一粒で2度おいしい! 異色の地味作品から正統派明るいヒーローモノ - シルバー仮面の感想

理解が深まるドラマレビューサイト

ドラマレビュー数 1,147件

シルバー仮面

3.003.00
映像
1.50
脚本
3.50
キャスト
3.50
音楽
3.00
演出
4.00
感想数
1
観た人
1

一粒で2度おいしい! 異色の地味作品から正統派明るいヒーローモノ

3.03.0
映像
1.5
脚本
3.5
キャスト
3.5
音楽
3.0
演出
4.0

目次

異色の地味さで後世に残る第一部!

本作は第10話までは非常に地味な仕上がりになっている。

シルバー仮面は人間サイズであり(ヒーローものではこれを等身大と呼ぶ。等身大という言葉は今日では歌の歌詞などで「自分らしく」とか「無理をしない」といった意味で用いられることが多いがこの当時はほぼ特撮用語として使われていた。)

1971年に放送された本作、同年に放送されたのはスペクトルマン、帰ってきたウルトラマン、仮面ライダー、ミラーマンと後世に名を遺す名作ばかり。

シルバー仮面も今このようにレビューの対象になっているので、その一角を立派に構成したと言って良いだろう。

66年に始まったウルトラQに端を発した怪獣ブームが、マグマ大使、ウルトラマン、ウルトラセブンなどを生み出していったん沈静化し、恐らく制作各社は次のターゲットに狙いを定めていた頃だ。

本作の前年の特撮ヒーローものはウルトラファイトの僅か1本、ところが本作放映の翌年から数年に渡って年間10本を超える新作が発表される、という時期が訪れる。

本作を語る上で、いわゆる第2次怪獣ブームの黎明期にあたる時期に作られたという事を頭に入れておかなければならない。

第10話までの深い味わい

基本的にタイトルが「シルバー仮面」なのだから、その活躍が題材であるはずなのだが、その戦いはとことん地味である。

必殺技なし、武器無し、飛行能力も無ければテレパシーなどの超能力も無い、基本的戦闘は殴る蹴る、時には崖から突き落とし宇宙人の死因は墜落死、車で事故死させることもあり、相手の武器で結果的に死亡、などもある。

夜が多く、画面が暗い。

主人公である春日五兄弟は父が残した宇宙征服も可能というスーパーウルトラデラックス発明である光子ロケットを守りつつ完成させるという使命を持つ。

宇宙人たちに狙われているという事実を世間が信じてくれない、というのも子供にとっては不思議だったが、今見ればそれもうなづける脚本だ。

何しろ宇宙人は人間に変装しており、基本的には無関係な場所で暴れたりしない。彼らはひたすら光子ロケットと春日兄弟を狙うだけで、一般人に害を加えないので、紳士的ですらある。世間が彼らを知らないのは当然である。

より冷静に考えれば春日博士の発明さえなければ、彼らはわざわざ地球には来なかったかもしれない。

つまり10話までは宇宙人対地球、その代表の春日兄弟ではなく、宇宙人対春日兄弟とそれに巻き込まれた地球というのが戦いの構図なのだ。

ウルトラマンや仮面ライダーに慣れ親しんだ我々には想像しにくいが、本作の宇宙人はコソコソしている。火球を放ったり光線銃を持っていたりもするのだが、一般人に目撃されそうになったら逃げるケースが多く、侵略者というより犯罪者である。 

これらの全ては第2次怪獣ブーム黎明期特有の手探り状態に起因すると私は思う。

先駆けてウルトラマンやマグマ大使という成功作品があったモノの、それらはまだ手法として確立したわけではなかった。それを踏襲することが手堅い、という保証もなかったのだ。

現在では経済至上主義に基づく考え方が浸透しており、売れるには何をするか、を考えるのが当然だが、当時はやってみなければわからない、というのが普通だったのだ。

折しも日本社会も混とんとした時代でもあった。

高度経済成長はまだ続いており、大阪万博やアポロ11号が月面着陸を果たして少年の夢が広がる一方、公害問題や経済成長の鈍化、学生運動などもあり未来に単純に希望を描いていいのか、という不安もあった。

それらの混合体が本作の雰囲気を作り出している。

時代背景はこのくらいにしておこう。

そんなわけでさすらいの日々を送る春日兄弟、主題歌に「シルバー仮面はさすらい仮面、帰る家無し親も無し」などと歌っている以上、彼らは彷徨い続けるしかないのだ。

犯罪者に間違えられ、父の知り合いに疎ましがられ、協力者と思った人も被害を被れば逃げ腰になる。

より強く協力してくれる、と思った人は死んでしまう。

しかも自分たちの身体に隠されているという光子ロケットの設計図はなかなか見つからない。

末妹はるかは心身披露し旅から脱落してしまう(これは役者にリアル上の問題があったのかもしれないが現在でも不明らしい)

このようにして類を見ない地味なヒーローものとして週を重ねていく本作、しかし、第10話でいきなり転機が訪れる。

父が残した光子ロケットが完成したのだ。

設計図が兄弟の身体に隠されているという話はどこに行ったんだとか、はるかがいなくても指紋認証(?)は可能なのか、という疑問は残るが、まあ、何とかうなづける程度に脚本は頑張った。

いや、そんな消極的なものではなく、このシーンは数十年を経た現在でも十分に感動できる。

ここまでの辛い日々があってこそのカタルシスであり、1話完結の単純なヒーローものでは得られない味わいだった。 

シュールで不思議な画面作り

この第一期には今見るとかなり不思議と思える絵面が多い。

墓場での戦闘でシルバー仮面が宇宙人を殴っているのはよく見ると卒塔婆(墓標)だ。非常識&シュールなシーンである。

宇宙人を信じない社会なのに、普通に買い物している人々がいる商店街を走って逃げる宇宙人、若干しか驚かない市民、普通に追いかけるシルバー仮面、この絵もかなりシュールだ。現在なら市民が「何かの撮影?」とか呟くカットを入れそうだがそんなフォローもない。

父の友人たちを頼って旅する春日兄弟だが、結果的に宇宙人を連れてくる災難を持ち込んでおきながら逆ギレする光三も奇妙だ。

相手が地球侵略を狙って破壊の限りを尽くす宇宙人なら共通の利害が成り立つが、春日兄弟が個人所有する財産を守るために、市民が犠牲になる理由は見当たらないからだ。

学生運動が行われていた時代でもあり、光三は当時の若者の代表であったのかもしれない。光一、光二、ひとみがむしろ大人過ぎるのかもしれない。

さすらいの旅だが移動時に車からギターを積み下ろししていたり(当時はフォークソングがブームでもあった)、兄弟の服装が毎回変わるのはおしゃれな感じがして良かった。

後半はジャケットなどの落ち着いた格好が増えるひとみも前半はカジュアルな恰好が魅力だ。

変身しない光三(篠田三郎)が最も活躍する、という回が多く、子どもにとっては不思議な脚本だった。彼に役者として華があったというのも理由かもしれない。

シルバー仮面が必殺技を持っていないので、白光銃を持った光一や赤光銃を持ったひとみのほうが強いのでは? と思わせる時もあり、やはり不思議な雰囲気を持つ作品だった。

一転して明るい巨大ヒーローへ

視聴率で苦戦したために方向転換してシルバー仮面は11話から巨大ヒーローものになる。その経緯などはweb上に無数に転がっているのでここでは触れない。

さすがにドラマ重視の脚本で押してきたスタッフなので一応10話までの続きとしてきちんとしたつながりを持たせている。

この展開に無理があるという意見も無論あるが、私はなんとなく受け入れている。

戦闘=無策だった第一部から、ヤケクソのごとき必殺技連発に切り替えたのはむしろ素直に笑える。

シルバー仮面ジャイアントは実に20を超える技や能力を持つ。光線、ミサイル、ロープ、サーベルなどのあらゆる戦闘をカバーできる武装があり、念力、雨雲を呼ぶ、怪物化した人間を元に戻すなど、ほぼ何でもありになった。

まさに極端から極端への移行であり、もう好きにして、と言う以外ない。

それでも全てが明るくバカバカしくなったわけではない。

最終話はアンドロメダ第2星雲から来たドリイは姉妹に関わった末にやっぱりあっさり死んでしまい、それをきっかけにしてアンドロメダへの片道30年の旅に子供二人を乗せていくという暴挙に出る。

せめて20年にしてやれば帰って来て40代半ばか50代、まだ人生の喜びもあるだろうに、とも思うが主題歌で帰る家無し親も無しと歌わせるスタッフなのだから、その思い切りは見事だ。

ジャイアント化以降は商業主義への妥協ではなく春日兄弟へのご褒美

私はこの作品以降の、より商業化が進んだ派手なヒーローを見て育った。その反動上か、少年期に本作前半の暗い作風を評価する記事を見ては、シルバー仮面で評価すべきは10話まで、その後は商業主義に陥った価値が無い部分、と盲目的に思っていた気がする。

確かに巨大ヒーローがトンデモ技を繰り出してドンパチ戦う姿に見飽きた人間には、あの暗い雰囲気は一定の価値をもつ。

しかし、である。

今回1話から順番に見て、一旦兄弟たちの悲願がかなって光子ロケット完成! 翌週から方向転換して明るい活劇モノになる、という流れは実に爽やかだった。

それほどに春日兄弟は苦労したのだ。

誰にも信じてもらえない孤独な闘い、関わる人がしばしば死に至り、拠点を持てずひたすら放浪する日々、父の悲願を果たせない焦り、そんなものから解放された10話は清々しさを伴う。

11話で念願の宇宙に進出するも急転して光子ロケットは大破、親子の悲願のロケットが!と悲しみに暮れる間もなく、巨大化したシルバー仮面が出現し巨大宇宙人との戦いが始まる。

それは新たな闘いの日々であったが、彼らは理解者津山博士と安息の場所を得る。そしてもう一度光子ロケットを作るという目標も得て、ようやく人間らしい暮らしが訪れる。

危険は伴うが、もう孤独ではないし彷徨う必要もない。

津山博士の娘リカも4人を和ませてくれる。

ひとみがボーリングに興じたり、やや唐突ではあるが婚約者が登場したりもする。

それでもただ遊んでいる訳ではなく、やっぱり光子ロケットの開発にも打ち込む。

そして念願のロケット再開発も完了し、父が目指していた宇宙人との友好のためアンドロメダへ旅立つ。これはこれでそれなりの完結であると私は思う。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

シルバー仮面を観た人はこんなドラマも観ています

シルバー仮面が好きな人におすすめのドラマ

ページの先頭へ