宮藤官九郎と小泉今日子の共存 - マンハッタンラブストーリーの感想

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マンハッタンラブストーリー

4.174.17
映像
3.33
脚本
4.17
キャスト
4.50
音楽
3.33
演出
3.83
感想数
3
観た人
4

宮藤官九郎と小泉今日子の共存

4.54.5
映像
3.0
脚本
4.0
キャスト
5.0
音楽
3.0
演出
4.0

目次

宮藤官九郎と磯山晶の三作目

宮藤官九郎と磯山晶が組むのもこれで三作目となった。思えば前二作の「池袋ウエストゲートパーク」と「木更津キャッツアイ」があまりに偉大すぎたことで、マンハッタンラブストーリーの知名度はそこまで高くならなかったのではないかという気がする。前二作が良かったことはもちろん否定できず、宮藤官九郎という天才が脚本を描き、当時はそれほど知られていない若手の俳優を主役に置き、脇役は個性的で退屈しない、ストーリーも現代的で基本的にはコメディでありながら社会的な要素や問題も要所要所でシリアスを演出する。そういったことでいうとマンハッタンラブストーリーは刺激が少ないかもしれない。ストーリーにメッセージ性は全くと言っていいほどない気がするし、派手な展開もない。何だかつらつらと欠点を並べたような形になってしまったが(笑)、言いたいのはそこではなく、それでもこの作品は面白い、ということだ。堤幸彦や金子文紀がいなくなったことで演出は変わったがそれで退屈することはない。何故ならキャスティングとその俳優陣が醸し出す雰囲気が十分演出的だからだ。それによりストーリーは今までの若い雰囲気から随分と大人っぽくなった。もちろんコメディであり気持ちのいい軽快さは残しつつだ。そういった意味ではこの作品はいつまでも色あせない良さを持っているのではないかと思う。

キャスティング賞の意味

前段にも書いた通りこの作品では前二作の宮藤官九郎作品とは違い、メインに若手ではなく小泉今日子という大女優を持ってきている。しかも今までにないキャラクターの設定で主人公なのだ。(実際はTOKIO松岡が主役という設定だが本当の中心人物はもはや小泉今日子)これにより周りのキャスティングはかなり難しくなると思うし、配役次第ではバランスも崩れていたと思う。そこにうまく若手やベテラン、キャラが元から濃い人や薄い人、正確に配置された。松尾スズキや及川光博の役を見ていると設定が先か役者が先かわからないくらい作品の重要な色を担っている。

しかしやはりこの作品は小泉今日子の作品であり、あらたな彼女の一面を見られるだけでも価値がある。彼女の舌打ちが聞きたいがためにドラマを見ていた人もいるだろう。だからこそバランスが求められた。結果としてこの作品では磯山晶がキャスティング賞を受賞しているのだが、その賞が意味するものはマンハッタンラブストーリーを見ればよくわかる。

作品を外から見る役

ここまでは作品全体やスタッフに関して意見してきたが、作品の中身自体にも面白いところはある。まずこの作品の設定は、一見つながりのなさそうな人たちが一つのカフェで交わりストーリーが展開されていくというもので、そのすべての物語はカフェのマスターの主観によって見られるのだ。そこがまず一つ新しい。マスター(松岡)は設定上一言も声を発さないがテレビを見ている人だけが彼の心の声を聴くことが出来る。それにより視聴者もマスターの主観を通じてこのストーリー全体を見ていくことになる。そしてそのほとんどがお笑いでいうところのツッコミなのだ。普通の作品は登場人物同士の掛け合いの中にコメディがある場合がほとんどだ。しかしストーリー全体を外から見るマスターの存在によって、展開すべてがボケとして楽しめ、見ている人は突っ込みの目線でマスターと共感していく。ある種新しい形のコメディでもある。

もう一つ中身の演出として特徴的なのが、二重のストーリーの平行だ。それは木更津キャッツアイであった”表”と”裏”で同時にストーリーが進行している演出や、後のタイガー&ドラゴンでもあった落語の話と実際の物語が類似して展開していくというものと同じで、この作品も千倉先生(森下愛子)の書く恋愛ドラマの内容と赤羽伸子(小泉今日子)の半生が実は類似していたという側面がある。ただこの作品に限ってはそれはサブリミナル的な効果にすぎず、見ている人がそれにとらわれることはない。しかしあとあとよく見返してみると、赤羽伸子の過去についてしきりに周りの人物が質問をする場面があり、そのたびに赤羽伸子が意味深なごまかし方をしていた。一話で赤羽と別所(及川光博)が会話をする場面でも、「タバコいつから吸ってんの?」という質問がある。それに対して赤羽は「忘れた。」と答える場面がある。そうして伏線のようなものを積み上げていって、ドラマの終盤では千倉先生のドラマと赤羽伸子の半生が酷似していたということが発覚する。このようによくよく見ているとストーリーもかなり作りこまれていて面白い。

そしてそのストーリーも、登場人物の名前のアルファベットの順番で展開していくというある種ネタバレ的な展開だが、それがかえってフリとなりマスターの名前や忍ちゃん(塚本高史)の苗字がはじめは隠されていることや、赤羽伸子が名前を偽っていたことが後々にストーリーを面白くしていく。

全体的にインパクトがそれほど強い作品ではないが、よくよく見ていると細かいところまで充実していて、脚本、キャスティング、キャラクター、演技ととても見がいがあり、何度見返しても面白いという良さが、マンハッタンラブストーリーの独特の味ではないかと思う。。

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他のレビュアーの感想・評価

複雑なラブストーリー

宮藤官九郎さんの、新しい作風宮藤官九郎さん脚本の作品は、「ピンポン」や「池袋ウエストゲートパーク」、「木更津キャッツアイ」など、若者が活躍するような、青春群像劇が多かったと思います。そのイメージとは真逆の、大人のラブストーリーをテーマとしたのが、この「マンハッタンラブストーリー」です。それまでの作品では、若者言葉が飛び交う騒がしい作風だったと思います。しかし、このマンハッタンラブストーリーでは、そういった実績を捨てて、年齢の高いキャラクターを多く出しながらも、しっかりと笑える脚本作りをしていると思います。また、ラブストーリーという、ともすると緩急をつけるのが難しいテーマにもチャレンジしていると思います。そのおかげで、マンハッタンラブストーリーは、これまでティーンや若者層に支持のあった宮藤官九郎さんのファン層を広げた作品になったと思います。また、各キャストにも意外性のあるキャラクターを当...この感想を読む

3.03.0
  • naonao
  • 167view
  • 2018文字
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クドカン作品で一番のお気に入り!

いまや超人気脚本家、宮藤官九郎さん脚本のドラマです。宮藤官九郎さんのドラマの中では若干マイナーな気がしますが、私はこれが一番好き!クドカンドラマ特有のテンポの良さ、ボケとツッコミの応酬…などは期待以上。それに加えてキャストも最高。特に小泉今日子さんの緩急自在な演技には毎回釘付けになります。妄想力豊かな恋する乙女になったかと思うと、次の瞬間には女でも惚れそうな男らしさを見せたり。小泉今日子さんがこんな役をできる女優さんだとは知りませんでしたが、少しでも見ると「この役をできるのはこの人しかいない」と思えます。ストーリーの展開も面白い。大まかに言うと、登場する男女が常にみんな片思い状態。AさんがBさんを好きで、BさんはCさんを好きで、CさんはDさん…と、思いは常に一方通行。三角関係、四角関係くらいなら他のドラマでもよくあるけど、ここまで複数の一方通行は他にない。しかもその中でもそれぞれの登場人物の...この感想を読む

5.05.0
  • まにたまにた
  • 98view
  • 519文字

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