理解できないものがそこにあるのだろう。その犯人の狂人ぶりは、漫画だからこそ伝わるキモさである。ただ、そういう人に限って、物事の本質を理解できない人が多いよね。
結果的には、まさかの大輔大活躍。栞子さんから学んだことと、今まで抑圧されていた文学的興味が合わさって爆発した大輔。その推理力、まさに栞子の弟子。物語を読み解き推理するという力は、できたら欲しいものだよね。栞子さんがあんまり大輔を信じてなかったことがわかってしまって残念ではあったけど、新たな2人のステージへのきっかけとなったらしい。また新しい2人の関係性が始まるが、古書がそれをつないでくれることは確定していることなので、どんな話になるだろうとワクワクしながらまた読み進めるのだ。
漫画からスタートして小説へ
漫画から読み始めれば、小説になったときに情景がありありと浮かぶようになる。そうすると活字への苦手意識も減る感じがするね。漫画だけではわからなかったことが、文字に起こされて理解できることもあるし、言葉だけでは状況理解しづらいことも、絵を思い出すとすんなり受け入れることができたりする。相乗効果ってすごい。
ビブリア古書堂での出来事は、割と少年漫画の雰囲気もあり、少女漫画的なときめきもある。基本的には短編集のようになっているが、登場人物たちは経験を重ねてどんどん深みのある人物になっていく。本を読む人ってめんどくさい気がするけど、読んだら絶対楽しい。そういう気持ちにさせてくれる物語だ。個人的には本は好きなほうだと思っていたのだが、その世界にトリップするだけじゃなくて、なぜ今これが描かれるのか、誰に向けられているのか、そして自分が何を得るかまで考えて読めたら、相当頭のいい人になれんじゃないか?…やってみようと思う。新刊もいいけど、古書も手に取れるくらいになれたら、カッコいいよね。
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