恐竜というロマンと現代社会の問題を描いた名作。
過去の地球と今の地球の問題をリンクして描く名作。
星野之宣の作品は、多くがSFの要素を非常に盛り込んでいる。
しかも、その内容は深く、同時に王道を行くため、SF的知識を用いれば深みが増し、それを伴わない人でも、十分な漫画力でその魅力に気付かせてくれる、一種の教科書のような作品がある。
これも例に漏れず、非常にSFと過去の地球という王道の設定を描いている。
これだけでは、正直ただのよくあるSFに終わるところだが、それで終わらない所がこの人の強みである。
端的に地球の海の底には、時空を超えて繋がっている穴があり、そこに主人公たちが迷い込んでいく。これだけかと言われれば、十分これだけで説明も付く。
そこに、シーラカンスが密猟できる場所を選択し、その穴に入ってしまったのは、少年漫画のように、そこから出るだけが目的、ではない人間が多数いる。
それを見つけたことを金に換えようとする女。この世界の一時でも、愚かにも支配を望む男。
その世界をただただ見続けて研究したい男。その世界でも、仲間を武力で支配し、
そして、この世界を代償にして、現代社会の闇を打ち払おうと、過去を汚物で汚すこともいとわない男……。
主人公は、そんな人間たちの中で、過去の地球と、恐竜が謳歌した大自然に触れ、その偉大な過去を守ろうと、そして、恐竜というロマンあふれる存在を、現代の教訓として守りたいと願い、動く。
この本の中には、人間の愚かさと、過去への賛美はもちろん、多くの要素を取り入れた、複合型目的の一作品である。
溢れ出す魅力の数々。読んでいる人の脳に訴えるそれらの問題という難しさ。
ここで、最もこの作品で魅力的なものをあげるとするならば、と、考えてみて、とても一つに絞れないという事態になった。
漫画自体の能力、画力、それ全ても十分素晴らしいのだが、そこに含まれている人間のエゴイズムであったり、その当時の社会風刺である汚染問題なども的確に描かれている。
この人は、テーマを非常に重視する。長々と連載をするのではなく、言いたいこととその描写で描きたいものが描けたのなら、決して蛇足は付けない。
また、リアリティある人間模様も素晴らしい。力を持つ男に女は付いていく。そこの裏切りや、力の意味、別方向の力など、様々なものが描かれる。
そして、終盤になってくると、更なる人間模様が付いて回ってくる。
主人公たちを救出しようと現れる仲間は、当然この極秘作戦を任される権力と武力の象徴である人間だ。
それに反旗を翻す人間も、当然現れる。ここら辺からは善悪が二元化されてゆくが、あくまでそれは表面上の事、エゴイズムであったり、非人道的な行為であっても、その行為の目的が人類の救済である。というところがまたこの話の魅力になっている。
滅びたという前提で描かれている恐竜たちの世界。ならば、どう滅びてもかまわない。むしろ、有益に滅んでくれた方がマシ。という考え方も、決して安易なものではないのだ。
一度深く読んでしまえば、むしろ善人を装って、後さき考えずに正義感を振りかざし、恐竜を助けたいという主人公こそ、ある種の悪と呼べなくもない。
その主人公は、この世界に来て、大きな経験を得たからこそ、その正義感を振りかざすにふさわしい人間に成長している。
この物語に、完全な悪はいない。だからこそ、読者自身が考えるという、最も大切な物語の在り方。
それが最もこの作品で素晴らしいものなのかもしれない。
読むべきは物語ではなく、そこで考える自分の答えである。
物語の終盤には、地球に多大な影響を及ぼした隕石の衝突が描かれている。
やはり、恐竜は滅びてしまうのか。そして、その事実は多くの人が知っている周知の事実だ。
だからこそ、まだこの世界を汚染問題で汚してしまえ。恐竜を少しでも救え。どちらも躍起になっていく。
しかし、ここで安易に歴史を使わない所が、また面白い。
隕石はなんと、三つに分裂していたのだ。というオリジナルの設定と堂々と使う。
そんな中、汚染問題の解決を図る輩が行った行為によってこそ、この時代の地球は滅びたという事を描く。
「あんたが地球を滅ぼした!」と、告げられた次のコマが、なんとも象徴的な絵になっている。
地球が滅びるほどの行為を、ただただどうでもいい。ではなく、きちんとショックを受けさせている所が、この漫画の中で好きなところだ。
人間は強くない。ということも、実に見事に描いている。
ショックで神経衰弱になり、暴走する指揮官などが最たる例だ。
アメリカの印象を受けるキャラクターたちは、かろうじて銃で武装していたりするが、そんなものは恐竜には全く通用しないのだ。
しかし、どんどん原始的になっていく恐竜との対決には、、あるいはこの世界で生き延びていく主人公たちの行動も、当然原始的になっていく。
主人公が、ネズミに食われていた恐竜の卵を発見し、その後、ウミガメの卵を食べることを戸惑うシーンがある。
そして、そのネズミたちは、遠い哺乳類の祖先であり、自分たち、人間の祖先だと諭され、その卵を飲み干すシーン。
生きることが複雑化している今の社会を、暗に批判していると思うその描写が。
この作品の最も好きなところであり、大人になった今だからこそ、もう一度読み返してみたい名作だと、心に留め続けている、自身が最も好きなシーンであり、
この作品は決して、SFファンの人気だけで終わってはいけない、大人の教科書として語り継ぎたい名作であると、そう思ってやまないのだ。
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