ゆっくり気持ちが傾くこともあるのかもしれない
恋愛ってどす黒いもの
タイトルと表紙、めっちゃ綺麗なんだよ。そして、内容はめっちゃ暗いの。スプラウトみたいに、シュワって柑橘系はじけたみたいに恋が芽吹くならまだしも、シュワっとはじけてあわく消えていくような…せつなさがあった。
実紅を主人公として始まるこのストーリー。すでに片岡先輩という彼氏がいた実紅は、優しくて気が利いて、実紅を好きだと言ってくれる、そんな片岡先輩を大切にしようと思っていた。悪いところなんて見当たらない。こんな優しい人が、こんな私を好きだと言ってくれる。なのに、草平が下宿屋を営みだした実紅の家へやってきて、ガラガラと音を立てて崩れていく。実紅だけじゃないのよ。草平だって小澤みゆきっていう超絶かわいい子を彼女に持ち、ラブラブしてる。大丈夫、私には先輩がいるもの。なのに、どうしてこんなに気持ちが揺れているんだろう…?
このスタート、嫌すぎだった。ルール―違反の漫画な気がするじゃない。一緒に住んでたら、見えるものが変わるの?手の中にある幸せを守って生きていくのが正しいし、幸せなことだと思ってた。なのに、そうじゃないことがあるらしい。好きなもんを好きだと言えないこの辛さ。せつなすぎる。
人と付き合うときは、適当につき合っちゃいけないんだが、そういうものだと気づけるかどうかはその人次第。絶対傷つくってわかってて気持ち止められないのは、どうしようもないね。人間、感情の生き物なんだし、理性と本能の間でいつも選択に迷っている生き物。世の中から不倫がなくなることもないのだろう。少数派だとしてもね、いつ自分がそれほどまでに運命的な何かに出会うかもわからない。恋愛は綺麗なんかじゃない。
フラれたほうのせつなさ
実紅が悪いんです。中途半端に片岡先輩を選んだから。片岡先輩は、実紅を好きで、付き合いたいと願って、付き合うことができて、望んで行動している。それなのに、いつの間にか女の方から離れていく。許せないだろう。それ許せちゃうほどお人好しじゃない。彼なりに実紅を大切にしていたのは確か。それを実紅は受け取ることができなかったのだから、お別れになるしかないのだ。「好き」で「付き合っていく」ことは軽い事なんかじゃない。相手の人生を決めてしまうかもしれない大切なことなんだ。だから、「付き合う」ことは真面目に、深く、慎重に考えたほうがいいんだろうね。そうでなきゃ、自分の事も相手の事も大切にできない気がする。本心を常に相手に見せることは怖いけれど、それを分かり合っていかなきゃ他人同士が一緒に生きていくことなんて無理なわけだ。実紅が何となくいいかな、程度で付き合いを始めたことが、良くなかったんだ。
草平は、ちゃんとみゆきちゃんの方を向いていたと思う。彼なりに、相手を大切にしていた。でもそれは、恋じゃなかったのかもしれない…転んだみゆきちゃんを助けたのが別の誰かだったら?みゆきちゃんは別の男を好きになってた?俺が彼女を助けたのは…なぜだ?俺はちゃんと、小澤みゆきを好きなのか…?告げられる前に別れたい。傷つく前に別れたいと思ったみゆきちゃん。せつない。大丈夫だったんだよ。実紅は草平を好きだったけど、草平も君を大切に想っていたことは確かなんだ。
誰のせいでこうなった?
困ってる人がそこにいたら助けてあげるのが草平の優しさ。友だちに対しても変わらない。それが、彼女を傷つけることがあっても、悪いことはしていないし、ちゃんと彼女も好きなのだから、大丈夫だろう?草平はきっとそう思ってたと思う。彼女がいるのに、他の女の子の方を向くなんてありえないって。自分はそんなチャラい奴なんかじゃないって。草平は、作中でほとんど明確なことを言わない。言えば、彼女が傷つくから。だけど、言わないだけで、実紅に対して何か気持ちがあることは間違いなかった。だから、結局は身を引いた小澤みゆきが正解だった。草平の何も言わない優しさが、時に残酷なことがあるんだ。
実紅は、草平に対してはおそらく一目惚れで。ずーーっと目で追ってきた。自分で自覚してないけど、小澤みゆきを邪魔だと思った。そして草平の前で泣いてることが多すぎる。男は泣き顔に弱いの。どうにかしてあげたいと思っちゃうのが草平なんだよ。実紅、君は罪な女だ。彼女を最後まで大切にできなかった草平ももちろん悪いかもしれない。タイミングが違ってたら…こんなにせつない状況には陥らなかったかも。ただ、お互いが彼氏・彼女がいる状況でなければ、興味を持つことすらなかったのかもしれない。
絶対好きだー!とか言わないので、あのドアップの未来、草平の顔が…無表情なのに綺麗で、せつない気持ちになる。目の描き方うまいよね。片想いのまんま、それを口にすることは絶対にしないって思う。よく似た2人がそこにはいた。
年齢重ねるほど複雑な気持ちが良くわかる
スプラウトが発売されたのはもうはるか昔なのだが、いまだによく読まれている作品だろう。それは、若い子たちには嫌われちゃいそうなテーマなのに、大人になって読み返したらその深さに驚くからなのではないだろうか。時を超え、ずっと読まれ続けるような気がする。好きな人を奪い合ってる漫画にすぎないが、自分を好きになってくれた人よりも、自分自身が心の底から大好きになった人を選びたいという気持ちが前面に出まくっている。同じように、苦い思いをした大人がたくさんいると思う。好きだといわれりゃ好きになれる気がして、なんか嫌なことがあったときに容易に捨てたりできて。でもよく考えてみて、自分が新たに好きな人ができたとき、その告白することのすごさとか、好きな人への感情とか、離れたくないと考える重みとか、自分自身が当事者になったときにわかってくるのだ。恋愛は、歳を重ねるほどに、甘く、深く、思慮深いものになってくるものなんだと気づく。
実紅の気持ち、草平の気持ち、間違ってるのかもしれないけど、よくわかる。単純じゃないからおもしろくもあり、苦しくもある。経験しないとわからないことなのだ。高校生の段階でこれだけきつい思いを経験してるスプラウト登場人物の方々は、かなり熟した大人になりそう。達観した人間ができあがりそうだよね。あーもっといっぱい悩んで、怖がってないでぶつかりまくって、走ればよかったなー青春取り戻したい。
この先どうなるんだ
実紅と草平、付き合うの?それぞれがそれぞれの相手との関係を清算した後、出した答えは「お付き合いを始めた」ってことで合ってる?スプラウトは本当に言葉が少ないよ。いないと寂しい…と言えただけまだいいとしよう。おそらく、付き合ってる。
決して明るいスタートではないこの2人。果たしてこれからうまくいくの?心配だ…それでも、2人とも苦い経験をしているからこそ分かり合えたらいいなと思うし、向き合って強くなって、幸せになっていってほしいなーって思う。お父さんお母さん、もっと実紅たちに教えてやってほしかった。オトナな同居人の話、もっと聞きたかった。
これだけドロドロしてるのに、ドラマになって、賞をとって、人気がすごい。あらゆる世代の人が、いろんな気持ちを感じながら読んで深いため息をつく。それでいいと思う。帯だったかなんだったか、どこかに書いてあった煽り文がずーーっと忘れられない自分がいる。
満ち足りた青春なんて不可能だ
もう、そうだ、としか言えなくなる。
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