記憶に残る演出 - ロング・ラブレター~漂流教室 LONG LOVE LETTERの感想

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ロング・ラブレター~漂流教室 LONG LOVE LETTER

4.504.50
映像
4.00
脚本
4.50
キャスト
4.17
音楽
4.17
演出
4.50
感想数
3
観た人
3

記憶に残る演出

4.54.5
映像
3.5
脚本
5.0
キャスト
3.0
音楽
3.5
演出
4.5

目次

非現実を現実に見せる

本作は、学校ごと未来の地球にタイムスリップするというSF物語であるが、注目したいのはきちんと作り込まれた構成のリアリティーである。例えば、本作では未来の地球で生きる人間として、「旧来型の人間」と「新人類」を分けて登場させているが「旧来型の人間」が登場したとき、その人らが話す言語はどのようにするのか、と個人的に注目してみていた。というのも、未来である以上、日本語であろうとなんであろうと言語は何かしら変わっているはずである(千年前の日本語を読むのは現代人にとって難しい)からである。

「旧来型の人間」は中国語と日本語が混ざった言語を話していた。政府がなくなり無秩序になればヒトの移動は自由になるのは当然であって、複数言語が混ざり合っている描写がなされていたのは非常にリアルであった。学校ごと未来にタイムスリップするという突拍子もない設定も、こうした細かい作り込みによって本当のことのように思えてくるのである。

大人たちの醜さが地球の荒廃に投影されている

学校の教師も生徒とともに未来へタイムスリップしていたわけだが、ことごとく生徒を裏切っていく。そこから生徒の自律に任せて荒廃した地球での生活を切り開いていくというのが基本路線である。

クライマックスでは、このような地球にしないよう、過去の人間たちに呼びかけているわけだが、このことからすると、裏切り合う大人の醜さが荒廃した地球の原因であるというように考えられているのではないかと思う。現代の環境問題にしても、グローバルに問題が起きてしまう以上、現状、環境問題を解決ないしより良い方向に持っていくのは各国の協力ということになる。しかし、各国とも経済成長を目指したいわけで、できることならコストがかかる環境問題に取り組みたくはない。それは人間の当然の心境である。しかし、それではダメだといって条約による縛りが現代社会でなされている。結局は、人間としての醜さ、自分が良ければ全体がどうなろうといいさ、という感情が環境問題を引き起こす、悪化させることになる。それに警鐘を鳴らしていたのが本作のクライマックスであるはずだ。だとすると、やはり本作で登場する大人たちの醜さは地球の荒廃とリンクしている。作者はそのような意図で物語を書いたのではないだろうか。

新人類のグロテスクさとメッセージ

上で書いたように、本作は未来の地球の人間を「旧来型の人間」と「新人類」に分けている。「新人類」は特異な進化を遂げており、それが記憶に残ったという方も多いのではないだろうか。かくいう僕もその1人である。サルからヒトへと進化してきた我々であるが、四足歩行から始まり、二足歩行をするように進化した。一方、新人類はというと、そこからさらに背骨を折るような形でまるでブリッジをするかのように四足歩行の生き物になっている。進化の過程を記した岩盤は非常にグロテスクで、怖いもの見たさがあってか、本作においても有数の衝撃的なシーンといった感じである。

ここで考えたいのは、なぜ作者はこのような進化を遂げさせたのか、ということだ。進化をさせたいなら、クモのように8本足にさせるもよし、宇宙人のような全く見たこともない生物にするもよし、いろいろな進化のさせかたがある。中でも、上のような進化のさせかたを選んだのはなぜだろうか。僕は、それが進化を退化と見立てるためではないかと思っている。というのも、人間は四足歩行のサルから二足歩行に進化したわけだが、ブリッジするかのように歩く「新人類」はまるで退化したかのようではないか。進化は退化であるとうメッセージがここにはこめられているのではないか。本作は、いきすぎた経済発展が地球を荒廃させたとされるが、経済発展は普通は進化と捉えられる一方で、それが環境破壊につながるのなら、退化とも言えよう。進化と退化、その境界は曖昧であるということを示したかったのではないだろうか。

過去には戻れない残酷さとその戒め

本作のクライマックスでは、主人公らは過去にと戻ることはできず、過去の人間にこのような地球にさせないでくれと嘆願をする。個人的には、ここまでバットエンドでいいのか..と思ってしまったが、過去に戻れない、というのが本作の一貫性を示しているのだろうと思う。一度、地球が壊れてしまったらやり直しがきかない、どうしようもないのである。それを戒めることこそ本作の大きなメッセージである。だからこそ、主人公らはもといた世界に戻ることはできず、荒廃した未来の地球で生きていかなくてはならないのである。こんな地球にしないでくれとお願いされたのは、作中ではもといた世界にいる人間だが、それはそのまま我々1人1人と見るべきである。一貫性を貫くのであれば、こうして過去の人間に警鐘を鳴らすこともできないようにした方がすっきりするのだが、それでは作者の伝えたいであろうメッセージを明確に示すことはできない。そこで考えられたのが、過去の人間に呼びかけるていをとって作品を見る我々にメッセージをいう手法ではないか。そのように考えると、一見一貫性のないように思われる演出も、メッセージ性を強く感じることができる。

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4.04.0
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5.05.0
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