穹が奈緒から主人公を奪い取る物語
目次
人気美少女ゲームのアニメ化作品
この作品は、美少女ゲームのアニメ化作品です。
放送時は評判になりましたし、原作注目度も高いのですが、ただ、この批評はその頃の現象や原作の中身をまったく知らないものとして書きました。
「原作ではこういった設定だから」とか「このような事情があったんだ」といった事はいっさい考慮に入れず、純粋に作品のみを観たレビューを展開しています。
ももクロのエンディング曲の勢いで押しきられてしまう
さて、当作品は野心的な構成をしているのがまず目をひきます。
全12話のなかに、エンディングがいくつもあるのです。
原作がアドベンチャーゲームなので「あのときに、こうしていたら」という分岐があるのですが、このアニメではエンディングに到達したら、その分岐まで巻き戻り、今度は別の選択肢を選んだ状況でリスタートします。
これはわりと目新しい試みで、選択肢毎にエンディングで結ばれるヒロインが異なる美少女ゲームのアニメ化にとっては、ひとつの最適解だといえるでしょう。理論上は。
ただ、実際にアニメ化してみるとどうだったでしょうか。
この作品は30分アニメなのですが、それが2話3話ごとにエンディングに到達して、またよく似た場面・展開が同じ舞台からはじまります。もちろん登場人物も同じメンバー、祭りなどのイベントも同じタイミングで起こります。だれとどう過ごすか、どのキャラの好感度が高くそして低いかのは違いますが、それでも、基本的にアニメの内容は大筋では変わりません。これは既視感どころの騒ぎではありません。ハルヒのエンドレスエイトで鍛えられた方々は大丈夫かもしれませんが、大丈夫だからと胸を張る必要も我慢をする必要もよく考えてみればありませんし、意地を張ってまで観ることもありません。一週間に50本以上もアニメが放送されている今は尚更です。
しかし、それでも当作品は「観れてしまう」作品でした。
それはキャラに引き寄せられる魅力があった事や、地上波放送らしからぬセイ描写(いわゆるヨスガってる)であった事もありますが、個人的には、ももクロのエンディング曲のノリのよさが大きく貢献したのではないかと考えています。
当作品は2話3話ごとにエンディングに到達します。
その都度スローテンポできれいなエンディング曲が流れるのですが、その曲が終わると今度は、アニメのエンディング曲「ピンキージョーンズ」が流れるのです。この曲がアップテンポでノリが良く、その上、エンディングアニメもコミカルで、まあ観れてしまう。そしてこの曲が流れると、ああ今週も放送終わったんだなと思ってしまう。妙なグルーブ感が出ちゃってるんです。加えて、良い意味でのマンネリ感、ループ感が、次回も視聴してみようかなという気にさせるのです。
それと、ぶっちゃけていえば、お目当てのヒロインまで、ひとまず我慢して視聴しようという方もかなりいたのだと思います。
「原作のキャラ人気とその順位は知らないけれど、まあ一般的には最終話のエンディングキャラが人気ナンバーワンなんだろうな」と、初めてこの作品を視聴したとき、予備知識がまったくなかった自分は、そう考えながら観ていました。もちろん、最終話は言うまでもなくメインヒロインの穹です。
妹ふざけんなよと、思わせる構成
人気があるキャラだとは思うのですが、初見で抱いた感想はまさにコレ「妹ふざけんなよ」でした。これはエンディングの順番のせいだと思います。どのような経緯でこの順番になったのかは分かりませんが、とにかく、最終話のエンディングは主人公の妹・穹です。当作品は物語の構造上、主人公が妹と結ばれる物語であることは明らかなのですが(一話目から明示されています)、ただその前のエンディングの人選が悪かった。どうしても1つ前のエンディングキャラに肩入れした状態で、最終話に突入してしまうからです。そういった意味で、1つ前のエンディングキャラの人選は慎重にすべきだと思うのですが、キャラだけをみると最悪な人選をしています。奈緒というキャラは、巨乳以外はすべて負け属性というヒロインレースの敗者となることが約束されたようなキャラです(それが逆に庇護欲をそそられて人気となるケースもあります)。こういったキャラとハッピーエンドとなった後に、穹という「妹」要素以外はすべて勝ち属性、しかも視聴者的には「妹属性」はむしろプラス材料という、いわゆる強キャラ、勝利が約束されたキャラとのハッピーエンドに突入していくわけで、心情的には穹のハッピーエンドを素直に喜ぶことはできませんでした。これは、個人的嗜好の問題はもちろん多少はありますけれど、しかし本質的には作品の構成の問題です。当作品は、前回のエンディングキャラに自然と肩入れして観るような形式になっています。ですから、せめてラスト前のエンディングキャラは、勝ち気でメインヒロインと人気を二分するような、そんなキャラにするべきだったと思います。
これは「エンディングに到達したら分岐まで巻き戻り、今度は別の選択肢を選んだ状態で再スタート」という構成にしてしまったら避けることができない問題だけに、今後、同じ構成をとる作品があらわれたときに、よい教材となったのではと思います。
まるでホラーゲーム、スプラッタームービーのようなハラハラ感
前述の通り、最後のループであり最後の分岐では、穹と結ばれるべく物語が進行していきます。そして、視聴者の感情的には、前回エンディングキャラである奈緒に肩入れした状態で視聴しています。で、ご存知の通り最終ルートは、乱暴に言うと「穹が奈緒から主人公を奪い取る物語」です。しかも、ひとりイジリをしているところを主人公に視られ(視せつけて)誘惑したり、奈緒に主人公とのヨスガを視られ(視せつけて)戦意を喪失させたりという、手段を選ばぬ戦いっぷり。まあ、実際にはそんな邪な気持ちはこれっぽっちもなく、ただただ美しい純愛ストーリーなのでしょうが、奈緒に肩入れして観ていると、穹の行動すべてが下心があるように見えてしまいます。「どう考えても穹を選ぶよな」と思うだけに、いっそう依媛を応援したくなるのです。実際問題、あんなふうに誘惑されて、なおも妹をはねのける奴がいたら、そいつは間違いなくキョセイされています。それだけキャラに魅力があるのでしょうが、しかし奈緒に肩入れしていると、その魅力が恐ろしくみえてくるのです。主人公が妹に襲われないようハラハラしながら観ているこの感覚は、まさにホラーゲーム、スプラッタームービーのそれでした。
といっても、これは最初に穹のエンディングを見た場合は、まるで印象が変わってきます。
むしろ結ばれて良かったねと、まさにハッピーな気持ちで迎えることのできるエンディングだと思います。それがエンディングの順番によって、こうも印象が変わってくるとは実に興味深い作品だと思います。これが作品の評価が人によって大きく違う最大の原因なのではとも思います。
最弱属性のふたりが決勝戦まで勝ち残ったアニメ
最後に、穹が奈緒から主人公を略奪するアニメにしか(残念なことに)見えなかった本作ですが、このふたりの属性は「妹」と「幼馴染みのお姉さん」です。通常のハーレム作品ですと、主人公争奪レースで、真っ先に脱落する属性(最近は妹が結ばれることもアリになってきてますが)です。その負けが約束された属性のふたりが、最終話まで脱落せずに争い合っているのは、なんだか様々なハーレム作品で敗退したキャラたちの怨念がこもっているようで、すこし興味深くはありました。
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