動物たちと共存しつつも鑑賞もする、人間のエゴを感じる作品
白くまが作ったコーヒーや料理を食べたいですか?
すっごーい!動物と人間が共存できる世界観満載なんだね!
白くま・パンダ・ペンギンといった動物たちが、普通に人間と「会話」が成立する世界観です。なんてったって白くまくんがオシャレなカフェを経営しているんですよ。しかも白くまくんが店長で、バイトとして笹子さん(人間女性)を雇っているという現状。もう雇用関係からしてツッコミどころ満載です。
例えば白くまくんが経営しているカフェですが、一見すると少し天井が高い建物のように見えます。ですが作者がコミックスのおまけページで言及していましたが、体格差がある白くまくん用に厨房部分(オープン型の調理スペース)は段差を下げて身長差を感じない設計にしているそうです。
このように「動物と人間の共存世界を実現させるために必要なハードウェア」という意味では、細かな背景描写は流石の一言ですね。
でもね、よーく考えてみてください。白くまくんですよ?作中も「白くま」表記ですからこのまま進めていましたが、正式にはホッキョクグマ。クマ科クマ属に分類される食肉類で、知能指数が高い動物です。
え、怖い。現実世界でホッキョクグマと出会ったら、恐怖しかありません。森のクマさんとか歌っている場合じゃない。日本でもヒグマが出たら、それだけで一大事じゃないですか。そんなクマ科クマ属が接客して、しかもオシャレな女性層から大人気の「しろくまカフェ」を経営しちゃってるんですよ。どんだけ寛容な世界なんでしょう!もうね、女性客とかノリノリでスマホ取り出して撮影しちゃってますから。インスタ映えとかSNS映えするような写真をパシャパシャ撮影していますから。
で、そのカフェの常連客にはもちろん動物たちもいるんです。
特にレギュラー出演しているのが、パンダくんとペンギンさんですね。パンダくんにいたっては、しろくまカフェの近所に建っている豪邸に住んでいるプロニートパンダです。もうね、漫画内でもパンダマネーってすごいですわ。経済効果がハンパない。パンダくんは基本働かないせいか、パンダママから「少しは働いてちょうだい」って言われる始末ですから。現実世界でしたら小太りで家でゴロゴロしている20代前半男性ですよ。そんなの家にずっといたらメンドクサイじゃないですか。
と、そんな人間に置き換えるとダメ人間臭がハンパないパンダくんも常連客ですが、誰1人カフェ内でパンダくんをチヤホヤするわけではないんです。ええ、パンダくんの存在感やペンギンさんの存在感も高いんですけど、人間の客はあまり気にせず、たまにパンダくんがお散歩していると「あ~パンダだ!かわいい~」とチヤホヤされる感じです。
ただし、動物園も存在するし、動物も出勤する
一見すると動物と人間が共存できている世界観ですが、動物たちにとっては労働環境がけっこうシビアなんです。というのも、メインキャラクターの白くまくんは、個人事業主(カフェ経営者)。ほぼニートとして生活しているパンダくんも、重い腰をあげてアルバイトで働くようになります。
パンダくんが選んだ勤務先は「動物園」。
ちょっと待って!人間と動物が共存している世界なのに、動物を研究・観察するための「動物園」があるんです!すっごい矛盾!
しかも、パンダくんより先輩として働いている男性パンダは、子沢山で家族を養うために週5で動物園に出勤しています。現実世界で例えると正社員ですよね。妻子を養うために頑張るパパパンダ。この一見するといびつな雇用関係ですが、人間が中間管理職の立ち居地に入ることで、動物たちの展示=シフトを決めています。
動物園で働いている動物たちは、それぞれが「展示されている」自覚があるんです。パンダくんも基本ダラダラしているものの、幼稚園児が遠足に来た時には「頑張らなくちゃ!」と遊具で遊んだり愛想を振りまいて精一杯のおもてなしをします。子供たちも「パンダさんかわいい~」と大興奮で、引率の先生も「パンダだよ~かわいいね~」なんて、このシーンだけを切り抜くとよくある動物園遠足の光景です。
が、動物園が定時で閉園すると、さっきまで「パンダさんかわいい~」と言われていたパンダが、徒歩で帰宅するんです。あくまで「動物園に居る時は観賞用のパンダで、オフになると人間とも喋ることができるパンダ」に変わるんです。
しろくまカフェに登場するキャラクター達は、動物たちが主人公であり、人間はあくまで脇役です。
それにしても、人間が喋る動物を受け入れすぎていて、動物園がビジネスアニマル化している所に若干作品の闇を感じますね。
動物にとって都合の良い世界は読者にとっても優しい世界
ご都合主義100%。まさにフィクションだからこそ出来る世界観で繰り広げられるゆるい日常が、どうして現代人の心を掴んだのかを考えました。
それは、個人事業主として働く白くまくんだったり、半ニート状態で働くパンダくんだったり。他にも個性豊かな動物たちに、どこかリアルな人間の姿を重ねてしまうからではないかと思います。
白くまカフェでバイトする女性・笹子さんや、動物園に勤務する半田さんなど人間の登場人物もいますが、メインは動物です。ネタとしては人間同士のやり取りで見受けられる「会話ネタ」や「子供時代あるある」ですが、人間から動物に置き換えただけで、一気にほっこりとしたテイストに変わるんです。
あざといなあ……。
ともあれ、人間がモチーフになると、どうしてもギスギスしがちな友人関係や労働環境ネタも、アニマルモチーフになることで読者の嫌悪感が減るのも事実ですね。
作者の画力やキャラクターに魅力を感じるものの、どうしても「女性作者が描きました!」感が拭えません。単行本が進むにつれ、かわいさの押し売りが強くなっていっている点も残念ですね。
登場している動物にとって都合の良い世界ですが、現実世界で動物が野放し状態になったら?と考えると、若干の恐怖を感じる作品です。
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