変猫がテンプレアニメではない理由
圧倒的な萌え力
タイトルからも察することが出来るが、アニメ『変態王子と笑わない猫。』の魅力において萌え要素が占める割合は大きい。クーデレ、ツンデレ、お姉さん、ポニーテール、後輩などなど、ヒロイン達のキャラクター造形ではテンプレートなアイコン的属性がしっかりと踏襲されており、またビジュアル的な面においても、原案カントク氏が造ったキャラクターは他アニメと比較して優れていると感じることが出来る。しかし、このアニメにおける萌えの真骨頂は別の部分に存在していると、筆者は断定する。
それはヒロイン達がストーリーの中で垣間見せる「闇」である。
原作者さがら総は他作品においても可愛い女の子というラベルの裏に、どす黒い何かを覗かせるようなキャラクター造形を得意としているのだが、この作品においてもその特殊なキャラクター造形方法はいかんなく発揮されている。
例えば、メインヒロイン筒隠月子の異様なまでの主人公への執着。彼女は主人公と一緒に居たいと思うが為に、結果的ではあるが自分の住む家に暴風雨を起こしてしまう。またアニメ本編では描写されていないが、原作において彼女は主人公の行動を逐一記録する大魔王ノートというものをつけており、そこには主人公が所持する桃色ビデオのレポートまで記録されているらしい……。また他ヒロインにおいても、同一人物を双子の兄弟と決めつける天然さや、下着渡しフェチなど常軌を逸した性癖などが見止められる。
これらは日常生活では滅多に見られないような特徴であり、一部だけを切り取るとドン引きしてしまいそうではあるのだが、この作品はキャラクターの基本的な可愛さ、萌えを以ってそのどす黒さを中和、或いは昇華しているのである。あんなに可愛い女の子が……、と思うと、むしろ愛おしくさえ思えてくるところがこのアニメの凄いところである。
変態だけどさわやかな主人公
このアニメの魅力を語るにおいて、先に記した通りヒロイン達の可愛さは外せないが、主人公の人物像も中々魅力的であることを触れずにはおけない。
何よりこの主人公、他のどのアニメの主人公と比較しても群を抜いて変態なのである。女の子の布の下を見ることに思いを馳せ、巨乳も貧乳もこよなく愛し、並一辺倒な灰色高校生活に汲々とすることを潔しとせず、その類まれなる変態さを以って矜持となす。
まず冒頭において、この主人公、競泳水着の逸品さを語りながらプールを覗いている。圧倒的な変態さは以降も続いていくのだが、何ともこの主人公を嫌いになれない。それは彼が持つさわやかさ所以であろう。デートで産婦人科に行ったり、所持している抱き枕がちょっと酷い見た目をしていたり、学校のど真ん中でヒロインに対して奴隷ワンコ宣言をしたりと、変態ではあるのだがどこかユーモアというか、クスッと笑ってしまうようなさわやかさも合わせ持っている為、横寺葉人という好感の持てる新鮮なキャラクターになっているのだろう。また海外の詩人オスカー・ワイルドを敬愛し、日本の文学作品にも既知に富んでいることは、このキャラクターの奥深さに繋がっていると考えられる。
なぜ覇権を握れなかったのか
このアニメ、タイトルとキービジュアルだけ見ると「あーはいはい、またいつもの学園ラブコメね、知ってる知ってる」と思ってしまいがちだが、実はちょっと違う。確かにタイトルはいかにもなラノベ感で、キービジュアルも萌えアニメ然としており、ヒロインの着替えを覗いてしまうなどの百万回見たテンプレ展開は内包されているのだが、このアニメはそれだけに留まらない。上記の通りキャラクター造形に一工夫凝らしてあること以外にもストーリーの面からそれは感じられる。
というのもこの作品、萌えアニメにしては鬱展開が多いのだ。しかも、それはキャラクターの内面に依存したストーリー展開となっている。猫神さまと願い事というストーリーの主軸を持ちながら、ストーリーは各ヒロインの内面に深く入れ込んでいる。
しかし、内面部分を丁寧に描いているだけに、主軸となるストーリーの粗さが目立つのはこの作品の欠点であろう。特に過去と現在を行ったり来たりする部分や、爽やか王子の下りでは、アニメ部分だけを見ると少し雑とういか、説明不足感は否めなかった。勿論、行間を読める人や、ストーリー慣れをしている人にとって難はなかっただろうが、このアニメのメインターゲット層であろう中高生男子には少々複雑だったかもしれない。考察するに、このアニメのポテンシャルを上手く引き出せずに、覇権アニメとしての評価を得られていない現状の要因はそこにあるかもしれない。しかし何にしても、並のアニメに対して異様な作品であることに筆者は疑いがない。
まとめ
テンプレ萌えアニメの皮を被った一筋縄ではいかない作品、というのがこのアニメに対する感想だ。その要因を考察していくと、異色なキャラクター造形、内面に入れ込むシリアスなストーリー、よく言えば深く、悪く言えば複雑で粗い脚本、などが見えてくる。また原作では更にその色が強まっている為、興味があれば一考の価値はあるだろう。
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