読み終わった後の爽快感! - 自殺島の感想

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自殺島

4.004.00
画力
3.50
ストーリー
4.25
キャラクター
3.63
設定
3.63
演出
3.88
感想数
4
読んだ人
5

読み終わった後の爽快感!

4.04.0
画力
3.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
2.5
演出
4.0

目次

なぜ自殺未遂した人間が島での生活を始められたか

自殺を図り失敗をした主人公・セイは、気づくと謎の島にいた。そこでは同じように自殺未遂を繰り返し、生きることをあきらめた若者が集められていた。

この島で何が何だかわからない中、一部のメンバーは水や食料を探し歩き始める。

なぜ死のうとした人間たちが、そのまま島で自殺を選ばなかったのか。中にはやはり飛び降りたり首を吊ったりする人間もいたが、主要メンバーたちは島での生活の中で笑い合い、互いを認め合いながら生活をしていく。

今までの生活では自分以外のすべての人間が自分とは違うというコンプレックスを抱えていた主人公たちは、自分が国や世界、生きることに受け入れられていないと感じていたことで自殺の道を選んだ。

しかし島での生活では、「自殺未遂」という共通点が仲間を生み、共感を得られたことで生きることにつながった。私たちは普段生きていることを自覚することはない。生きているだけでありがたいと思うのは病気やけがで不便があったときくらいである。主人公たちは一度命を投げ捨て、何もない生活に立ち返ったことで、生存本能を呼び覚まして「生きるために生きる」ことを選ぶことができるようになったではないか。

また、現代社会のように学歴や仕事によって差別や優劣がつけられない原始的な島での生活は、すべての人間に役割を与えた。人間の欲求には5つのステージがあると心理学者マズローは言っている。下位のステージを満たすことで次の欲求を求めるようになる。

第一の「生理的欲求」は、生きていくための基本的・本能的な欲求(食べたい、飲みたい、寝たいなど)である。島での生活はまず水や食料を手に入れるために奮闘する。そのために漁や狩猟、農耕などそれぞれ工夫をしていくことになる。

次に第二階層の「安全欲求」である。危機を回避し、安全・安心な暮らしがしたいという欲求が含れる。これが島での生活にとって難しい点だと思うが正直ざっくりと設定されていた点は少々残念である。例えば雨風をしのげる建物は廃墟がたくさんあり、かなえることができた。また健康面では薬がない生活でもある程度回復して生きていたし、出産までできた。衛生的でない生活であまり被害の描写がなかったところは現実味がなかったが、この欲求も満たされたことになる。

次の階層である「社会的欲求(帰属欲求)」は集団に属したり、仲間が欲しくなったりする欲求である。この欲求が満たされない時、人は孤独感や社会的不安を感じやすくなる。つまり人は一人ではそもそも生きていけない集団帰属意識がある生き物なのである。これが認められなかったため自殺を図った主人公たちだが、島ではこれが満たされたことでストーリーが進み、次の欲求を求められるようになったのである。

なぜ島での生活は二分したのか

上記の5大欲求の3段階までは主人公チーム、サワダチームそれぞれで欲求が満たされ、生きていくことを継続できる環境が整った。

しかし島では主人公チームとサワダチームで闘争が起こり、命がけの戦いにまで発展する。なぜそこまで発展してしまったのかは次の第4段階目の欲求に関連する。

第4段階目の欲求は「尊厳欲求・承認欲求」である。他者から認められたい、尊敬されたいという気持ちを満たすために人は行動を始めます。自分の心を満たすために、主人公チームの中では恋愛要素も芽生えていく。サワダチームではその欲求を男性と女性で役割を徹底することで満たしていき、「自分は必要とされている」という気持ちがサワダを絶対的なリーダーへと崇拝することにつながった。

しかし互いの領域(特に第一~第三階層の欲求)が侵害される心配が出てくる。互いに食料や寝床が奪われるのではないかという不安から闘争が起こり始める。その中で絶対的なリーダー・サワダに認められたいサワダチームのメンバーと、自分の仲間(恋愛の相手も含めて)を守り、自分の居場所を守りたい主人公チームでは譲り合うことのできない戦いを繰り広げることになった。

結局、この話は何を伝えたかったのか

闘争の中で、主人公チームは創意工夫を凝らし、それぞれの技術を磨いていく。

これは第5段階目の欲求「自己実現欲求」である。自分の能力を引き出し創造的活動をする気持ち生まれ、狩猟や農耕、道具作りなどの力を身につける。まさにこの話の中ですべての欲求階層が満たされながら、主人公たちは成長していく。

つまり、この話の中では「命を粗末にしてはいけない」という道徳的なメッセージではなく、人は何のために生きるのかというより大きなテーマをもとに作り出されたものなのではないだろうか。

また、このような物語を創意工夫の中で生み出すことのできた作者は、まさに自己実現欲求を満たそうと努力をしていると感じた。

ちなみにマズローは晩年になって、第5段階の欲求階層の上に、さらにもう一つの段階があると発表している。それは「自己超越」である。目的を達成することだけを純粋に求め、見返りも求めずエゴもなく、自我を忘れてただ目的のみに没頭し、何かの使命、大切な仕事を遂行する。主人公は、闘争の中で相手の足を弓で射る。この時に「こんなことをしていいのか」という葛藤が生まれるが、心を静かに集中することで迷いなく目的を達成できるようになる。

一つの作品の中でこれほどまでに人間の欲求を描き、成長させていく漫画はあまりないのではないか。読み終わった後に、自分を大切にしようとさわやかな気持ちになる漫画である。

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生きるとは何かを問う

私の本棚にこの作品が並んでいるのを見た友人からはよく「大丈夫?」と首を傾げられたり「相談に乗るよ」などと心配されたりする。確かにこの作品は自殺行為に失敗し生き残った者が自殺島と呼ばれる島に送り込まれるという一見ダークな作品だ。しかし島での生活を通し人が「生きる」という最も根本的なテーマを取り上げた非常に前向きな作品である。各キャラクターの過去から自殺に至る経緯まで細かく描写されており色々な例が出てくる為共感できる場面も多くの人に出てくると思うしそれを乗り越えていく者乗り越えていけずに自殺をしてしまう者など生々しく描かれている。殺人シーンや性的な描写も多々あるので苦手な方は控えたほうがいいかもしれません…。サバイバル生活のことも深く掘り下げてありナンプラーを作ったり塩水から塩を作る方法だったり水分補給が出来る植物など実際にサバイバル生活を体験した筆者にしか描けないものが多くこういった漫画...この感想を読む

4.04.0
  • セミセミ
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