世界感は好ましいもののもう一つキャラクターの機微がほしい。 - ラブデスターの感想

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ラブデスター

2.402.40
画力
3.50
ストーリー
2.00
キャラクター
3.10
設定
2.80
演出
3.10
感想数
1
読んだ人
2

世界感は好ましいもののもう一つキャラクターの機微がほしい。

2.42.4
画力
3.5
ストーリー
2.0
キャラクター
3.1
設定
2.8
演出
3.1

目次

大規模移動系

主人公の生徒会長ミクニをはじめ、一つの学園の学年が総ワープしてしまうお話。仕掛け人は宇宙人のファウストで、人間の愛なるものに対する考察を深めるために、ミクニ達を被験者に愛の実験を試すというもの。しかしその内容がドラスティックなもので、たやすく人の命を賭ける宇宙人故の倫理感の欠如が舞台にシビアさを生む。この世界観で注目すべき点はやはり管理者たるファウスト含む宇宙人の存在である。自分がこの作品と類似すると考える「リアルアカウント」や「トモダチゲーム」と比較すると、幼馴染というメルクマールでかろうじて独自性を保つものだろう。幼馴染というのは、貴族のような華麗の出で立ちと経歴を併せ持つ坊ちゃんタイプと、ごく平凡に見える女子とミクニである後にこじれた三角関係となるが、この作品を愉快にさせる要因になるとは現時点で考えづらい。さてこのお話で興味深いのは、やはり世界の管理者の特徴である。例えば愉快犯のようなタイプと官僚的な態度で事務的に世界を回す2種に区別されると考えるが、この作品ではファウストは時に中管理職のような立場に追われる。「ソードアートオンライン」では世界の管理者たる茅場が、同地上で対峙するなど、立場の変遷が見られる作品もあるが、この作品では、番長キャラのチヒロがファウストに切り込む者のファウストの動揺した姿を拝むことはできず、情緒の芽は出てこない。以上を踏まえると、世界の管理者が確固と顕現してはいるものの、世界の平衡を人為的に崩す要素は見当たらず、その点でいえば設定に強引さは見られないと感じる。

学園物

宇宙人の無慈悲な実験は、人権に対する考慮をもちろん含まない。あたかも神の視点であるかのように、主人公周りの人間以外は容易に命を奪われる。見せしめを含む名もなき人物の大量虐殺は、デスゲーム故の宿命であろうか。私自身はスプラッタに惹かれる傾向はないものの、スプラッターな非日常的な描写は中高生に受けるものであろうと、そこは同意する。その点でいえば、デスゲームの品質としては一定の残虐性はあるものの、愛の成立したカップルは帰還できるといった制約が、高校生の学園ものと言った属性を強めるものではある。ヒロインとしては幼馴染よりもう少し魅力であろう、主人公の学校よりもう少し頭の良い学園の生徒会長周りや当然主人公周りもデスゲームの処刑からプロテクトされているため、学園者らしさを発揮するであろうか。画力も問題ないため、キャラのルックス的魅力は担保されているので、高校生の恋愛を期待するものにはキャラの内面をあるていど捨象する必要があれば、違和感なく楽しめる可能性もあるだろう。真実の愛といったテーマは正直高校生の恋愛の枠組みでは難しいのではないかと思うが、情緒的に未熟であるからこそ理性の塊である宇宙人の脳裏にインパクトを起こすことを期待しているのであろうか。ゲーテの「ファウスト」よろしくファウストに人間的情念を生ませるのは、世界の管理者たる役割上不可能である。そのためミクニを愛の装置として起動させられるか否かに物語の顛末がかかっているのは上手い転がせ方だと思うが、ミクニ自身に知略や複雑な心境を望むことが出来ないのがネックであり、盲目的な行動に見えてしまう部分がある。

宇宙人の機微と、地球人の短絡

前述した、ファウストの中間管理職的立場による苦労はともあれ、地球人側の心情は正直言ってもう一つというほかないだろう。こうした作品では些細なハプニングが人の心情に波風を立たせ、方向を揺らすものだと思う。その点で、時に複雑な心理描写と一枚岩ではない感情、重層に蓄積された経験に基づく、心理的バランスゲームが繰り広げられることで物語を2転3転することができる。しかし、地球人たちの知略は本作では見られることはない。シニカルなキャラクターが一人でも端にいれば、個人的には面白くなると思う。ミクニが現状頼れる男キャラが散見されない点は少し残念である。物語の基本は、出発、イニシエーション(通過儀礼)、帰還であるからミクニにイニシエーションをくぐらせるには、幼馴染2人との切磋だけでは個人的に不十分である。ファウストがミクニに期待するものは心の模様替えであり、おそらく読者が期待するものも同一である。男の幼馴染のジェラシーをどう対処するかは、ミクニの心理に何かしらの効果をもたらすとは思うが、全体としての作品の印象を変えるには難しいであろう。宇宙人側の無理と地球人の板挟みに遭うファウストのように、ミクニ達にも何かしらの影が必要であるように思われる。「おのれファウスト」といった一辺倒の単一性指向性の行動によってでは、一定の読者を退けてしまう。今後も短絡であるキャラ達が非日常の世界で非論理的で単細胞な行動にひた走るのではなく、同じジャンププラスの「ファイアパンチ」のトカゲのように世界観に切り込みをいれる人間サイドのキャラクターの存在が必要となるだろう。結論づけると、ジャンププラスで無料で読む分には他と比較して秀でた部分は確かにあるが、現状商業の枠組みで価値があるかといわれると個人的には選ぶことがないだろうと思う。

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