猫好きブームはここからか
自由気ままな猫と自由気ままな3人
「やっぱり猫が好き」はもう随分前のドラマなのに、空前の猫好きブームの今にぴったりだ。
当時はあまりにも自由な設定、自由なストーリーに異色な感じしかなかったが、振り返って考えてみると今を先取りしていたのかもしれない。
「やっぱり猫が好き」というタイトルなのに、猫はたいして出てこない。ストーリーには、ほとんど絡まない。なのにどうしてこのタイトルなのか、タイトルに戸惑うのは、猫好きではない人ではないだろうか。
猫好きならば、このドラマがどうして「やっぱり猫が好き」というタイトルなのかが分かるにちがいない。猫は自由を愛する。3人姉妹も、それぞれ自由気ままに暮らしている。この3人姉妹は、猫が好きなのと同時に猫のような生き方が好きなのだ。
なぜかとても魅力的な三姉妹
このドラマの設定は、ありがちな3姉妹のステレオタイプそのままだ。しっかりした長女、自己主張の強い次女、愛される三女という具合になっている。
それなのに飽きるということがない。そう、似たものを見つけるならば「サザエさん」や「ちびまるこちゃん」だろうか。どれも共通しているものは、気取ったところがまったくなく、誰もが感じる日常の出来事のストレートな感情をそのままドラマにしているところだ。
そして分かりやすいステレオタイプどおりの設定だろう。期待するストーリを期待したとおりに見ることができるのだ。だからいつまでも飽きることなく見ることができるのかもしれない。
猫になったようにも感じられるドラマ
このドラマの中では、猫は演技をしていない。自由に動き回っているように見える。ストーリは猫ではなく3姉妹を中心に進んでいくので、主役は3姉妹だ。
でも実は猫は脇役ではなくて、猫目線のドラマだともいえる。
このドラマを見ていると、自分が他の家庭に入り込んだような錯覚を覚える人も多いだろう。目の前で姉妹同士の喧嘩がはじまることもある。仲良くすればいいのにしょうがないなあと言いたくなる。
この猫目線で人間に一言アドバイスしたくなるような感じは、夏目漱石の「我輩は猫である」にも似ていないだろうか。
「我輩は猫である」でも、小説に出てくる人間は誰もがありのままだ。主人公もぐいっと鼻毛を抜いてみたり、それをしみじみ眺めたりする。よく考えると、この小説もとても自由だ。何しろ鼻毛の話を書いているのだから。
猫の視点は、日常にしかない。食べたり、寝たり、けんかをしたり、笑ったり、そんな日常を毎日見続ける、猫の視点のようなドラマなのだ。
やわらかくて優しいお笑い
このドラマのもうひとつの面白さは、「笑い」にある。シリーズのなかで傑作と言われるものは、「笑い」がレベルアップしている回のものが多い。しゃべるはまぐりをめぐるストーリの時は、お腹を抱えて笑えるが、この笑いは漫才やお笑いの世界の笑いとは少し違う。
「やっぱり猫が好き」の笑いには、ぼけしかない。どこまでもぼけてぼけまくるのだ。
漫才の切れのある笑いとは少し違う、やわらかくて優しい「笑い」に満ちている。
ドラマでしか出会うことができないが、こんな優しい笑いに癒しを感じる人は多いのではないだろうか。だから、こんなにも愛されるドラマなのだ。
成長しない終わりのないストーリー
「やっぱり猫が好き」の3姉妹は、成長はしない。年を取らないという意味ではない。一般的にドラマや現実世界では、人は成長を求められる。何かから学んだり、それを今後に生かしたりすることを要求されるのだ。学校生活を通じて3年間で成長したり、仕事を通して何もできなかった新人がベテランとして成長していく。成長こそが、ドラマのテーマであることが多い。
しかしそれに反して、「やっぱり猫が好き」の3姉妹は、成長しない。いつまでも同じようなけんかをしたり、おかしな勘違いをしたりして楽しく過ごしている。
成長をしなければいけないという、世間の暗黙のプレッシャーのないドラマなのだ。だからこそ、なんだか楽しくて癒しに満ちている。
犬の価値観、猫の価値観
どちらかというと、犬は成長をしていきたい動物のように思える。お手をできるように学んだり、きちんと不審者を吼えて威嚇したりする。そして何よりも他人の価値観を大切にする。もちろん犬にもよるが、飼い主の意向にそってしつけやすいのが犬だ。
しかし、猫は犬とは違う価値観をもつように見える。自分の気持ちを大切にするのが猫だ。「やっぱり犬が好き」とタイトルだと、少し違うドラマになったことだろう。
「やっぱり猫が好き」のストーリーも笑いも、自分の楽しさを大切にしている。自分はこれが楽しい、一緒に見てもいいよ、というようなスタンスだ。
それがとても心地いい。どちらかと言うと犬的な価値観が支配する日本に、堂々と猫的な価値観を持ち込んだドラマが「やっぱり猫が好き」なのだ。
今は猫好きが増えて、犬的な価値観も揺らいでいる。このドラマはこんなにゆるいのに、なんて時代を先取りしていたのだろうか。
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