寿司漫画の、世界への遠い道のり - 江戸前鮨職人 きららの仕事 ワールドバトルの感想

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江戸前鮨職人 きららの仕事 ワールドバトル

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寿司漫画の、世界への遠い道のり

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画力
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キャラクター
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設定
2.0
演出
3.0

目次

伝統の技は世界で通用するか……?

『江戸前鮨職人きららの仕事 ワールドバトル(以下、ワールドバトル編)』は、鮨異能力ギャグバトル漫画『きららの仕事』の続編にあたる作品だ。

前作では『早川光の最高に旨い寿司』でおなじみ、江戸前鮨の伝達者・早川光氏が原作を担当しているだけあって、江戸前鮨の技を中心に紹介されていた。

途中でトンデモ寿司バトルが始まり、やや路線変更があったものの、江戸前鮨の伝統vs革新という勝負がよくまとまっていて良作だったように思っている。

だが、今作『ワールドバトル編』は、なぜか中途半端なところで終わってしまう。その有様はなかなか豪快で、タイトルにて“ワールドバトル”と銘打ちながら、日本代表を決める選抜線で終わってしまう、というものだった。フェルナンド・ソレイユ? 里見? 誰それ?

本項では、なぜ人気漫画『きららの仕事』の続編が打ち切りという憂き目にあったのか考察していこうと思う。

ちなみに作者はこちらのコミックスを喉から手が出るほど欲しいのだが、現在は絶版となっており、中古さえどんなサイトを探しても集めることが出来ない。そのため、ネットを探してもこの『ワールドバトル編』の情報は非常に少なく、情報を集めるのに苦労したことを追記しておく。『きららの仕事』と同じく、コンビニコミックスになって欲しいものである……。

“ワールドバトル編”という漫画界の鬼門

漫画好きの読者諸氏は、何らかの競技において、一度は“世界大会編”へストーリーが進む漫画を読んだことがあるだろう。

その多くはスポーツ漫画であると思うが、実は寿司漫画も世界大会へ話が飛びやすいのである! 詳しくは寿司漫画の金字塔『将太の寿司』を参考にされたい。こっちも打ち切りみたいに終わったけどな!

ともあれ、「寿司とスポーツは世界へ行く」。これが漫画界の常識なのである。

だが、その常識に付随する形で、「世界大会編まで行って大成する漫画は少ない」という方程式が完成する。それどころか、世界大会編に行ってしまうと、何故か高確率で打ち切り一直線になってしまうのである。詳しくは“『アイシールド21』の惨劇”を参考にしていただきたい。

悲しいことに『きらら』も例に漏れず、中途半端なところ(日本代表が決定したところ)で打ち切りになってしまったようだ。筆者は雑誌を追っていた訳ではないので詳細は不明だが、おそらく不人気によるものだと思われる。

なぜ打ち切りになってしまったのか

ではその前提を基に、なぜ『ワールドバトル編』が不人気であったのか考察していきたい。

まず、登場する鮨が美味そうに見えないのである。

前作が魚介類を調理した、正統派の握り寿司ばかりだったのに対して、『ワールドバトル編』では分子料理や野菜やスイーツに至るまで、色々なバリエーションの鮨が登場する(これは決して『きらら』の突飛な創作ネタではなく、現実の寿司店にこういった店・ネタが存在するのだ)。

寿司が日本の伝統芸とされたのも今は昔。寿司もグローバル化が進んだ今の時代は、野菜寿司やスイーツ寿司、と様々な“亜流”が世界各地で生まれている。代表的なところで、アボカドを巻いたカリフォルニアロールが有名どころか。

だが、それはあくまで“亜種”であり、職人の技術が詰まった“鮨”ではなく、別物の“SUSHI”なのだ。

もちろん、世界でそうした潮流があることを紹介するのは悪いことではないが、江戸前鮨を紹介する『きらら』で取り上げてしまったのは少々失敗だったように思う。江戸前鮨を期待した読者にとって、分子料理を調理する過程やスイーツ寿司など紹介されても、ちょっと期待外れだったのではないだろうか。筆者は個人的にがっかりしました。

また、前作までの展開やキャラ設定、伏線を丸潰ししてしまったのが致命的だ。

特にキャラ設定の乱高下といったら本当にびっくりする。惚れていたはずのきららを恨み、敵対心を燃やす亀岡。きららに“優曇華の花”を咲かせ、親心があったのかと思いきや結局敵になった海棠博章、ネタキャラになってしまった永田龍児とツッコミどころが満載。そのあまりの前作をないがしろにする展開に、原作者が違うのか? と勘ぐってしまうほどだった。あ、朱雀はあれでよかったと思います。

特に、龍博章は敵になって欲しくはなかった。前作『きららの仕事』では娘のきららの成長の糧となることを望んでいるのかと思いきや、『ワールドバトル編』ではやっていることは漫画版の碇ゲンドウ。藤原重光&きららの絆連合の当て馬となっての終了である。これは前作『きらら』ファンとして納得がいかない展開であった。

前作では散々解説役に徹し、「俺に知らねぇことはねぇ」と言わんばかりに出張ってきた鬼神こと秤屋小平治も坂巻に敗れ引退。伝説的寿司職人が新しい職人たちに世代交代するのも、漫画的には自然な流れなのかもしれないが、職人の壁を超えてしまうことにちょっぴり寂しくも感じてしまう。

前作ファンの期待も裏切り、グルメ漫画としてもイマイチだった『ワールドバトル編』。これで名作鮨漫画『きららの仕事』の未来が閉ざされてしまったかと思うと、残念でならない。『将太の寿司』の続編もあっさり終わってしまったし、寿司漫画長命化の道はまだまだ険しそうである……。

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