さらーっとしていて可もなく不可もなし
ラブもなくサスペンスもなく和やか
親の転勤で転校ばかりだった朔。本が大好きでいつも本を読みふけっている文学ボーイ。しかしダサいわけではなく、顔がよく、察しもいいので、割と女性人気の高い男だった。高校1年生になる年、両親は家を持つことを決め、朔が小学生の頃に住んでいた街へと戻ってきた。ここで朔は、小学生のころに友達だった美星と再会。天文学部へと引きずり込まれていく…
まずこれは少女漫画なのか?というとそうとも言えない。それなら、シリアスな展開が続くのか?と思いきやそうでもない。ギャグなのか?と言われればとても近い気がするが、けっこういいことも言うのでふざけているわけでもない…なんと分類すればいいのか分からないけれど、はじめから終わりまで、一貫してただ星が好きな連中がやんややんやと高校生活を楽しんでいく。そういう物語ですね。高校入学から卒業まで、しっかりと見せてくれました。どこかで何かをきっかけとして朔が美星とくっつくのかなー…と思っていましたが、最後までそうなることはなく、かといって蒔田姫とうまくいくこともなく、天文学部を通して成長した面々が無事卒業を迎えるまでを丁寧に描いている作品です。
何がいいか?っていうと、この安定感でしょうね。いつも通り、美星はうるさくて、朔がしっかりしているようでテンパってて、蒔田さんが正面からぶつかっていき、部長は血を吐いてて、矢来さんがピシッと締めてくれる。キャラが増えすぎることもなく、ちょうどよかったです。
なんだかんだ人と関わっていく朔
あれほど本を読むことこそが至高だった朔が、美星に巻き込まれてどんどん人と関わるようになっていきます。当たらず触らず。適度に最低限のことをやり、静かに本を読んで生きていければよかった朔の世界が、天文部の面々・それに関わる人たちと語らうことによって変わっていったと言えるでしょう。文学少年でも、文学部もあったことだしそれなりに楽しめたのでしょうけれど…今までの自分の常識を覆してくれるような衝撃的な経験は、この天文学部でなければ味わえなかったでしょうね。幸か不幸か、すべて美星のおかげなんですが…個人的には、あまりにうるさく、自己中心的な感じなので、好きにはなれないかな…なんてことを考えてしまいます…個性の立ったキャラクターとして、朔の心をいつでも上向きにする原動力として、立派に役に立ってくれていたのですが、お父さんのことに関する悲しみを向ける先が果たしてこれでいいのかとか、フラグがわかりやすすぎたり、悲劇を背負って笑ってる感じがなぜかわざとらしささえ感じさせました。
朔は鈍感ですし、美星にも、蒔田さんにも、そしてフーミン生徒会長にも、自然と優しくしてしまっている…美星からすれば、一緒に星を見てくれることや昔のことを大事そうに話してくれるのがドストライクだろうし、蒔田さんにとっては、朔は一目惚れの相手だし、フーミンさんにとってみれば、手に入らないであろうけれど、優しくしてあげたくなる母性をくすぐるだろうし…罪な男。
美星エピソードは弱め
美星の過去のエピソードが、やっぱりどうにも弱いんですよね。美星と朔をつないでくれているものも、美星が朔を引っ張りまわして遊んでいた、という小さな思い出だけで、そこに恋心があったのかどうかや、ずっと忘れられなくなるほどのイベントが起きたのかどうかが強くは演出されていません。もちろん、美星が木から落ちてしまって、朔とお互いにケガをした・そのまま会えずに転校した、というエピソードがありましたけど、あまりにさらっと過ぎていったので、2人にとって大事な思い出だったのかどうかが伝わりづらかった印象がありました。確かに覚えている。だけど、何かが変わったわけじゃない。かすかな懐かしい思い出を感じながら、改めて自分の母親に似ている美星を大切に想っていく。そういう気持ちは感じられます。
美星のお父さんとも思い出もそうですね。とても優しい記憶で、大切な記憶なんだけれど、美星と朔を間違いなく繋ぐほどの効力はないかなーという感じが否めません。草間先生を出すことによる揺らぎもありましたが、全然対象外な人なので、ただのお守役。広―い目で美星を見守ってくれているだけなんです。朔ってまだまだ子どもだよね…何が大切で、何が余計なことなのか、まだわからないお年頃みたい。最終巻まで答えが出せないくらいにね。
できれば、美星のキャラが小さくなってしまう出来事があってもよかっただろうし、番外編を描いてくれるなら朔と美星の逆転ストーリーとかもほしかったですし。美星はヒロインのはずなのに、エピソードが薄いのが悲しいところです。ただただうるさかったな…。
蒔田さんとフーミンにもこれからきっとチャンスはある
美星と朔は結局そんな感じなので、蒔田さん&フーミンさんにも十分チャンスはありましたよね。2人とも、当て馬のポジションにいなくても大丈夫。朔といい、美星といい、まだまだ子ども。お互いの気持ちに気づけないくらいにね。しかも、たぶん他人に言われても覚醒しないタイプで、自分で気づかないと進めないタイプですよね。朔は鈍感すぎるし、ストレートに言葉にして伝えてあげないと、小手先の方法は逆効果。蒔田さんにはこれからも一生懸命がんばってもらいたいなーって思います。
完全にタイミング逃したのがフーミンさんですよね。いやーあのツンデレおいしすぎたのにな~…ナイスバディで、生徒会長で、きりっとしているフーミンさんが、メガネ外して本気モード入るところを見せてほしかったですよ。徐々に優しくなっていく姿は本当に萌。朔とうまくいかないだろうかと妄想してしまいましたよ。天文学部じゃなくて部外者扱いだったけど、完全に仲間でした。朔が本好きであるということ、落ち着いた物言いができること、他人に優しくいい男であること…文学女子にはたまらない、いいところだらけの男が朔です。朔、本当に罪な男…気づいていないなんて「天然くんだね」なんて言葉で片付けてはいけないくらい罪ですよ。これだけ朔を知ってくれて、好きになってくれる相手がこんなにいるんですから、
この2人の存在もあり、美星の存在はギャグポジションの域を出ないという結果にたどり着きました。
そうだ星を見に行こう
夜空を見上げて星をみる。このすばらしさをもし伝えたいのであれば、おそらく星に関する知識はこんなもんじゃ足りないんだと思うんですよ。そして、星の美しさを伝える表現はもっと衝撃的な印象でなければおもしろくありませんよね。息をのむような、違う世界を見せてくれるような、朔の心に響くような。そんな表現にしてもらいたかったですね。
天文学部といえば、地味な部活の象徴みたいな感じで扱われて、そこに実はイケメン・美女の部員がいて…という設定がお決まり。多趣味な人・スポーツや勉強もできる人がなぜか星にあこがれを抱いていて…という話の流れがよくあります。今回はそのどれとも言えない、不思議な空気感でしたが、これもまた居心地はよく、そうやって少しずつ、積もり積もって絆を深めていくっていうのもいいよね。確かに朔は、天文学部の中でいろいろな自分と向き合っていくんだけれど、本質はきっと最初から変わってなくて、いい子なのには変わりがない。ただ優しさをオープンに表現しやすくなった、ということが大きいでしょうね。
終始ゆっくりと、天文学部を中心とした高校生ライフを見せてくれたこの物語。ゆるーくほっこりしたいときにちょうどいいでしょうね。あまり深い詮索はなしで、楽しんじゃったほうがいいかもしれません。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)