見方によっては気持ちのわかる略奪愛 - スプラウトの感想

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漫画レビュー数 3,135件

スプラウト

4.254.25
画力
4.25
ストーリー
3.75
キャラクター
3.50
設定
4.25
演出
4.25
感想数
2
読んだ人
3

見方によっては気持ちのわかる略奪愛

4.04.0
画力
4.5
ストーリー
3.5
キャラクター
4.0
設定
4.5
演出
4.0

目次

綺麗な青春なんてないかもしれない

スプラウトって新芽みたいな意味らしいです。芽吹いた恋。そう思うとキラキラーっていうストーリーが予想できますよね。しかし読んでみるとあら不思議、とっても暗い物語でした…実紅は片岡先輩に告られて付き合っていました。すごく優しくしてくれるし、落ち着くし、付き合うってこういうことなんだろうと思っていた実紅。それが、草平が下宿を始めた実紅の家にやってきたことでぐらぐらと崩れ始める。単なる心変わりだったら普通だなと思うのですが、草平にもちゃんと小澤みゆきさんという超かわいい彼女がいて、一番最初に登場するっていうね…うわードロドロしてきた。もう見るのをやめたい。何度もそう思いました。特に、恋をしていない人が読むと、すごくムカつくと思うんです。相手がいながら他の人を見てしまうのはルール違反なのではないかと。でもね、誰かと付き合ったり、苦しい片想いとかしたことがある人が読むと、すげーわかるんですよ。自分は誰が好きなのかなとか、何を好きって言うのかなとか。どうしてこうなったんだっけ…って思う時があるんです。

高校生で、何が正しくて何が正しくないかとかそれなりにわかっているつもりで、だけど本当に心が惹かれるってどういうことなのかはわからなくて…何が恋で、何が本当で、何が嘘なんだろう。傷つけあうのに、止められないのはなぜなんだろう。綺麗な関係なんてないのかもしれない。そんな複雑な世界を知るにはかなりいい漫画だと思います。世に浮気がなくならないのは、欲深き人間の定めですかね…

片岡先輩と小澤さんのせつなさ

片岡先輩って本当にかわいそうだと思います。ちゃんと、実紅のこと好きで、告白して付き合えて、うれしいじゃないですか。なのに実紅は全然違うところを向き始めていく。というか、最初から見てない。本当の恋する気持ちを知らない実紅のこと、片岡先輩はわからなかっただろうな…確かに、もっと感情表現がいっぱいあって、先輩だからリードしなきゃいけないとか気取ってなくて、もっと我慢しないで話せていたら、何かが違っていたかもしれないって思います。一緒に帰るとか、遊ぶとかそういうことじゃなくて、もっと奥のほうで相手の事を知る必要があるんですよね、恋人になるということは。実紅の片岡先輩への気持ちって、兄への憧れに近いというフラグが出ていたし、どこかよそよそしいものでした。そういう気持ちでOKされても困るよね、片岡先輩…せつないです。

小澤さんのほうも、草平が困っている人をほっておけない人だとわかっているから、最初はがんばっていましたよ。紙面でも、草平はちゃんと小澤さんのほうを向いていたと思います。付き合っているし、嫌いじゃないし。なのに、好きなのではないのかもしれない…草平も恋を知らない奴だったということです。小澤さんが転んだ時に、助けたのが自分じゃなかったら別の誰かと付き合っていたのかもしれない…そんな考えが浮かぶ時点でもはやね…小澤さんは、ちゃんといい人だっと思います。草平のこと大事にしていたよ?だけど、傷つくのが嫌で、別れを告げたんだなと思うと、何ともいたたまれない気持ちになってしまいました。草ちゃんのこと好きかと実紅に聞き、普通に好きだと返されるあたりも、傷えぐってて最悪…と思いました…つらすぎる…

罪作りは草平?それとも実紅?

草平はね、罪作りな奴だとは思います。困っている人をほっておけない優しい奴。友達だって恋人だって家族だって。大事なものは大事にするし、すごくフレンドリー。付き合ってもない実紅への行動は、全部善意だったの?それとも好意だったの…?実紅は初対面の時点で、何となくもう草平を好きになってましたよね。小澤さんに猛烈な嫉妬を出すくらいに。だけど、草平のほうは、全然気持ちが見えてこないし言葉も見えてこない。いい奴なんですよね、基本。小澤さんのこと、彼女として大切にしているということは伝わってきていました。だけど、実紅のことはどれくらい大切に想っているのか、そのせつない表情、言葉、無言…空気感で伝えてしまっていました。好きじゃなきゃ、そういう行動はできないんだよ、草ちゃん。

実紅もね、泣きすぎだよ。男は女の涙に弱いんだって。困ってる人をほっとけない彼がそんな君になびかないわけないだろう…そう考えると実紅も相当罪作りな奴のように思えてきます。

「スプラウト」という作品では、明確にお前好きだみたいなことが出てこないし、妙に間が多くて、静かです。その言葉だけは言っちゃいけない気がするって、お互いが自分の気持ちにセーブをかけまくっている。そして核心にせまることも、逃げることもうまくできていない。不器用で、でも惹かれている気持ちにどう収拾つけたらいいのかわからない。何ともつらい状況でしたね。両思いだけど片想いともいえるような関係であったと思います。

大人になるほど理解できるような気がする

この物語が出た当時、自分がまだ若かった時に読みましたが、その時はもう嫌でしたね。どう考えても略奪愛だし、自分を好きでいてくれる人を捨てて、自分が好きになれる人のほうへ行った実紅を許せないと思っていました。しかし、時間が経ってまた読んでみると、なんか、共感してしまったんですよね。というか、自分がそういう恋愛をしてしまったんですよ。好きだと言われて舞い上がって、結局自分の気持ちがわからなくなって別れてしまったことが。今思えば、ただ恋愛ってものを知らなかっただけかも…って思えるような、本当に些細なことが原因だったとわかるんですけどね。その経験があって、実紅や草平の気持ちをだいぶ深読みできるようになったってことなのかもしれません。大切なものって何だろうと探すことや、迷った末に出す決断とか、自分が正しいと思い込んでいただけだと気づいたりとか。そういうのは、経験がものをいいますね。知らなければわからない世界なんだと思います。実紅と草平って、高校生なのにこんな気持ちを経験していたんですよね…恐ろしいです、今どきの若者はみんなこうなの?!できるだけ若いうちにいろんなことを経験しておくべきだということは、大人になって身に染みて痛感することです。

続きはもうないのか

最後、実紅と草平が抱き合うわけですけど、どうなっちゃったんだろう…っていう終わりです。いないと寂しいな…そう思うことが、好きってことで…おめでとうございます。最後まで描かれないことは、想像するしかないけど、もっと言い切ってほしかったという残尿感はあります。谷山さん、滝川さんというオトナな行動ができる人たちのことも、お父さんお母さんのことも、もっと知りたかったですし、何より実紅と草平がどういう毎日を過ごしていけるのかなって不安が残りました。気持ち的に、明るく始まったわけではない恋の物語。これからちゃんと向き合っていけるのかな、くじけないだろうか、どうか幸せで…つらいことがあったら、うれしいことが待っていてほしいと思うのが、人間ってやつだと思いますから。

ドラマ化されたり、漫画賞を取ったり、とにかく人気のある作品。いろんな世代で受け取り方が違ってくるでしょうが、それだけ魅力ある漫画だということは言えると思います。漫画の中で出てくるわけじゃないんですけど、満ち足りた青春なんて不可能だ、っていう煽りの言葉、忘れられませんね。

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他のレビュアーの感想・評価

ゆっくり気持ちが傾くこともあるのかもしれない

恋愛ってどす黒いものタイトルと表紙、めっちゃ綺麗なんだよ。そして、内容はめっちゃ暗いの。スプラウトみたいに、シュワって柑橘系はじけたみたいに恋が芽吹くならまだしも、シュワっとはじけてあわく消えていくような…せつなさがあった。実紅を主人公として始まるこのストーリー。すでに片岡先輩という彼氏がいた実紅は、優しくて気が利いて、実紅を好きだと言ってくれる、そんな片岡先輩を大切にしようと思っていた。悪いところなんて見当たらない。こんな優しい人が、こんな私を好きだと言ってくれる。なのに、草平が下宿屋を営みだした実紅の家へやってきて、ガラガラと音を立てて崩れていく。実紅だけじゃないのよ。草平だって小澤みゆきっていう超絶かわいい子を彼女に持ち、ラブラブしてる。大丈夫、私には先輩がいるもの。なのに、どうしてこんなに気持ちが揺れているんだろう…?このスタート、嫌すぎだった。ルール―違反の漫画な気がするじゃ...この感想を読む

4.54.5
  • kiokutokiokuto
  • 69view
  • 3005文字
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