CLAMPファン古参のバイブル
誰が誰にとって必要なのか?
この作品は月刊Wingsという既存の少女漫画とは一線を画す個性的な漫画作品ばかりを集めた女性向けの雑誌に掲載されていました。休載期間もあったりして、当時連載中はこの作品を読むのが大変でした。世界観は仏教で、天界と呼ばれる場所が舞台で、阿修羅族を中心に夜叉と六星の仲間。天界の東西南北を守護する武神が代表格の物語です。キャラクターが個性的ですが、それぞれに大切な人が必ずおり、恋愛感情や友愛、幼馴染、親子愛、いろいろなものが混じりあってキャラクター同士が繋がっています。戦争という殺戮や命の助け合いに、複雑な関係が多々あり、過去エピソードを念頭にそのキャラクター達の今を読み進めていくので、色んな解釈の仕方が発生するようになっています。最終回に向けて殆どのキャラクターが壮絶な末路をたどるので、読んでいて受ける印象は一言で言うと「悲恋」です。叶わぬ恋というものがこの物語にはかなり多く見られます。特に、阿修羅と夜叉は最後に叶っても悲しいものでした。生きるというのは何かを犠牲にしてでも幸せを求めるしかないのだよ、というのが作品の根底にあります。この考え方はCLAMP作品には一貫してあるものなのですが、特に濃ゆかったのはこの作品かもしれません。
この時代のCLAMP作品の画力は凄い
CLAMP先生は漫画家集団ということなのですが、最初におられたメンバーの方が独立されたりしています。集団の中でお描きになる役割が変わっていきますが、特に聖伝4巻あたりから最終話までに絵が劇的に変わっていっていますが、漫画でここまでドラマ性のある描写力と演出力が出せる作家さんはあまりいません。独特のエロチシズム(エロそのものではなく、生命力のある生々しさ)をお持ちなので、インドのテーマが本当にお似合いです。線が踊るような描写で、戦闘シーンも女性作家とは思えないほどダイナミックな描き方をされます。本当に独特な絵柄をされているのですが、のちのCLAMP先生たちのヒット作品(xや東京BABYLON、魔法騎士レイアースなど)にも深く影響する画面構成やデザインの源流表現は、ここから見ることができます。独特な水や炎、鳥の羽やガラスの破片、蝶や花は、CLAMP作品で多く描かれることが多いのですが、特にその要素はここからかな?というのが多いです。
説教臭いのが苦手な人も?
信念を持つキャラクターが多いので、人生訓を言うセリフが少し多いです。ストーリーにさほど影響しない所でぽろっとそういうセリフが出るのも大きな魅力なのですが、普通の読み方をしていて、そこまで漫画を楽しまない読者や、ちら読みしたいだけの人は苦手に感じて受け付けないのかもしれません。
天界の帝釈天と阿修羅王の闘いで、帝釈天が勝利して(阿修羅王が自分を食らえと言ったこともあり)天帝交代もあって天界は武神将も世代交代を一度行っているのですが、生前の阿修羅王は自分の願いのために九曜を通じて特に幼い夜叉王を見込んでいましたが、阿修羅王を守護する取り巻きの12神将がどうなったかはあまり描かれていないというか、作中ではその後を一切聞きません。12神将って六星候補よりも、当時では阿修羅王の身近な存在であったのではないのかなと思います。もしおつきの12神将に阿修羅王が「将来こうなる予言がある」という相談していたら、ことが大きく変わっていたような気がしないでもないのです。星の軌道が変わらないのと同じで、運命は変えられないと作中何度もあるのですが、そう描かれるとじゃあこうだったらどうなんだろう?という思いに、読者はいちいち駆り立てられますね。楽師の君である隠れた東の武神将の乾闥婆王にしても、九曜とつながりはありませんが、夜叉王がかくまってもらうよりも前の段階で、「阿修羅王がこう言ってきた」と幼いときに相談さえしていたら何か違う結末が・・・というのもあります。でもそうなると愛しい蘇摩との出会いも違うことになったか、悪くすれば出会い自体がなかったかもしれませんね。龍王の死に方は、読者に阿修羅の破壊神としての非情な面のお披露目として使われてしまった感じで、龍王のストーリー性は最期に関してなんともいえません。六星の中で最初の犠牲者ですが、そのとき他の六星は龍王が死んだのを察知できたのですよね。ということは、そこでわかるのですが、六星同士なら他の六星が生きてるか死んでるか気でわかるということでした。帝釈天との戦いの後、夜叉王は阿修羅が死んでいないことがわかっていて、ずっとラストまで阿修羅のそばにいたという解釈で多分間違いないと思います。ずっと謎だった孔雀の正体は誰も予想だにしなかった天界最高位の人ですが、母親から無理心中を持ちかけられて失敗したあとで、どこで何をやってきたかあまり描かれていません。あの人はラストに死ぬ役目でもない気がしたのですが、最後の「おはよう阿修羅」というのはなんだかあのキャラらしいですね。
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