古書をめぐる人々の人生を紐解く穏やかな推理戦 - ビブリア古書堂の事件手帖の感想

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ビブリア古書堂の事件手帖

4.254.25
画力
4.38
ストーリー
4.25
キャラクター
4.13
設定
3.88
演出
4.00
感想数
4
読んだ人
4

古書をめぐる人々の人生を紐解く穏やかな推理戦

4.54.5
画力
4.5
ストーリー
4.5
キャラクター
4.0
設定
4.5
演出
4.0

目次

小説の世界観そのままに

あまりにも人気だった小説のコミックです。ビブリア古書堂で店主を務める篠川栞子と、近くに住むプー太郎の五浦大輔を軸として、古書を巡って静かに巻き起こる事件を解決させていく物語になっています。小説の感じをそのまま残して絵をつけた感じなので、言葉がめっちゃ多いです。そのため、言葉を読んで理解して推理していくのを追いかけていくだけでけっこう疲れる作品のようにも思います。だけど、説明・推理モノが好きな人なら、それほど苦なく読み進めることができるでしょうね。実際に鎌倉に存在する本屋さんを舞台としているだけあって、妙にリアルな雰囲気と優しい空気が流れていきます。推理系なので、基本的に動きは少なく、栞子のたぐいまれなる古書の知識を武器に、大輔やそのほか悩めるお客さんとの対話の中で、事件の真相を紐解いていく。そんな物語になっています。

ビブリア古書堂に持ち込まれる古書は、年月が経過している分だけ、それを手に取った人の気持ちも詰まっているような気がしてきます。その古書が売りに出される理由、買いたいと思う人の理由や抱えているモノ、いろいろなものが本に登場する言葉とともに語られ、隠そうとする秘密をも栞子たちによって暴かれていく。古書であるから、すでにもうどうしようもない問題だってあるけれど、紐解いていくことでその思いに触れ、その古書を手にする人がまた1つ知と気を深めるような。そんな優しい物語です。

大輔という人間

大輔は、図体の大きい人なのに、心は本好きなのだという。好きというか、憧れの気持ちを持っていて、本と向き合いその世界を理解したいと思っている青年ですね。だけど、小さなころにおばあちゃんの大切にしていた本を手に取ってこっぴどく怒られ殴られたことをきっかけに、本を読もうとすると具合が悪くなるという、何とも困った反応ができてしまった…。そのせいで文学青年にはなれず、自衛隊にでも入ったほうがいいんじゃないかというくらい体格のがっしりした運動部系の見た目に成長。そんな彼が、家の近くにありながら入ることのできなかったビブリア古書堂に本を持ち込むことになる。亡くなったおばあちゃんの隠してきた謎とともに。この始まりが、何とも言えず魅力的だなーと思います。おばあちゃんがいったい何を隠していたんだろう?そして大輔がひそかに憧れていた、ビブリア古書堂の美人店主、栞子とどんな関係を築いていくのか?ラブ要素をほんのり香らせて、主軸は古書をめぐるとっても真面目なストーリー。確かに字面を見ながら想像するだけではわからなかった大輔の心情、栞子や依頼主たちの感情が、イラストがばっちりハマって読みやすくなっているように思いますね。人見知りでコミュニケーションスキルのあまりない栞子が、持ち込まれる古書の謎を解決していくにあたって、大輔の存在がだんだん大事なものになってくるのがちょっと嬉しいですね。プー太郎だった大輔にビブリア古書堂で働くという仕事も与えてくれて、本という大輔の憧れも栞子が媒介して叶えてくれて。こんな楽しい働き口を見つけられた大輔は、幸福な人だなーと思うな~。

おばあちゃんのエピソード

古書ごとに短編集のような構成になっているけれど、最初のエピソードが一番印象的ではないでしょうか。大輔がビブリア古書堂で働くに至る前のお話。おばあちゃんの夏目漱石の本を「プレミアがつく古書なのかもしれない…」とお母さんに言われて査定を求めにビブリア古書堂で、なんとおばあちゃんの不倫の末にできた子どもが自分の親であったことを知る。本当は好きな人がいて、その人とは結ばれずに、約束された相手と見合い結婚をしたおばあちゃん。もちろん結婚した相手の人との間にも子をもうけたが、自分の愛する人の血が流れている子どもを、どうかあの人の代わりにそばに置くことを許してほしい。死ぬときはどうかあの人の面影を感じていたい。そんなおばあちゃんの気持ちが見えてきて、あぁ自由恋愛で結婚できる今の世の中、こういう人たちの苦労の末にできたんだな~ってしみじみとしてしまうね。1冊の本になぜか書かれた「夏目漱石」の文字。誰かがおばあちゃんに送った贈り物。その1冊を隠すためだけにそろえた全巻。これはどうか秘密のままで。栞子さんと大輔だけの秘密のまま、そっとおばあちゃんを優しく思い出したい。1冊の本に、これだけの気持ちが詰まっているんだなーって思うと、とにかく本を大事にしたくなるよね。本を書いた人の気持ちをよく考えるけれど、本を手に取った人の気持ちにフォーカスして、それを本の内容・背景もあわせて理解しようとすることで、これだけのことが見えてくる。このあたりの構成、ストーリーのひっくり返し方が秀逸ですね。

唯一危険な空気の流れる大庭さん

唯一、危ない空気が流れていたのが大庭さんが追い求める「晩年」という本の初回限定本でしたね。栞子は登場からいきなり足のケガにより病院に入院していたのですが、その原因となった相手すらも、本にまつわる人だった…!栞子さん、どんだけ古書がらみで苦労をするのやら…この大庭さんは、その本を手に入れるためだったらどんな非道な手段にも打って出るという危険人物で、人を殺すこともいとわないというところまで考えている人間。本には人を幸せにする力もあって、逆に不幸にする力や、狂わせる力もあるのかもしれないね。このお話は、小説ではあまり伝わらなかったかもしれない、犯人の狂いっぷり、恐怖・躍動感・緊張感みたいなものが漫画でしっかり表現されているようです。画があるとこういうところで違いが出るのね。

しかし、大庭さんの策略にはまらず、栞子さんみたいな推理力をみせた大輔には感動させられましたよ。栞子さんと話すうち、いろんなことを覚えていったということと、もとから文学少年になるはずの素質があって、物語を読み解く・推理する力が発揮されたんじゃないかなーと感じました。そう思った矢先に栞子さんが自分をそんなに信用していなかったのかとビブリア古書堂を辞めてしまい…え~…って上がったテンションがっつり落とされて。そしてそこからまた大輔と栞子の新たな関係が始まっていくっていうストーリーを見せられて。まんまとやられた~!!って思いました。一喜一憂させるためにわざとやったのかっていうね。

小説も併せて読みたくなる

小説・文庫が面白くてヒットし、映画や漫画になるっていうのはよくあることなんですけど、漫画から読んで、そこから小説も読みだすと、小説の世界が漫画とうまくリンクしてくっきりと思い描けるので、楽しいんですよね。漫画では少年誌に出てきそうな濃い描かれ方をしたキャラクターばかりですし、年齢問わず、男女問わず、とっつきやすさがあると思います。漫画だけでは語られきれていないところを、今度は文庫のほうで補って。相乗効果で相当売れたんじゃないかな?いや、それだけおもしろかったですけど。

基本的には短編集で、ちょっとずつ関係者の関係性は深まりながら、新たな古書との出会いが待っている。そこが楽しいですね。古書だから、もう手遅れなエピソードもあるんですけど、知っていたのと知らなかったのでは、それを所有する・所有していた人間のこれからの人生は絶対に違っていた。それくらい、本って価値があるってことを教えてくれている気がします。

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他のレビュアーの感想・評価

本を手にするってことは価値あることだなーと思える

イラストが加わることで厚みを増した世界に絵がね、いかにも小説から漫画になった、という雰囲気だ。なんで小説から漫画になる作品って、絵が似ているんだろうね。栞子さんはかわいいし、ビブリア古書堂の雰囲気も好きなんだが、ファンタジーではない場合、躍動感があんまりない。でもその絵がそれっぽさに繋がっているし、ストーリーの面ではおもしろいので、小説の内容により厚みが加わった印象になる。「ビブリア古書堂の事件手帖」は、そりゃーもう人気の小説だった。古書堂で店主を務める篠川栞子、そして近くに住む五浦大輔といういかつい男を主人公に、古書にまつわる事実を紐解いていく。さすがにセリフだらけ。でもそれを読まなきゃ始まらないのが事件の真相。推理系の「名探偵コナン」くらいが読めるなら、同じように読み込んでいけるだろう。栞子はとにかく古書に対する知識がハンパなく、その内容の理解度、歴史的背景や発売された当時の状況理...この感想を読む

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  • kiokutokiokuto
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