あなたは周囲に屈せずに自分の意見を尊重できますか?
ナチスを背景とした「戦争映画」ではなく「青春映画」
あなたはどのような経緯でこの映画に辿り着きましたか?
たまたま目に入ったからか、それともクリスチャン・ベールのファンだったからか…その理由は様々だと思います。
私がこの映画に辿り着いた理由は至極単純なもので、日本配給後、レンタルショップでたまたまVHSを目にしたからです。レンタルショップというのは人気作品は分かりやすく平置きします。しかも大量にです。それに対し人気じゃない作品は端に1本だけそっと気付かれぬように置いてあるだけ…私がこの作品を見つけたのは、正にそんな状況でのことでした。
世間がwindows95に湧いていた1995年、私はこの作品を見てたちまち虜になりました。この作品の素晴らしいところは何といってもイケメン揃いなところです。
アカデミー賞を受賞した「いまを生きる」にも出演していたロバート・ショーン・レナードが主演を張り、「ダークナイト」等で今では超がつくほど有名になったクリスチャン・ベールがその親友役を熱演。アーヴィド役のフランク・ホエーリーも童顔系イケメンです。
しかしこの作品の良さはそれだけではありません。第二次世界大戦下のナチスが背景になっているだけあって戦争映画という印象も否めませんが、この作品の神髄は何といっても「少年漫画的な青春」。つまり誰もが納得する王道ストーリーなのです。にも拘わらずこの作品を検索すると、玄人視点のレビューで叩かれていることも少なくありません。確かに戦争映画として考えると他作品のような壮大感はありません。しかしこれは青春映画なのです。つまりこの映画の肝は「戦争という背景の中で生きる若者」というより「巨大権力に屈せずどう自己表現するか」という、ごく日常的なことなのです。
巨大権力に対抗するという普遍的なテーマ
第二次世界大戦におけるナチスの行いについては言及するまでもなく有名であり、映画でも度々描かれていますよね。ごく最近も欅坂46の衣装がナチスの軍服に似ているとして国内外で問題になりました。それほどタブー視されるのはナチスがユダヤ人の大虐殺を行ったからですが、そういった行為の背景には間違った優生学が存在していました。優生学とは、自身の民族こそが優れておりその他は排除されるべきだという、ある種の差別的思考です。こういった思考が理路整然と受け入れられてしまう裏には、無意識に抑えてきた劣等感が存在します。つまりナチズムを加速したのは国民の劣等感なのです。
この構図を考えたとき、なんとなく思い出すことはないでしょうか?
そうです、今の日本です。日本は世界の中でも先進国といわれ生活水準も高いですが、幸せの指数は低く、自殺者も多いです。右向け右、長いものには巻かれろ、そんな言葉がピッタリの日本にとって、集団から逸脱する意思を持ち続けることは至難の業です。人気があるものは正しく、人気のないものは間違っている。だからこそ、自分の意思を殺してでも人気のあるものに迎合する方が簡単で分かりやすいし、安心で安全です。しかし自分の意思に反する行動は多大なストレスを生み、やがて自分を蝕みます。しかしそれでも世間に反することはできない…これこそがブラック企業や閉鎖的なコミュニティの現状です。
この映画では、主人公・ピーターが巨大権力であるナチスのヒトラーユーゲントに反旗を翻します。その方法は、自分の好きなスウィングを踊る事。この光景は酷く滑稽です。しかし滑稽だからこそそれが胸を打つのです。そうしたからといって何が変わるわけでもない、それは分かっている。けれどそうせずにはおれない。それが自分の意思である。――これこそこの映画が私の中で最高級な理由なのです。
文句をいう事は簡単です。しかし実際、権力を前にして行動できる人は多くありません。そんな状況で自分の意思を尊重できるか否か?――1993年に製作されたこの映画が静かに問いかけてくるそれは、時代を超えて今の私達の胸に深く突き刺さるのではないでしょうか。
あなたにとっての「スウィング」は何か?
この映画の邦題は「スウィングキッズ~引き裂かれた青春~」です。巨大権力に立ち向かったピーターと、権力に迎合したトーマス。致命的な信念の違いにより二人の友情は引き裂かれたわけですが、ラストにトーマスが見せた表情は一縷の希望を感じさせます。
トーマスは、本心を隠しながら権力に屈する大衆の代表格と言っても過言ではありません。本当は反論したいけどそうできない、そんなふうに暮らしている人は現代にも多いでしょう。そういう人にとって、ピーターのように正面を切って反論出来る人は憧れなのではないでしょうか。トーマスとピーターは、表面上全く違う意見を持っていても、心底ではスウィングという共通の絆で繋がっています。つまり彼らにとってのスウィングとは、ただの娯楽や趣味ではなく、譲れない信念であり、大切な絆なのです。
人間、誰しもそういった譲れない「何か」を持っていることかと思います。しかし、もし大きな権力が目の前にあったなら、それでもあなたはその「何か」を守ることができるでしょうか?誰しもが右を向く場面で、たった一人でも左を向くことができるでしょうか?
戦争とは、国同士の感情と意地がぶつかり合ったようなものです。これに似た状況は日常的にどこにでも存在していて、私達は常にそのような場面で自分の意思をどう尊重するか選択に迫られています。
ピーターやトーマスにとって譲れない絆であり青春であった「スウィング」。
あなたにとってのスウィングとは、一体何でしょうか?
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