ホラー愛に溢れたホラー映画!『スクリーム』
「君の好きなホラー映画はなんだい?」
ハロウィンの時期になると店で度々見かける、お馴染み死神マスクの殺人鬼(ファンからはゴーストフェイスと呼ばれている)がヒロイン達を追いつめる人気ホラーシリーズ。その記念すべき一作目がこの作品だ。
映画の冒頭、犯人は電話で「君の好きなホラー映画はなんだい?」と女の子に語りかける。どことなく楽し気に話す彼女はホラー映画にはちょっとばかり詳しく、得意げだ。まさか電話の主が自分の命を狙っているとも知らずに……。やがて惨劇は幕を開け、この女子高生・ケイシーは必死に抵抗するも虚しく、殺害されてしまう。
筆者も大好きなこの映画、なんといってもホラー愛に溢れている。スラッシャーホラーの代表作だが、ブラックコメディとしても大変優秀なのだ。有名なホラー作品をいくつも観てきたという人であれば、思わず笑ってしまうようなホラー映画の「お約束」を逆手に取って、笑いに変えている。
「すぐ戻る」と言って出て行った人は高確率で死んでしまう、いわゆる「死亡フラグ」がその例だ。(そして、本当にお約束の通りに登場人物たちは次々と殺されていく!)ホラーのパターンは大体こんな感じで決まっていると皮肉った上でそれをネタにしているのだから、分かる人はニヤリとしてしまう演出が多い。二転三転もするサスペンス仕立てのストーリーとしても楽しめ、死神マスクの中身は誰なのか犯人当てをすることも可能だ。
二人のゴーストフェイス
スクリーム一作目の犯人は、二人いる。主人公であるシドニーの彼氏・ビリーと、友人のスチュワートだ。これは予想出来たという人は少ないのではないかと思う。
幸いにも殺人鬼たちの魔の手から生き残ったシドニーだが、二人は何故彼女をここまで苦しめたのか。ビリーの動機は分かりやすく「母親が家を出て行ったから」というもの。今は亡きシドニーの母親は、かつて町の男複数人と浮気を繰り返しており、その男の中にビリーの父親もいた。シドニー本人は悪くないとはいえ、母親のことで恨まれて可哀想だ。ホラーシリーズ主人公の定めなのかもしれないが、このシドニー、どこまでも同情するほどに不幸体質なのである。
そして予想外すぎるのは、もう一人の犯行動機だ。普段からどこかずれた受け答えをしていたスチュワートであるが、なんと彼には動機らしい動機がない。強いて言えば、想い人であったケイシーに振られてムシャクシャしていたからというもの。驚きを通り越してこいつは大丈夫なのか、と心配になってしまう。もちろん大丈夫なはずはなく気が触れてしまっているのだが、おかしなことを口走るその姿は滑稽で面白い。
映画のラスト部分で、ビリーとスチュワートは警察に疑いの目を持たれないために自作自演を行おうとする。シドニーの父親を犯人に仕立て上げ、警察に疑いの目を持たれないように互いをナイフで刺し合うのだが、思ったよりも強く刺しすぎてしまったせいかスチュワートは出血多量で意識朦朧になってしまう(ここも笑いどころの一つだ)。『13日の金曜日』のジェイソンや『エルム街の悪夢』のフレディのような超人とは違い、スクリームの犯人は普通の人間であるためかドジを踏むことも多い。相手を追いかけ回している最中に反撃を食らい、地面に倒れこむことも多々ある。そのため殺人鬼なのにアホらしい奴だと間抜けな印象を観客に与えもするが、筆者はゴーストフェイスのそんな所が気に入っていたりもする。
シリーズを重ねてもなお監督の創意工夫が光るスクリームだが、この一作目の犯人の衝撃は大きかった。
悪趣味なホラーを笑いに
不謹慎だと揶揄されてきたホラーを絶妙なコメディへと昇華させた本作は、単純なホラーの枠には収まらない幅広い魅力を持った作品であることは間違いない。筆者もこの作品を観てから初めて「ホラー」と「笑い」は紙一重であると考えさせられた。ホラー界の巨匠、ウェス・クレイヴン監督が生み出すホラー映画の殺人鬼はどこかお茶目な面を持っていて、憎めない。スクリームのゴーストフェイスも例外ではなく、観客の笑いを誘うような死神マスクで全力疾走するだけで面白いのだから、ずるい奴だと筆者はまことしやかに思う。
観客の私たちはホラーの定石を受け入れた上で映画を楽しんでいるが、それだけでは飽きがくるのも事実だ。全く新しいパターンで攻めるのではなく、古典ホラーより受け継がれてきたパターンを上手く料理し、メタフィクション敵手法で新しく切り開いた本作は、非常に完成度が高いと言える。
良くも悪くも個性的な登場人物の中でも、筆者が特に印象的だった人物。それは、シドニーと友人らに聞いてもいないのにホラーの知識をひけらかすオタクのランディだ。彼は作中で、ホラーにおいて処女童貞は死を回避できると提唱し、そのジンクス通り生存者となった。
彼の残した「童貞で良かった」という迷台詞は、このスクリームの真骨頂であろう。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)