なぜかじわじわ読みたくなるファンタジーラブストーリー - BLACK BIRDの感想

男がケモノ系男子で奪い合い

主人公は妖が見えてしまう体質の女の子・実沙緒。16歳の誕生日が近づくたびに日に日に多くなる妖たち。小さなころから悩まされてきたけど、もはや大けがをするレベルで迫ってくる。そんな時に再会した、初恋の男の子・匡。実は妖の中でも最強クラスの天狗であった匡。実沙緒を嫁にすることで、一族の繁栄・安泰を築こうとしていた…

そんな始まりのこの物語。一人の女の子をとりあっていく、ケモノ系男子の物語はよくありますよね。妖怪だけじゃなくてドラキュラ、オオカミなど。どれも、結ばれるためには一族の壁を越えなければならないということと、争いの中で常に危険にさらされて、それでもなおヒーロー・ヒロインが愛を貫く…だいたい1巻を読んだところで道筋はわかってたんですが、なぜかこの漫画はずーっと読んでしまいましたね。18巻も続いたのは、途中でだらけることなく展開されたストーリーがよかったんだろうなーって思います。

初めは天狗の兄妹での実沙緒の奪い合い。その次は白蛇や妖狐。そして親友…近しい者たちと闘い、そして勝利してこそ実沙緒を守ることができる。いばらの道だったけど、そうまでして貫く匡の愛が、人気が高かった理由でしょうね。わき目もふらず一直線。天狗の一族当主としても好かれる匡という人柄。見た目から中身から、どこをどうとっても完璧で、実沙緒の最愛の人でした。終始結ばれた後にどうなるかがわからなくてずっと苦しんだ匡と実沙緒。漫画の表紙も常に涙が見えて切ないものばかり…そのため、一番よかったのは、やっぱり最終回～番外編のところ。実沙緒が生き返ることができて最高に嬉しいのに、歩けなくなってしまった実沙緒を想って罪悪感に苦しんだり、せっかく生まれた颯を愛しているのに苦しい気持ちになったり…愛するあまりに悩み、そしてもう一度分かり合って結ばれることができたあの話。これこそ最終回、と思える深みがありました。ハッピーエンドだけれど、ハッピーなままでなく、人が生きているということの尊さを説いてくれている気がしてなりません。

容赦ない血の闘い

かわいい系の画とあってないのでは…？というくらい、血しぶきがハンパない。常に妖によって命を狙われている実沙緒は、首を切りつけられるは、脚を引っかかれるわ、背中を日本刀で切られるわ…散々な目に合っています。匡なんて、腕切り落とされた～…！とか、とてもシリアスな血しぶき展開ばかりでした。そこがまたギャップになっておもしろかったのかもしれませんね。敵がすごくイケメンばかりで、血だらけなのがまたウケたという気もします。ワイルド感が出てる感じ。実沙緒の傷を癒すのは、匡のキスですからね。そのシーンはさながらすでに行為に及んでいるかのよう。その姿も刺激的で、毎回楽しみにしているファンもいたかもしれません。

一族の存亡のために、その他の一族と闘わなければならないという話なので、どこか戦国時代も思い起こさせますよね。祥がやろうとしたのも、一族をぶっ壊して乱世をつくること。なんで好きだった女の子獲られてそっちに走るのかな。乱世になったところで、誰が幸せになるのか、わからない。好きなら優しくしてあげてくれよ…不器用な性格がせつなすぎた。そんだけ実沙緒を想っているなら、絶対幸せにもなれた。不器用って本当に損するよね。正直・素直って大切だなーと思う。

イケメン天狗たちの忠誠が嬉しかった

8人のイケメン天狗たち。最高でしたね。男の人に求めたい属性のすべてを用意してくれていたと思います。兄系、弟系、チャラ男系、ヤンチャ系、小さな男の子’s…みんな美しく、かわいかったです。匡が言っていたセリフで思い出深いものがあるんですが、実沙緒がなんで妖のみんなって全員綺麗な人ばかりなの？って質問をした返答として、「みんなお前に好かれるためにこの姿なんだ」って…これ、印象深いです。そうだよね、好かれたくて美しく・かっこよくなるんだわ、って。妖は人間を騙すために美しくあるのかなと思ったけれど、「好かれたくて」っていうのが優しい言葉だなーって思いました。作者さん天才！

そんなイケメン天狗たちの中に、裏切り者がいるかも…ってなったときは、あーお決まりでいやだわーって思ってました。そういうとき、絶対仲間内で殺し合いしなきゃならないし、美しかった友情がいったん壊れなきゃならないから、苦しいんですよ。それが、なんと裏切りの裏切りであったことが判明し、ほっと胸をなでおろしました。そうそう、みんなが実沙緒を、匡を、大好きでいてほしい。ここだけは揺らいでほしくないってところを守ってもらえて、個人的にはかなり良かったと思っています。

当主と家臣だからといってかたくなりすぎず、フレンドリーで情に熱いという設定はかなりの安心材料。孤高よりは良き人間に囲まれた良き人間であることが望まれますからね。ありきたり設定ではあるのですが、血みどろの争いの中の唯一のオアシスだなーと感じます。

母がすごい

実沙緒と匡だけで完結させずに、ちゃんと人間側の家族や友だちのことも描いてくれているのはよかったと思いますね。ありえないとはわかっているんですが、実沙緒の母がね…実沙緒が人間ではない相手と結婚しようとしていると知ってもなお、幸せならそれでいいと言えるところがかっこよかった。なんで母ってやつはこんなに強いんでしょうね。尊敬しちゃいます。どんなところへ行っても、娘が笑って幸せでいれるなら…って思える。確かに、父親が許さなくても、母親はなぜか許したりするよね…この安心感みたいなものって、生きとし生けるもの、共通なのかもしれません。あ、もちろん、人としてノーマルだった場合ですよ？虐待とかしちゃうような母親でなければ、誰でもたいてい持っている、子どもに対しての寛容な心だと思いますね。

そして、実沙緒も母になるわけです。子どもを産むということが、本当はもっと幸せなことに違いないのに、命と引き換えだと知ってもなお、子を残そうとする…残酷だけど、命をつないでいこうとする姿が立派だった。実沙緒はすっかり母親になったんだなーって感じました。こういうシーンを目の当たりにすると、やはり女性の強さをまざまざと感じますね。

最後までどっちに転ぶかわからなかった

実沙緒は仙果として強大な力をもたらすかわりに、何を失うのか。それがわからないまま結ばれちゃったり、安易に血を祥に渡しちゃったり、納得いかないことはたくさんありました。しかも、最終巻の表紙もすごい悲しい感じだし、こりゃーもうー死んじゃうフラグだわって思ってました。だからこそ、生きててくれて本当によかったし、ただ生きてただけじゃなくて、失ったものがありながら、それでも命があることに感謝して、愛する人を愛していこうとする姿勢を見せて終わってくれたのがよかったですね。最後の最後まで、どちらの結末になるのかがおあずけされ続けた分、喜びもひとしおです。

実沙緒の後遺症と引き換えに生まれた颯のこと、匡は愛していけるのかなーってちょっと心配だったけど、そこも解決されていくように思いました。海って…今までの嫌なことも、うれしかったことも、すべてが流れて混ざっていくようで、イイね。

颯に関して、続編とか出そうですよね。二世俳優てきな二世作品はあまり好きじゃないので、ここで終わってくれていいのではないかなーとは思っています。