重量感と迫力に満ちた、典型的な戦争アクション映画の娯楽大作 「バルジ大作戦」
第二次世界大戦を題材にした"戦争映画"が、数多く作られてきましたが、その戦争映画の歴史の中で、少しずつその質を変えてきたと思うのです。時の流れが、次第に敵に対する憎悪を薄め、と同時に敵たちは憎々しい悪の権化の仮面を取ることを許され、彼らもまた同じ人間なのだ、と認められるようになってきたのだと思います。
そして、敵に対する怒りや憎悪や軽蔑の感情にとって代わって、敵もまたあっぱれだったな、というゆとりのある態度が生まれ、それを基盤にして、いわゆる娯楽作品としての"戦争映画"が作られるようになってきたのです。こうして真に憎むべき敵の存在を必要としなくなった戦争映画は、戦争のドラマティックな経過や、凄まじい戦闘場面のスリルや迫力などに、より重点を置いた作られ方をするようになっきたのです。
戦争というものの是非を考えようとする、戦争否定映画、反戦映画は別として、いわゆる"戦記"的な映画は、より一層、"娯楽アクション"的な色彩を強く見せるようになってくる。これが、戦争映画の流れに見られる質的な変化だといえると思います。
そして、この「史上最大の作戦」を共同監督の一人として撮ったケン・アナキン監督の「バルジ大作戦」は、まさに典型的な戦争アクション映画の娯楽大作なのです。ドイツ軍の敗色がすでに濃厚になっていた1944年12月。ノルマンディー上陸作戦の成功により、ベルギーとドイツの国境近くまで進攻して来たアメリカ軍は、もう戦争もあらかた目鼻がついたといった、のんびりムードで一息入れている状況です。
だが、その中にあってただひとり、入隊前は刑事だった偵察担当の陸軍中佐カイリー(ヘンリー・フォンダ)だけは、その職業的な勘でドイツ軍が、このまま何もせずに引き下がるはずはないと睨み、自ら偵察飛行を試みている。そして、ドイツ軍将校の乗った乗用車を発見し、超低空飛行で追跡しながら写真を撮るのだが、これが後に"バルジの戦い"の重要な鍵となってくる。
この映画の冒頭の超低空での偵察場面で追跡されたドイツ軍の乗用車が、曲りくねった山道を全速力で逃げ延びようとするところを、ケン・アナキン監督は、車の運転席から見た視点で、次々と迫る下り道の折れ曲がりを撮り、映画的な直接的な迫力を活かしていて、ワクワクさせられる。
カイリー中佐は、こうして車に乗っていた将校の顔写真を撮り、更に森の中に隠されていたドイツ軍のタイガー戦車も撮影して、アングレーブの本部に帰って来る。だが、その情報は司令官のグレイ将軍(ロバート・ライアン)や参謀のプリチャード大佐(ダナ・アンドリューズ)から無視されてしまう。
一方、その頃、ドイツ軍の乗用車に乗っていた若い将校のヘスラー大佐(ロバート・ショウ)は、ジークフリート線後方のドイツ軍本部に到着し、コーラー将軍(ヴェルナー・ピータース)に迎えられる。ヘスラー大佐は、優秀な戦車隊将校としての実力を買われて、ソビエト戦線からはるばる呼ばれたのです。そして、コーラー将軍は、タイガー戦車群を主力とした一大反攻作戦計画をヘスラー大佐に与えるのです。油断しているアメリカ軍の虚をついて、彼らの防衛線を分断し、一挙にベルギーのアントワープに突進するという、まさに一か八かの大勝負を賭けた大作戦だったのです。
そのために、コーラー将軍は、シューマッハー(タイ・ハーディン)を隊長とする偽のアメリカMP部隊を、アメリカ軍の後方に落下させ、敵を攪乱するという布石もきちんと用意していたのです。
こけに反して、そんなこととはつゆ知らぬアメリカ軍は、のんびりしたものです。シャーマン戦車のベテラン乗員のガフィー軍曹(テリー・サヴァラス)は、煙草や酒やストッキングなどの物資を戦車に積み込んで金儲けを目論んでいるし、最前線のトーチカではウォレンスキー少佐(チャールズ・ブロンソン)の部隊が寒さに縮こまっているといった具合なのです。
これらが、いわば、この戦争活劇の序曲的な部分に当たるわけですが、脚本のフィリップ・ヨーダン、ミルトン・スパーリングらも、そしてケン・アナキン監督の演出も、必要な勘どころをピタリと押さえて、なかなか手際がいいと思う。ヘスラー大佐と彼に仕える老兵のコンラート伍長(ハンス・クリスチャン・ブレヒ)の戦争に対する考え方の違いなども、ツボを心得た描きわけで、着実な職人的な腕前を感じさせる展開となっていると思う。
やがて、不気味な轟音を響かせながら、ウォレンスキー少佐の部隊の目前に、巨大なタイガー戦車の大群が姿を現わす。この迫力たるや、物凄いの一言に尽きます。そして、指揮官はもちろんヘスラー大佐です。アメリカ軍はたちまち蹴散らされ潰走してしまう。初めて最前線にやって来たシュリーバー中尉(ジェームズ・マッカーサー)は、戦い慣れたデュケスン軍曹(ジョージ・モンゴメリー)が、あくまでも逃げようと主張するのに逆らい、あっさりドイツ軍に投降してしまうのです。ところが、ドイツ軍は森の中にアメリカ軍の捕虜たちを集めておいて、突如トラックの荷台に隠しておいた機関銃で一斉掃射する------。
この時、シュリーバー中尉は奇跡的に敵弾を逃れて脱走するのだが、この前に、ドイツ軍の偽MPが大活躍して、アメリカ軍が爆破しようとした橋を確保して、タイガー戦車を予定通り通過させたり、道標を変えて、撤退するアメリカ軍を混乱におとし入れたりする挿話があり、その場所をシュリーバー中尉やガフィー軍曹の戦車が通過したことが、その後のクライマックスへの伏線の働きをも果たすことになるという、実にうまい仕掛けになっているのです。このように、次々と起こる事件を手際よく見せるだけでなく、その中にきちんと伏線を張っておいて、前の事件を後半に活かしていくところなどは、無駄のない効果的なドラマの構成になっていると思う。
こうして、ヘスラー大佐の指揮するタイガー戦車軍団は、着々と進撃を続けていく。対抗するアメリカ軍のシャーマン戦車は、タイガー戦車に比べてはるかに小型で、ほとんどなすところなく押しまくられてしまうのです。この映画は、スペインのセゴビア近くで長期ロケーションをしたということですが、タイガー戦車が轟々と進撃しながらアメリカ軍の抵抗を押しまくるところは、まさに戦争アクション映画の醍醐味に満ちていて、重量感とその大迫力に圧倒されます。
このタイガー戦車軍団のヘスラー大佐を演じるロバート・ショウは、ご存知「007 ロシアより愛をこめて」の金髪の殺し屋役で、007映画史上最高の悪役だと言われた俳優で、この映画では生え抜きのドイツ軍人を実に好演していると思う。彼の好演のおかげで、この映画は、まさに敵も味方もよくやったという印象が生まれ、戦争アクション映画としての風格をぐっと引き上げたと言っていいと思う。
アメリカ軍は、カイリー中佐の進言によって、敵の燃料を消耗させるという抵抗作戦に出る。そして、敵がアメリカ軍の燃料補給所を狙って進撃して来ると知るや、グレイ将軍はただちに補給所の爆破を命じる。だが、その時すでに補給所はドイツ軍の偽MPによって押さえられており、グレイ将軍の電話を受けたのも、偽MP隊長シューマッハーだったのだ。
彼らはむろん、ドイツ軍にとっては貴重な燃料となるものを爆破したりしない。だが、しかし、そこへ敵弾で砲塔をふっ飛ばされたガフィー軍曹の戦車がシュリーバー中尉たちを乗せて補給所にたどり着く。そして、MPが"偽者"であることに気づき、彼らを一掃してしまう。
一方、その間にもヘスラー大佐を先頭とするタイガー戦車軍団が、刻々補給所に接近して来る。さあ、これからどうなるのかという緊張感が、いやが上にも盛り上がってきます。すると、その時、濃霧をついての偵察飛行で不時着し、重傷を負ったカイリー中佐がテント内から転げ出て、「燃料を爆破しろ!」と、シュリーバー中尉に命令するのです。
そこで、シュリーバーたちは必至になってドラム缶に穴を開け、タイガー戦車が迫りつつある坂道に転がり落として火をつけると、たちまち、あたり一面は火の海と化し、炎の河となっていくのです。これでは、さしものタイガー戦車群もなすところなく炎上し、ベルギーのアルデンヌの森で繰り広げられた一大攻防戦も、全巻の終わりとなるのです。
考えてみると、このラストは、いささかうまく出来すぎてはいますが、戦車を扱った娯楽アクションとしては、やはり最後にこれくらい工夫を凝らした見せ場がなければならないのだと思う。ケン・アナキン監督は、恐らく「史上最大の作戦」で"アクション大作"のコツを会得し、「素晴らしきヒコーキ野郎」で、"娯楽大作"のコツをのみこんだと思われますが、まことに堂々たる演出ぶりだと思う。
そして、ピア・アンジェリやバーバラ・ワールといった女優を随所に出して、男っぽい戦争アクションに彩りを添えるサービスも忘れず、しかもお目当ての戦闘場面は、正面きってがっちり撮りあげている。主演のヘンリー・ファンダを初め、ロバート・ライアン、ロバート・ショウ、チャールズ・ブロンソン、テリー・サヴァラスなどの豪華な俳優陣も適材適所。まず、どこから見ても満足出来る戦争アクション映画の大作だと言えると思う。
なお、題名にある"バルジ Bulge"とは、膨らみ、突出部といった意味で、この戦闘でドイツ軍が連合軍の守備線内に深くくい込んだので、そう呼ばれたそうだ。
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