主人公を途中で増やすという荒業が見事に成功した少女漫画
第一部は男性アイドルの成長を描く
「CRASH」というのは5人組男性ユニットの名前。すべてぶち壊しにするくらいの衝撃を与えてくれるアイドルを目指しているわけですね。いい意味のほうで。桐、怜、順平、一彦、侑吾の5人は、ホワイトスター事務所のスカウトマンを務める花にスカウトされ、アイドルとしての活動を始めます。スカウトの方法が鼻血によって決まるというのは何ともあほくさいですが…どの子も本当にかわいいし、それぞれに魅力がある子でした。桐にはギター、怜にはマジシャン、順平にはダンス、一彦には日本舞踊、侑吾にはピアノやバイオリンなどなど。性格の面で、桐はオラオライケイケ系、怜は冷静沈着系、順平は熱血純情系、一彦はかわいい子犬系、侑吾はフェロモン垂れ流し系と、キャラクターの色を分けているのは順当な感じ。イケメンで才能ある人って…いるのかなーって思うけど、特技あり、オーラありで日夜いろいろな人がスカウトされるんだよね。そして、実際にデビューがうまくいくのかどうかは、本人の才能だけではない、世渡りの部分も大切になってくるし、プロデュースする人・仕事をとるマネージャーの力量がすごく大事なんだろうなー…ボイトレして、ダンスの練習して、芸能界の挨拶も覚えて。いろいろな力があってこそのデビューなんだなーって教えてくれます。花のように、奮闘してくれる人がいてこその光なのですね。
そんなこんなでスカウトされた5人の面々。第一部では、衝突したり、協力したりを繰り返しながら、少しずつ絆を深めて仕事にまい進していく姿を描いています。もちろん、花と桐の恋愛をにおわせつつ、盛大な成功を収めて終わるわけです。CRASHのリーダーとして、順平の純粋さは本当に必要でしたね。桐がリーダーになるのかなーって当初は思っていましたが、そうしないあたり、本当のアイドルグループみたい。リーダーが最も目立つ存在とは限らないもんね。
第二部は恋物語を描く
そして第二部。まさか主人公が変わりまーす!って宣言するとは思わなかった…花を中心として最後までいくのだと思っていましたし、第一部で終わっちゃってもそれなりに「これからも彼らの挑戦は続く…!」とかで終わらせて、時々番外編に登場するって未来もありそうでしたからね。これが果たしてうまくいくのかなー…?と思っていたら、案外とそれが逆にウケて、長い事連載が続きました。ちゃんとアイドルとしての登竜門を越えて、立ち位置を不動のものにするまで丁寧に描いているのは、すごいことだと思います。途中で投げられちゃうより、ずっとよかったなーって後から全部読んで思いました。
途中から参加したユイは、典型的な恋を知らぬ一途な女の子。一彦との恋愛が描かれます。お互いに引っ込み思案で、似た者同士。相手の大切さに少しずつ気づき、確実に好きになっていく。一彦は、日本舞踊のセンスを握らせるととてもドSチックな表情を見せるので、きっとどこかではそれが発動してくれるものと思っていました。しかし、終始、かわいい恋でしたね~。しかも、スキャンダルの末に別れを選択する。前向きに、お互いが想いあっていれば、結ばれるのは後でも大丈夫。そう断言できるほど、2人は大人だったわけです…。桐があまりに子どもすぎて、悲しくなったわ…
花は桐を好きだということに最後のほうまで全然気づいてなくて。ラブコメそのものでした。あたふたドキドキしている桐や怜が本当にかわいく、男の事が惑わされる恋はいつ読んでもニヤニヤが止まりません。順平もまりかとの恋が大きくなり、3つの恋が同時進行されて欲張りな作品でした。順平はCRASHのリーダーとして、まりかと付き合わずにいましたが、のちに結婚できて本当によかった。アイドルと一般人、アイドルと芸能関係者、アイドルとアイドル。いろんな恋の形がありましたが、誰と付き合おうが、それぞれの都合に合わせて思いやりあるお付き合いをしていくことが求められる。ただ好きなだけじゃ、ダメなんだわーと考えさせてくれます。
5人のキャラクター考察
桐は、もうバカすぎて。だけど、妹のためにがんばる爽やかさが魅力的でした。正直で、いざという時に頼りになる。そんなやつです。
怜は、不愛想な表情を常に見せながら、時々浮かべるその微笑が素敵です。言わないだけでいろいろなものを敏感に感じ取っていて、そっと手を差し伸べる優しさがある。私の推しメンは怜ですね~。単純に、ヒロインの当て馬だからというわけではなく、横からかっさらわずに花を尊重していたことが好印象です。
順平は、リーダー!って感じ。見た目は花形じゃないけれど、確実にメンバーの主軸として奮闘してくれていました。アイドルをやってみようと決めた理由が最も正当な感じですしね。ダンスの登竜門の大会で優勝を果たしたにもかかわらず、スカウトを受けてもっと自分の力を試してみたいと思えるなんて…純粋で、いいやつです。
一彦は、第二部のヒーローとして活躍してくれました。優しくて、かわいくて、一生懸命で、癒し系。あの扇子を持った時の姿がイケメンすぎて…そのギャップにやられた女子が多い事でしょう。花とくっつくことはないだろうなって思いながらも、花の仕事ぶりを、誰より言葉にして感謝できていた人物のように思いますね。
そして侑吾。こいつが曲者で、年配者だからこそのモヤモヤだったり、女関係のひどさだったり、それでいて冷静に物事を判断し、フォローしたり、試すような行動をとってみたり…こういう癖アリの男を主人公とした漫画もありますけど、難しいですよね。頭がいいがゆえにイラっとさせるくらい勘が良くて、一歩引いていて。でも実は誰より情が深かったりする。侑吾が選ぶ伴侶は絶対かいがいしくお世話できるドМな人ですよ。
花は怜がよかった
推しメンが怜でしたから、やっぱり花には怜を選んでほしかったですね…桐を好きであるということに気づく前に、怜によってさらわれてほしかった。一彦とユイは似た者同士だったし、花には桐みたいにガツガツしてて花と似ている人じゃなくて、怜みたいに落ち着いてセーブしてくれる人と付き合ってほしかったな…普段はツンツン気味の怜が、花に思いっきり甘えてくれるような、甘ーい日々が待っていた気がしてなりません。「花には俺もいるってこと、わかってて」なーんてこと言わせる花が憎くなります…怜には、それこそユイみたいに、思いっきり怜を愛してくれる人と巡り合ってほしいものです。
総じて楽しいラブコメディ
アイドルのスカウト・デビューから、華々しい業界を生き抜いていくための努力、そして恋物語を描いていたこの作品。鼻血に始まり、さまざまな策略のめぐる中で確実に絆を深めていった5人はみんなキャラクターのいい奴ばかり。王道の少女漫画として完結しました。小学生向けに芸能界のことを描く作品って、どこか嘘くさかったり、そんなことねーだろっていうシチュエーションが多いものです。それでも、きっちり仕事と恋を分けて描いていたことが逆にいい影響を与えて、いい話に仕上がってたんじゃないかなーと思います。画的にもイケメンが残念な感じではなかったし、内容も分かりやすくて小学生向きだなーという印象でした。花の視点からユイの視点へと着眼点を変えたことで、二度おいしい作品に変化を遂げていたと思います。総じて楽しい物語でした。
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