登場人物1人1人の心情を丁寧に
真魚と基の気持ち
真魚のツンデレはいいな~そしてそれがすべて基にばれているというあたり、また萌えるところです。いつも強がって、素直になれなくて、でも本当は優しいこと、苦しいこと、ちゃんとわかってるよ?そんな基がまたかわいいです。
真魚は両親がいたときでも、自分の居場所はどこにもない・基の家くらいしか自分が安らげるところはない…と感じていました。そして両親の離婚や、基の両親の死により、2つの家族はバラバラに。基は家族がまた一緒に暮らせることを願って、1人で広い家を守ってきました。「家族」というかたちが何よりも欲しい2人にとっては、一緒に暮らすことは自然な流れだったなーと思います。はじめは基が無自覚の優しさだったので何とか何事もなく過ごせていたけれど、真魚が気持ちを自覚してからはドキドキハラハラさせてくれました。基もなんかおかしい何だろうこの気持ち…と思い始め、このあたりが一番2人にとってあいまいで幸せな時間だったように思います。その後は苦しいこともいっぱいありましたから。
一緒にいたいなと思うのは恋なのか?家族への憧れなのか?真魚への同情なのか?ペットと同じような愛情なのか…?これはどれとも言えない、というのが正直なところですよね。2人にとっては全部の要素が入っていたと思います。また、基の苦しみも本当に胸が苦しくなりましたね。真魚の父親を見て、なんでこんなひどい奴に家族がいるんだろう?こんなに家族のことを想っているのにオレには家族がいないんだろう?真魚がどれだけ父親に突き放されても本当は一緒にいたいと思っているように、どんだけひどい奴でも父親なら無条件に求めてもらえるんだろうか…?そんな気持ちが透けて見えて、感情移入してしまいましたね。
お父さんとお義母さん
真魚が逃げたように、お父さんもお義母さんも真魚から逃げていたんですよね、結局。分かり合いたいなとは思っていて、それを口にするだけの勇気はなくて…。心が強いとか弱いとかって言うのは、やっぱり年齢が関係ないもので、誰だって何かが壊れてしまうことは怖くて、笑っていられるならそのほうが幸せかもしれないから、敢えてぶつかろうとは思わなかったり。壊すときは怖いけど、がんばってそれを壊してまた一からつくりあげることができたとき、もう怖いものってないんですよね。お義母さん、実はこんなにいい人だったんだね…って思いました。自分が愛されることだけを考えていたわけじゃないんだってこと、伝わりましたね~
また、お父さんの気持ちも、わかるようなわからないような…自分が理解されたい・求められたいと思っていたんでしょうね。妻も娘も、自分から離れていったんだからしかたない。そうやって諦めて、自分のほうが傷ついてるって思いこませて。何が悪くて、何が必要なのかには目を向けずに新しいものにばかり目を向けている…真魚と基のおかげで、ちゃんと家族になれたと思いますよ、ほんとにね。2つの家族で一緒にキャンプに出かけるとなったときは、今まで何もなかったところに一気に道が見えた気がしました。真魚もえらいよ!基と向き合うために、家族と向き合うことを選んだっていうのは、原動力は恋の力だけど、そうさせてくれる存在に出会って変われたっていうのが何よりの心の成長です。
ちーちゃんと織田くん
ちーちゃんは親友として最高でした!織田くんが真魚のことしか見えてないって思って織田くんを好きな気持ちを隠して、だけどそれよりも真魚が本当のところで自分を頼ってくれないことに怒っていて。なんでも話せる関係になれたときの感動といったら…なんと美しい…!必要だから、一緒にいるんだよ。頼ったり頼られたり、親友はそんな簡単に崩れたりしたいんだよ。織田くんのせいで真魚は全部ぐっちゃぐちゃに失ってしまうのかとビクビクしながら読んでいましたが、ちーちゃんは女神でした…。
織田くんももちろん良かったです。ただ奪おうと考えているわけではない、というのがピュアボーイ。イケメンで女ばかりの家族の中で育ったことにより、女への配慮を否応なく覚え、女の黒い部分も覚え…それが恋愛に活かされてきたわけではなかった彼。真魚と出会い、自分へ興味を示さない彼女に、落ちてしまった織田くん。そしてこれが恋なのか、知らないものを知ろうとしてしまう好奇心なのか、守りたいと思ってしまうのはなぜだろう?彼にとっての初恋は何とも難しいものになりましたね…ですが嫌いにはなれないこのキャラの良さ。ピュアさ。ほほえましいものがありました。
真魚にこんな素敵な人が2人もいてくれるんですから、自分には居場所がないなんて卑屈に考えていたことがバカみたいですよね。できることはたくさんある。自分でわからないことは、きっと誰かも悩んでいることで、そして分かり合うこともできる。
大樹でもいいとすら思った
大樹もね~…良い。趣味がぴったり真魚と合うこと、小学生のころからちゃんと恋をしていたこと。ぶっきらぼうなのがだんだん誠実になっていくこと。兄を慕っている気持ちも本当であること…。途中から出てくるにしては、なんていいキャラなんだろう。むしろ基がダメなら普通に大樹とくっつけばいいとさえ思いましたよ。
ラジカルさんと基が一時でもうまいこと行くのかと思ったら、全然なかったですからね…これは大樹とも全然発展しないんだろうなとは思いました。基と真魚の関係がいかに揺らぎなく至高か、基が示してくれたことがでかかった。そして、相手役の大樹とラジカルさんも本当にいい人だったから、せっかくできた関係性を崩すようなことはしませんでしたね。誰もが誰かに遠慮したり、迷ったり、がんばってみたり。そんな登場人物たち一人一人が素敵な人間でした。
誰も傷つかない恋なんてないのかな
真魚が言ってたけど、確かにね、誰かと同じ人好きになればそういうことかな…でも勝った負けたとは言いたくないし、選ばれた・選ばれなかっただけで優劣がつくものではないと思うんだよね。いろんな選択の上に様々な結果がついてくるわけだけど、欲しいものが手に入るかどうか、それは誰にもわからないし、がんばったからそうなるとも言えなくて。ただ正面からやり切ったらそれは結果がどうであれ経験に変わるから。大樹とラジカルさんには腐るより走り続けてほしいと思うばかりです。
心の通い合うまでが秀逸
不器用でツンデレで自分の居場所を探している真魚と、面倒見がよくて家族を大事にするけど人の事ばっかりで自分に無関心な基。そんな2人がじっくり時間をかけて、お互いを好きな気持ちと向き合っていく姿は素敵でした。一緒にいたいと思う気持ちに名前を付けようとしたら、恋なのか同情なのか家族愛なのかわからない。だけど「好きで一緒にいたい」という気持ちは同じだから…最後はちゃんと基がかっこよく観覧車で締めてくれたし、真魚も正直になれて、感無量でした。そして予想通り、「本当の家族になりたい」という言葉で締めくくってくれましたので、やっとこの言葉が聞けたなと思いました。
恋愛を前にすると、やはり年齢は関係ないなーという気がしてきますね。相手の気持ちをどうやったら手に入れられるんだろうっていうのは、相手によって千差万別ですからね、いくつになったって迷って当たり前なんだなと思えてきます。
タイトルの「たいようのいえ」の名前通り、温かな家庭・光を示しながら、そのまんま裏切りなく終わりを迎えられて、いい話だったなー。
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