家族というシステム
本当に家族を愛してる?
都内で連続して起こっている一家惨殺事件、その犯行を起こしたのはいずれも子どもであり「家族を愛している」といった趣旨のメモを残し自殺をしているという奇怪な事件。事件を担当する警視庁捜査一課の刑事・馬見原光毅(遠藤憲一)は事件現場である匂いがすることに気づく。同じ頃児童心理司の氷崎游子(松雪泰子)は援助交際の疑いをかけられていた美術教師・巣藤俊介(伊藤淳史)を問い詰めていた。一家惨殺事件を巡り知っていく「家族」というシステムの残酷さ、愛おしさと無条理さを綺麗に飾らずリアルに描くサスペンス。
原作は天童荒太氏の不朽の名作「家族狩り」で2014年の夏ドラマ、TBS系で制作。構想化までに7年もかかったというこのドラマは小説とは変えた脚本でしたが中々しっかりと筋はまとまっていたように見える。家庭崩壊やDV、介護の辛さや学校内のいじめ、引きこもりなどの目を背けられる社会的に影の部分である悲惨な様子をここまでしっかりと描いたドラマも珍しい。残念ながら視聴率の方は平均7.97%と惨敗と言われてしまう結果で終わったけれど評価は中々高い。家族・人間の醜さを残酷に愛おしく生々しいほど描かれていて一度観たら忘れられないような内容だった。
「家族」という残酷なシステム
このドラマを観ると「家族」というシステムがどれだけ面倒で残酷で無条理なものなのかと知らされる。馬見原の妻は精神的に病み入退院を繰り返す。氷崎游子の父は認知症で母はパチンコに明け暮れる。巣藤俊介も家族には殺意さえ抱き家を飛び出した過去があり登場人物たちの「家族」はそれぞれ問題を抱えている。そして一家惨殺事件の起こった家庭にも何かしらの問題があり「家族」というものは本当に残酷なシステムだと感じざるを得ない。職場の年上女教師と流される形で一夜を過ごしだらだらと恋人関係を続けた結果、妊娠させてしまった巣藤俊介も「家族」を作るということに拒絶のようなものまで抱き堕ろしてほしいと願う。「家族というシステムに生まれた瞬間組み込まれる」ことがあまりにも残酷だと思っている巣藤先生には共感出来る。このドラマを観ていると世間には何の問題もなく曇りのない幸福な家族なんて一組も存在しないのではと思う、日々流れるニュースでは一家心中や虐待の末に殺してしまった、親の介護に疲れて殺してしまった、などといった「家族」を殺したという事件はとても多い。愛し合った男女が結婚し子どもが出来て幸せに暮らしました、めでたしめでたしとまるでおとぎ話のテンプレートのような幸せいっぱいの家族はきっとこの世に一組も存在しない。夫婦も結局は他人、子どもも結局はその他人の血が半分は入っている訳で何でも言うことを聞くロボットでなはい、家族だろうと分かり合えない、許せないところはあるのにそれを「家族だから」と無理に飲み込んで我慢しなければならない「家族」という死んでも切ることの出来ない繋がりは本当に残酷だ。そう思わせられた。
一応ドラマの最後は登場人物たちはみんな「家族」を再生しようと新たに前進していく、救い様のない終わり方ではなかったけれどこのドラマを観ると「家族」という群れのシステムを嫌でも感じさせられる。いっそ家族なんて作らず一人きりの人生の方がどれだけマシだろう、でも人間は結局そのシステムに組み込まれずに生きてはいけないかもしれない。
原作との違い、「家族狩り」はまだ終わらない
2014年の現代に合わせて原作とドラマとでは大幅な変更がされている、構想に7年をかけただけあり原作と違っていてもしっかりとまとまりのある話に出来上がっていたと思う。
まず最終的には清岡美歩(山口紗弥加)と婚約する体育教師・岡村仁(市川知宏)は原作には登場しないドラマのみのキャラクター。巣藤の元教え子の渓徳(北山宏光)は物語の初めからすでに出演している。引きこもりの実森勇治(岡山天音)と巣藤先生のやり取りは原作ではほとんど関わり合いはないけれどドラマでは実森は巣藤先生にだけは次第に心を開いていくという設定になっている。最も大きい違いは原作では対立している氷崎游子と山賀葉子(財前直見)は対立しておらず寧ろ氷崎にとって山賀は良き相談相手。そしてドラマでも若干描かれている巣藤先生と氷崎と清岡の恋愛模様、原作では巣藤先生と氷崎が最終的には関係を持つという場面があるけれどそれはなく、最後には友達以上恋人未満のような関係で終わった。2014年の現代に合わせて変更された部分は多々あっても物語に不自然さや無理矢理感はなく、綺麗に話もまとめられており毎週引き込まれていき最終回がとても楽しみだった。
山賀葉子と大野甲太郎(藤本隆宏)のしてきた行為は間違った家族の更生の仕方だった、それでも間違った使命感に囚われた二人は逃げおおせる。そしてラストシーン、ニュースでまた一家惨殺事件が起こった報道がされる、まだ「家族狩り」は終わらない…。
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