ジョジョの奇妙な冒険シリーズの新たな挑戦。
天才、荒木 飛呂彦の新たな挑戦
ジョジョの奇妙な冒険シリーズと言えば、言わずと知れたジャンプの大人気シリーズ。
現在1~8部まで連載されていて今年30周年を向かえ、近年アニメ放送が始まってからさらに多くのファンを獲得している超モンスター大作だ。
作品の特徴を挙げるとキリが無いし、既に読んでいる人が多いのでファン達もそれぞれ独自に「ジョジョとはこういう作品である」とイメージが固まっている人が多いと思う。
筆者もジョジョは4部からリアルタイムで読んでいる世代で、前述したファンと同じく「ジョジョはこういうものだ。」「ジョジョはこうでなければならない」と考えている一人だと思う。
しかしこのジョジョリオンを初めて単行本で読んだとき、考えを改めさせられた。
「まだ荒木 飛呂彦はジョジョで挑戦を続けてる」
こう感じたのである。
基本的にジョジョの奇妙な冒険という物語は部が変わるごとに戦うべき明確な敵キャラクターが配置されているものの、ストーリー構成のジャンルを柔軟に変化させてきた。
例えば1部~3部までは倒すべき敵と戦うため目的地まで旅をする、いわゆる冒険モノ。
4部は主人公の住む町に潜む「悪」と戦うサスペンス・ホラー作品に近い。
5部はゴッドファーザー等に代表されるギャングスターストーリー、6部はアメリカ映画のさながらのジェイルエスケープモノで、7部は壮大なスケールのレース物。
そして肝心の8部の導入は、ジョジョ史上最も奇妙なミステリーだ。
震災によって出来た隆起物「壁の目」の謎、そこの付近で発見された主人公の正体の謎、突然襲ってくる敵の正体も目的ももちろん謎。
物語が進むにつれて解決される謎、未解決の謎、新しい謎がめまぐるしく移り変わっていく。
今までのどのジョジョとも違うタイプの物語構成と、多くの謎を読み手にたくさん投げかけて、まんまとそれにワクワクしている自分に気づいたとき、改めてジョジョは面白いと再確認させられてしまう。
同時に荒木先生の新しい事への挑戦する意欲に、嬉しさがこみあげて来て「新しいジョジョが始まった!」と、心の中で叫んでる自分がいる事に気づく。
ジョジョ史上最もクレバーに描かれる人間賛歌。
ジョジョの大きなテーマの一つである人間賛歌。
このジョジョリオンも例外では無く、魅力的なキャラクター達の人間ドラマも魅力の一つだ。
主人公はもちろん彼が居候する事になる東方家の面々もまた、それぞれの感情と思惑が緻密に絡み合い、自分の正しいと感じた事に何の迷いも無く行動に移していく。
男性キャラクターはもちろん、女性キャラクターもまた性別を超えた「男らしさ」がある。
また荒木先生といえばどんなチョイ役にでも詳細なプロフィールを作る事で有名だが、ジョジョリオンのチョイ役は今までの比にならないくらい良く描かれている。
例えば第一巻で風呂場で裸で出てくる女性やカツアゲロード編で出てきた一般人達。
たった数コマで読み手に「こいつヤバい」という緊張感を与え、その正体に迫ろうと気づけばずっと読み進めてしまう。
キャラクターのバックボーンを詳細に描いておく事で、初登場のちょっと会話だけでも「こいつ何かあるな」という深みを出す。
混ざり合うお馴染みのジョジョ演出と、新たなジョジョ的演出
個人的に以前のジョジョと違うなと感じる点は、刹那的な瞬間を擬音等を使わずに表現する事が多くなったことだ。
「ドドドド」「ゴゴゴゴ」など、ジョジョを語る上でかかせない擬音は健在だが、本当に緊張しきった状況の時の音はとても小さく描かれていたり、シャープに描かれていたり、それ自体が無かったり、音の演出をグッと押さえられる事で刹那的な瞬間を見せている。
これはいわゆるサイレント技法と呼ばれるもので、7部後半からこういった演出はよく見られたが、8部から本格的に導入されていて、今までの過度な演出方法をすこしづつ変えようとしている気がする
その結果ジョジョリオンという物語全体を通してみた時の「今にも限界を迎えそうなピンと張りつめた空気」を作っているのだと思う。
大げさな演出じゃない分、かなり大人というか、変化しつつある絵柄もあいまってクレバーな表現方法になって来ている。
これは「呪い」を解く物語
荒木先生は作風を今も微妙に変え続けており、30年経ってもマンネリを感じさせない。
先生自身がまだまだ成長を続けていて、何より「まだまだワクワクさせてやるぞ。」という気合いと言うか、創作に対する頑なな意志さえ感じるのだ。
あるいは30周年たったからこそ、「付いてしまったイメージ」を払しょくしたいと考えているのかもしれない。
ジョジョリオン1巻の1話目にこんな言葉がある。
「これは呪いを解く物語」
作中の主人公達は自分たちの「穢れ」という呪いに相対して行くが、この言葉は荒木先生にも当てはまっていて、「ジョジョとはこういう物語」「ジョジョとはこうでなくてはならない」という周囲から付けられた固定観念という呪いを解くために、この作品を書いているのかもしれない。
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