ハラハラ&ゲラゲラ&キュンキュン
本当に少女マンガか!?
少女マンガにしては珍しく、スピード感のあるアクションと奥の深いミステリー要素が入っていて、1巻を読んだ途端にグイグイ引き付けられてしまった。ヒロインも少女マンガによくある薄幸で健気なタイプというわけではなく、貧乏なところは確かに薄幸だし、奨学金を受けて頑張っているところは確かに健気だが、鼻血はだすわちんちくりんだわ…凛として見とれるほどの姿の次のページで、そういった予想もつかないシーンが表れ、その緩急が実に面白い。腹を抱えて笑うほどである。クライマックスの事件のシーンなのに「だから待ってろ 服脱いで」「なんで!?まだ早くないかしら黒崎さん!」って…本当にいつ笑わされるかわからない。
本当に少女マンガか!?と思ったので、もしかして作者が男性なのかと思ったら、そう感じた読者は他にもいたらしく(ペンネームからしても当然の疑問)、読者からの質問がきていて、女性だとわかった。理子ねえさんのステキなファッションやアロマに関する知識などを読むと、作者が女性と納得。知性があって仕事ができて、ファッションに品があって、ツッコミに品がない理子ねえさん(番外編の見事なバックドロップといったら!)、ホントにステキなキャラクター。また、イチャコラシーンやラブシーンを見ると、黒崎がどれほど照を愛しく思ってるか伝わってきて、本当に切ないほど幸せな気持ちになり、やはり女性作者だなと思う。
生ぬるくて上等!
ラブシーンといっても最近のマンガにしては珍しくキス以上進まない(黒崎お気の毒(笑))。でも、最近のマンガは本当にすぐHにいたってしまって、場合によってはHから始まる話も多くあるほどで、このようなマンガがあふれている状況で育った子供達が、自分の体を大事にしなかったり、相手の気持ちを無視した性行為に臨んでしまったらどうするのだろうと常々危惧している(マンガ業界が自主規制しないないら東京都のように条例で規制するのもやむを得ないのではないかと思うほど)なので、電撃デイジーの初キスにいたる過程さえも大事にする姿勢は本当に好感がもてる。キスでさえない、頭をなでたり抱きしめたり、おでこをくっつけたりという行為でも照と黒崎においては十分愛情を感じることができる。描かれる角度、アップの使い方、黒崎の手の位置などによって照への愛情の深さを感じる。過激なHシーンがないのにキュンキュンドキドキできる貴重なマンガである。作者自身、番外編のハゲしく問え!(このタイトルも笑える)で「電撃デイジーは生ぬるい恋愛マンガなんだよ」と言っているが、生ぬるくて上等!と言いたい。
生ぬるい割にセリフはけっこう過激。「明日おまえ俺のもんにするけど、いいよな」とか「だめだ。もっと」とか…女心をくすぐる。言われてみたい!画が過激でなくても読者の心をつかむことは充分に可能なのだと思う。
謎とともに残る余韻
無人島計画において、15分の脱出を可能にするための隠しコマンド「Daisy Bell」を導く「君と見た映画で最後にHALが歌った歌」とは誰に宛てたメッセージなのか。黒崎は、父との思い出の鼻歌から「誰に宛てたメッセージか知らんが」といいつつそれを推察することができた。では、設計者は黒崎父なのか。それでは黒崎父が組織の人間ということになってしまう。仮にアキラを発見するために組織に潜入していて、その間に設計をやらされたのだとしたら、もっと明確に脱出できる方法を確保しているはず。何より、ソースに紛れ込ませた設計者の英文日記では、「A」や「C」という人物が登場人物し(Aに罪はないなどの記述からAはアキラと思われ)、設計者はこの日記をできればCに見つけてほしいと書いている。黒崎父が設計者ならば、メッセージは祐(すなわちT)に宛てたものとなるはずである。Cとは一体誰なのか。Cがつく登場人物でアキラに関わりがあるのはチハルしかいない。設計者は、チハルがアキラを救うと考え、Cにメッセージを残したのだろうか。確かに、チハルは段々とアキラに情を移していくし、照たちのアキラ救出作戦を妨害はしたものの、情報も残していった。アキラたちの脱出を知っていながら「爆破確認」と偽りの報告をしたのかもしれない。妨害の度合いが強いので考えにくいことではあるが、無人島で照が発見した写真立てに写っている女性は、口元からチハルと思われる(口だけでキャラクターを描き分ける作者の画力もすごい)ので、Cがチハルである可能性は高い。では、設計者とチハルにとっての思い出の映画(曲)が、たまたま黒崎父と黒崎にとってのそれと同じだったのか。そうだとすると偶然が勝ちすぎている。登場しない黒崎母に関係があるのか…すべての謎がすっきりするわけではないが、それが読後の消化不良感として残るほどではなく、むしろ余韻となる絶妙なバランスで心地いい。
余韻があればこそ、次の作品を読まずにいられない。
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