お金持ちは窮屈なのか?
貴族と庶民の組み合わせ
どちらか一方が貴族(金持ち)、どちらか一方が庶民という組み合わせはよくありますよね。で、テーマになるのはその壁を越えれるのかということ。この物語では、神澤伯王(すげー名前だなと思う)という金持ちの息子と、氷室良(ずいぶんと男っぽい名前…)という実は金持ち一族の血を引いていたのに庶民の家で育った女の子の、ロミオとジュリエット的な話に仕上がっています。
良は、駆け落ちした両親を失い、金持ちだった祖父母に引き取られて、金持ちお嬢様しか通えない学校に通うことになりました。前向きで、毒がなくて、両親のもとに生まれたことや祖父母のことを誇りに思っている優しい女の子。誰かに頼ってばかりじゃなくて、できることは自分でやる。それが伯王との偶然の出会いから、恋が始まっていきます。伯王はとても努力家で、自分の親に頼って生きるのではなく、自分の力を試したくて執事の学校に通うことにした男の子。憧れの執事・向坂遥巳の影響で、その技を極めて学校でも成績優秀の生徒という設定。芯が強くて優しい伯王は、お嬢様であることや自分の境遇を飾らない良を認め、お互いに惹かれあっていきます。伯王は甘党で、良はケーキ作りが得意。そんなところも相性ばっちり!だけど恋の自覚はなんと8巻が出るまで全然…!執事とお嬢様として一流の道を駆け上がりつつ、心の距離を縮めつつ、ここまで時間がかかるとは思いませんでした。良がすごく鈍感な子で…仙堂さんといい感じになってさっさと自覚させてくれればよかったものを、仙堂さんも鈍すぎて、不発だったのがもったいなかった。もっとがっつり来てくれてもよかったと思うんですけどね。
執事への憧れ
伯王が持つ、執事への憧れ。自分への挑戦。いいね。自分のご主人様をいかに立て、ご主人様が最高のパフォーマンスができるようにすることがすべて。この人こそが自分のすべて…いいよね~…ほしいよね~執事。だって歩く道の先にいかなる危険もないように準備し、時には話し相手になってくれて、アドバイスをくれて、常に尊重してくれて、信用しているからこそ叱ってもくれて。こんな人、いたら最高だと思う。夫も妻もいらないと思ってしまうほど。だって執事と主人という関係だからこそ、割り切って付き合うことができるし、メリットを共有して生きていけるし。良と伯王みたいに、出会ってすぐその関係ができあがり、そのまま恋愛に発展していくっていうのは少し怖くもありました。プライベートと仕事のすべてを共有する関係ってなかなか難しいところがあるじゃないですか。でも背徳感も楽しめるかなーとも思います。執事がいつもご主人様に付き従っているのに、それがプライベートで見事な逆転を見せるという…妄想すると楽しい。その点でも執事っていいよね。ちょっとエロさを求めると、ですけど。
そりゃー金持ちのお父さんからしてみれば、なんで息子が執事を雇うような立場なのに、執事の仕事なんざやってるんだよってなりますよね。社会勉強・自分を試し強くするために執事としての仕事を学んでいる。少しは言い分も聞いてやればいいのにさ、全然きかないもんね。これだから頑固おやじは嫌だわ。
王子を支えるサポート役がかっこいい
もちろん、伯王を支える庵さん、隼斗さんも忘れてはなりません。やはりキャラの濃さは男が出してくれないとね。庵さんは、優しい笑顔で皮肉を言うのが得意な人物。手厳しく指導もするけど、ストレートで純粋すぎる言葉にはどう皮肉を込めたらいいのかわからずフリーズしてしまうというピュアに弱い人です。一方の隼斗さんは優しく、気さくで、少しくらいのわがままだったら許しちゃう。だけど怒ったらきっと隼斗さんのほうが怖いだろうなーって思う人ですね。庵さんも隼斗さんも、伯王を本当に大事に想っていて、伯王のサポートが万全!身辺整理も食事管理もほっとかないその過保護具合も、ルックスもかっこいいし、伯王よりも背が高くて魅力的!虜にされた女性は数知れず、読者も虜にさせてくるその目立ち具合がいいんだよね~…助さんカクさん的な。
そして、忘れてはならないのが憧れの執事である向坂遥巳さんと、伯王の姉である碧さん。良にナイスなアドバイスを連発するし、良の将来の夢のためにお菓子作りの先生にもなってくれるし。この人たちなしには伯王との距離を縮めることはできなかったと思います。やっぱりいい人間にはいい人間が寄ってくると思うんですよね。似たような人間同士、群れるというか。もちろんいい意味でね。方向性が似ている者同士のほうが理解しあうことができるし、自然の摂理かなーと思います。世の中の人間関係はめんどくさいことが多いけれど、そういう中で大切なもの・大切な人を見失わないようにしたいものです。
横恋慕は少なめ
サイボーグ仙堂さん、真琴、ユキヤ、留学生のアル、婚約者の紗英などなど。伯王と良の前に立ちはだかる問題はいろいろありましたけど、伯王と良の関係性は完全にできあがっちゃってて、ぐらつきはほとんどなかったように思います。鈍感な二人がいつ恋に目覚めてくれるのか、というあたりが気になるところでした。目覚めてくれてからは今度はお家柄がお互いの壁になる。伯王の父親との確執に向き合わなければ前に進めない。想いの強さがいかほどのものか本気を見せるため、一時的に距離を置いて真正面から父親にお願いをしに行く良。距離を置く必要があったのか、よくわかりませんが、本気が伝わったようならよかった。親はいつまでも子どもの事が心配なものなんだよ。ついこの間までハイハイしていたと思っていた子どもが、いつしか未来を見据えてどっしりと構えて立っている…嬉しい事じゃないか。でもどこの家庭だって、大事な息子の成長を簡単には認めてあげないのが父親だよね。自分だって家族を守ってきたプライドがあるし、これからも息子の目標であり続けるために常に気丈にかっこよくあり続けなければならないと思っている。父親ってやつは、いつでも子どもの前を歩いていたいって思うものなんでしょうね。女もたいがいめんどくさいと思うけど、なんか知らんが男のプライドも相当めんどくさいもののように思うよ…
まさか執事のお話で父親像にて力説するに至るとは思っていなかった…笑
いろんな人たちに支えられて
伯王と良は、学校のお友達たちや、常に伯王の見方であり続けてくれた庵・隼斗、執事の先生としての向坂さん、お姉さまの碧さんなど、たくさんの人たちに支えられて楽しい学校生活を送ることができたし、ハッピーエンドを迎えることができました。全体的に金持ち学校ならではのぶっ飛んだ遊びや学校行事、よくわからないしきたりなど、そういうしがらみはありつつも、良と伯王はとても自由にのびのび恋愛できていたなーと思います。
この物語を読んでいると、金持ちだから自由、金持ちだから窮屈、いろんな言い方があるけれど、要はその境遇をどう利用してやるかは本人次第ってことで、お金を持っているどうこう関係ない!と思いたい!ってことを考えました。もちろん、お金があるからこそ考える選択肢は大きく広がるし、自由だって手にできるんだと思うんですけどね。ただどんな世界においても大事なものっていうのは同じだなーって感じます。大事なものは見落としてしまいそうになるほど単純で身近にあるもの。そしてそれを知っていることが尊いし、何より自信につながるという気がしますね。
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