鉄人28号「白昼の残月」〜ふたりの“しょうたろう”の物語〜
戦争で死ねなかった兄と復興と共に育った弟
鉄人28号の主人公と言えば「ショタコン」の語源となった金田正太郎くんですよね。
この「白昼の残月」という作品は、敵の攻撃に対し鉄人を上手く動かせず苦心する正太郎から操縦器を攫い、見事な操縦で鉄人を勝利に導いた「ショウタロウ」の登場から始まります。
後に、自分が生まれる前、父が養子に迎え入れた兄だと知り,突然のことに戸惑いながらも、家族と呼べる人物がいたことに正太郎は喜びます。
この作品に於いて正太郎は、大人と堂々渡り合う少年探偵というより寧ろ、鉄人の操縦者としての未熟さに悩む等身大の少年として描かれています。
一方ショウタロウは、金田博士の息子として父と共に「鉄人計画」に参加し、軍の監督のもとロボット兵器の開発に携わります。
しかし、日本は戦争に負け父も死に、形見となった鉄人は終戦の年に生まれた弟が操縦者となって復興目覚ましい日本のため「道具」として使われていることにショックと不満を覚えます。
そして,帰って来たものの自分の居場所のないことに寂しさを抱え、復興に邁進するあまり戦争のことなど忘れてしまったような故国の浮かれぶりに憤るのです。
廃墟弾の爆発によって10年前の姿に戻ってしまった街を見て「この廃墟を美しいと感じてしまうんだ。」というショウタロウの言葉に彼の心情が伺えます。
ところで、原作にもこの作品の前に制作されたテレビシリーズ(テレビ東京系列で放映)の中にもショウタロウ青年は出て来ません。
この白昼の残月のためのオリジナルキャラクターです。
何故、後付けで主人公と同じ名前の兄を登場させたのか、今川監督の意図を勝手に想像してみます。
戦争を知らない正太郎が鉄人と共に戦う相手は、ほぼ戦争によって人生を狂わされた人々です。
彼らの価値観と正太郎の価値観には、かなりの隔たりがあるのです。
犯罪に手を染めることになった彼らに同情はずるものの「けれど……」と,共感することはありません。
戦争が人々の心にどれほどの影を落としたのか、想像すらつかない彼の前に現れたのがショウタロウなのです。
自分に最も近しい彼が語る「戦争」は、それが決して過去のことではなく今も続く苦しみなのだということを思い知らせることになったでしょう。
正太郎は戦争を知らない世代を代表し、ショウタロウはあの時代を生きた人々を象徴しているのではないかと私は考えます。
「残月」と呼ばれた女性
「白昼の残月」……カッコいいタイトルですよね。
残月とは,昼間見える月のこと。
常にそこにあるのに,日の光の中ではその存在に気づく人はほとんどいません。
金田博士は,妻以外に婚姻関係を持つ彼女を「残月」という愛称で呼んでいました。
普通に考えると酷い言葉に思えるのですが、当の本人はそれが好きだといっています。
その言葉に隠された博士の愛情を信じていたからでしょうね。
「残月」がキーワードなのはタイトルからして分かっていましが,よもやそれが人を指すとは思いませんでした。
キーワードは残月,キーパーソンはショウタロウだと思っていたので、残月と彼女がイコールで結ばれたときには本当に驚きました。
彼女がキーワードでキーパーソンでもあったのか!と。
息子と愛した男性の遺言を守るためとはいえ、軍服姿で人を殺めるとは……その行動力と激しさに驚きます。
ですが,その想いの強さが、日陰の身に甘んじて来た彼女の強さでもあると思います。
自分とショウタロウ、そして夫の死後も守り続けて来た秘密である大鉄人は、復興していく今の日本にはもう必要のないものなのだと、鉄人にこだわり続ける息子を諭すシーンに彼女の真の強さが現れています。
ショウタロウに自爆スイッチのことを教えた彼女の覚悟を思うと,ひとりだけ生き延びてしまったことで記憶が混乱してしまうのも頷けます。
何故,一緒に死なせてあげなかったのか……
正太郎に背負わせる十字架としての存在だとすると、あまりにも酷ではないかと思うのです。
鉄人、大鉄人そして伊福部昭
この「白昼の残月」の世界感を盛り上げているのが特撮映画「ゴジラ」の音楽を担当した伊福部昭氏の楽曲です。
ゴジラがスクリーンに登場したのは昭和29年、この作品の時代設定とほぼ合致します。
全編に流れる音楽が,昭和30年代を舞台とするこの作品を更に印象づけています。
主に鉄人が活躍するシーン、そして最も印象的なのは全身を廃墟弾に覆われた大鉄人がその全貌を現したときに使われていた曲が最高です。
大鉄人のあのゴツゴツした不気味な佇まいが,曲の効果もあってゴジラとダブって感じるのです。
この演出にはドキドキさせられました。
ただそこにいるだけで恐怖を感じさせる、大鉄人の圧倒的な存在感を伊福部音楽が盛り上げるのです。
この音楽があったからこそ,「白昼の残月」は完璧になったのだと私は強く思います。
そして,廃墟弾を抱えたまま大鉄人は雲の彼方へ飛んでいき空を赤く染めて消えます。
あとには、鉄人と正太郎が残る。
戦時中本土決戦をさけるための秘密兵器として作られた鉄人と共に新しい日本を作ることを正太郎は誓うのです。
「残月はいつも見てくれているから。」
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