まっすぐなポエムが深い作品
天涯孤独の照の強さ
両親もいない。唯一の兄も失った。お金もない。だけど優等生として生きている。そんな照は嫌味なところがなくて純粋で、正義感が強いイイ子です。すごい人を兄に持つっていうのは、大変なんでしょうね。比較されたり、同じような成果を期待されてプレッシャーになったり。だからたいていの七光りの人ってグレるんだと思います。だから兄は大切な妹を巻き込まないよう何も伝えていないし、自由に生きてほしいと思っていたんでしょうね。黒崎に妹のことを頼むのは、罰を科すためなんかじゃなくて、お互いが弱い部分を支えあって生きてほしいと願ったからなのかなとも思います。照にとっては、デイジーがいたからこそ、今までスレることなく生きてこれた。いじめも逆境も、すべて乗り越えることができていました。もろさはデイジーの前でしかさらさない。JKでありながらすでにかっこいい女性ですね。
そんな照を支えようと、クラスのみんなも、清も、会長も、いろいろな人が関わってくれていました。魅力ある人のもとには人が集まるっていうのは、こういうことなんだろうと思います。物語が進むにつれ、自分一人ではどうしようもないくらいの規模の問題が降ってきます。でも、それを他人のせいにしないで、正面からぶつかっていける照って…どれだけ今まで、一人でがんばってきたんだろうなって思います。一人だったから、全部考えなくちゃいけなかったんだよねって。デイジーに恥じないように生きたい。その信念の強さがあったら、何でもできる気がしてきます。自分にもほしい。
まっすぐな言葉たち
電撃デイジーの良さは、とにかくそのメッセージ性だと思います。出てくる言葉がとにかく心にぐっとくるものばかり。大人が読んでも十分響くものが詰まっています。奏一郎と照の兄弟は、とにかく似ていますね。この二人、人を惹きつける側の人間なんでしょう。これは絶対読んでおくといいなと思う言葉があるんですが、
事実というのは、それを語る人の数だけある。全部どこかが正しくてどこかが歪んでる。
大事な答えはお前の心で選ぶんだよ
かっこよすぎる。本当に社会に出たらこれが本質だと思います。学生終わって社会に出ると、途端に「正しいことってなんだっけ?」って思わされるんですよね。みんながみんな悪い人じゃないのはわかってるんだけど、本音と建て前の世界で、利益至上主義の世界。絆どうこう言ってられる世界じゃないんです。だから、信じたいものは自分で選ぶしかないんですよね。それを人からなんと言われようと。それが信念ってものなんだと思います。
また、照の言葉もかなりいいです。
「組織を生かすためには汚い仕事も必ず生まれる」誰もが嫌がる汚い仕事をする人が汚い人とは限らないと思います。
いやー…これ、高校生で言える?すごすぎる…これがわかっていると、全部仏様になった気持ちで俯瞰できそうですよね。それを教えた奏一郎もすごいけど、自分なりに理解して正しく使おうとしている照も素晴らしい人間です。これを読んでいると、あー自分も、無駄なことなんてないのかもしれないって思えるし、人の数だけ道があっていいとも思えてきます。
随所のギャグとシリアスのギャップがおもしろい
電撃デイジーのもう1つの魅力は、とにかくギャグだらけというところでしょうか。クラスメイトのみなさんなんて…最高です(笑)。少女マンガの主人公としてのおしとやかさとかは皆無。ただ、照がふざけるときは、みんなを元気にしようとするときばかりですね。自分が悲しい気持ちを持っているときも、余計にふざける。そうやって気持ち押し殺しながら、自分より周りのことを考えて生きてきたんだろうなって考えたりもします。
序盤は黒崎と照がどう歩み寄っていくかっていうところで、ギャグもかなりたっぷり出てきます。ホースで水をぶっかけるとか…現実絶対ないけど、そういう大げさなアクションがくすっと笑わせられてしまうポイントですね。なかなか過激な奴だと、テスト勉強に集中して鼻血を出すとか、人の髪の毛を抜きさるとか…なかなかそこまで表現されるのってないと思います。少年マンガみたいな要素ですね。
そしてハッカーという仕事をフル活用して、照を狙う連中と闘っていくんですが、ディープだし血も流れるし、悪い人間も出てくるしで悲しい展開になってきます…そこを要所のギャグと恋バナで解消してくれるので、展開のバランスがいいと思います。だいぶ上から目線ですが…ちょうどいいんですよね、読んでて飽きも来ないですから。
途中から話がだいぶ大きくなる
黒崎がデイジーであるとばれて、黒崎が消えて、でも戻ってこれて、そして奏一郎の残した遺産を求めて照が狙われ続ける章へと入っていきます。大人ってなんてひどいんでしょうね。竹田なんてぬるかった。保健室の先生、ほんとひどい。アキラも…なんて不憫!価値あるものを生み出した人間、それを使おうとする人間、守ろうとする人間…いろんな人がいますね、世の中。照と黒崎のラブストーリーでおさまってくれても十分楽しめるものでしたが、話がどんどんでかくなってさらに魅力も増していきます。もう国レベルの話です。話がでかくなりすぎると、なんか現実味なくてつまらなくなってきたりすることがあるのですが、電撃デイジーは違いましたね。本当にありそう。お花畑マスターの顔も怖い。笑っている顔の下が怖すぎる。でもそういう人いそうって思えます。
アキラにいたっては、脳腫瘍があって驚異の演算能力を持っていたというオチ…ふつうは脳腫瘍あったら機能が落ちると考えられるんだけど、まさかの逆転の発想でびっくり。最終的な髪型にも大変満足で、あーいい話だったわーと感心してしまいました。
黒崎の照に対する気持ちの深さ
黒崎という人物がほんとに素敵でしたね。照を見守るという罰を与えられながら、照自身に惹かれていく。照を救っているつもりだけれど、逆にいつも自分が救い出されている。黒崎が照を守る気持ちは、照の見た目どうこうではなくて、もう全部超えた気持ちなんだろうなと思います。奏一郎からの遺言に縛られるのでなく、一人の人間として好きになっていく様子が萌でした。近くでは憎まれ口、デイジーとしては最高の溺愛を。まさにツンデレです。
歳の差カップルだといろいろと障壁が多そうだなと思ったんですが、照がいかに大人で、黒崎がいかにガキかがわかってくるんですね。精神年齢的にちょうどよいカップルで、お似合いだなーと思います。もちろん、大事なところではまだまだ黒崎のほうが社会を知っている分ものの見方は上ですけど、精神論では照にはかなわないですね。黒崎は余計なこと考えすぎなんですよ!そして周りで見守っている理子といい、マスターといい、黒崎を眺めて楽しみすぎ…しかし、言葉で簡単に言ってしまっても、伝わらないものってあります。自分でぶち当たって、感じるとることでしかわからないものが。だから、悩んで苦しんで、考える時間をくれたんだなって思うと、泣けてきますね…解決にいたるまで、やきもきしただろうけど、ラストはみんなにとって最良の選択だったと思うし、緑川教授だったりいろんな人たちの想いが報われた最後だったと思います。
余談ですが、電撃デイジーを読んでいると、なんかハッカーがいい仕事みたいに見えてきてしまうのは気のせいでしょうか…世の中、何が役に立つかわからない世界。ちょっとだけ憧れました。
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