二極化した父親を観る
夢とはどんな夢なのか
幸福な家庭が不幸になるのは残念すぎる。この事件を経てなぜ著書のタイトルを「ドリームハウス」にしたのか、夢というのはどういう夢か、消えてしまった夢か、悪夢のことか、それとも胸の内に残り続ける家族への思いのことなのか。何にしても、ハッピーエンドではない気がしました。本がとっても売れたところで、読んだ人たちが「トリック」だけを楽しむならともかく、著者を追っている私たちにしたら、これをどうして作品にしたのか気になるところではあります。卑劣な人間を糾弾したかったのかもしれないし、解けなかった謎が分かったことや、家族への愛情を書き残しておきたかったのかもしれません。何にしても、身に起こった不幸の興奮から気持ちを静めるためにとった行動なのだろうと思います。生き残った人が前に進むためには、何かしら記録をまとめるのは良い効果があるのかもしれません。
久しぶりに騙されました
それにしても、主人公が犯人だった、精神疾患で収容されていた、というのは驚きの展開で、すっかり騙されていました。これは珍しいパターンではないのですが、何にも身構えずに見ていたら、きっとみんな騙されると思うなあ。と、そんなイキナリ感があります。最初はちょっと訳が分からなくなってしまうくらい、です。主人公自身も訳が分からなくなってしまうんですね。この辺りは、彼が精神を病んでいるせいなのかもしれませんし、精神を病むとこのようになるのかな、と説得力のある描写が続きます。演技演出も脚本も見事だと感じます。多分、フードの男とか、隣人さんとか、他の登場人物に考えが行くように仕向けられていたので、主人公を疑う余地がなかった。何しろ、こちらは初めから、騙され始めていたのです。まずは会社勤めのちょっと能力高めのサラリーマンという設定を見せられて、次に家族思いで、家族からも愛されている、善良な人間だとアピールが続きます。いかにもよくある主人公像。そうやって冒頭から色々と仕組まれていたのだと思うと、なんだかちょっと悔しい感じです。だから面白いんですけど、なんか久しぶりに騙されたぞ!というのが。そんなことがあってからの続きで、本当の犯人が出てくるのが、また何とも二度おいしい物語になっていました。
外国の幽霊
幽霊が外国っぽいのもいいですね。日本の幽霊は、呪いとか怨念とかそういうものが化身してこの世に残っているという感覚ですが、外国での幽霊観では可愛いものも多くて、可愛いというか、何か恨みがあったり復讐したくて居残っているのではなくて、ただこの世が好きで普通に死んでしまった感覚を忘れて霊として生きているような、そういう幽霊が多いようです。自分の経験では、ヨーロッパ人の友人は、みんな幽霊に会いたいと言いますから、何か古くからの家を守ったりしている、そういう存在ととらえているようです。ほぼ妖精のようなものなのでしょうか、不思議だけど平和な存在、のようです。初めて聞いたときは、いまいち感覚が掴めませんでしたが、外国人と日本人は生死の感覚が違うんだなと思います。ちなみその外国の友人には「魂ってなに?」と聞かれて困りました。ひとまず、外国の幽霊は現世の人たちにとっては守護的なものに近くなるようで、今回の映画を見ても、それを思いだしました。普通に家にいて、殺された日の続きを旦那さんと過ごしているのです。自分たちが殺されたことも告げず、誰が犯人だということも言わず。告げてしまうと、旦那さんと暮らせなくなるのが怖かったのかもしれませんが。再び真犯人が押し入ってきても、音を出すくらいしかできない非力な幽霊で、なんともいじらしく哀しい気がしました。逆にそれが、主人公との幸福な家庭を物語っていたようにも感じます。ものすごく執着して得た幸福ではなかったのでしょう。当たり前に、優しい人たちに訪れる幸福だったから、復讐心をむき出しにするような怨霊にはならなかったのかな、などと感じました。
恐ろしいもの
その半面で、犯人だった男は、恐ろしかったし迷惑だった。自分の家族も、他人の家族も壊してしまった。この人は何がしたかったのか、どうしたら満足だったのか、あまりよくわかりませんでした。自分の娘を愛していたのだろうか。娘のいる自分を愛していたのかもしれません。男性の愛情というのは、ここまで曲がってしまうものなのだと、思わずにはいられない醜く憎いもでした。頭がおかしいというのはこういう状態のことなのかもしれません。自分に非があるかどうか問わない状態というか…。なんでも人のせいにして残念な男でした。誰もどうしても救ってあげられない、取り返しのつかないことをしたのに気づくことも忘れている。映画では極端に悪に描かれて成敗されて終われるのですが、実際はこういう男性は巧みに生き抜いているのだと思います。犯罪を犯さない程度に他人の良心を傷つけて、知らないふりをしている。愛情を注いでいるつもりが、実は自己満足でしかない、自分の為に人を愛しているようなことは、とても恐ろしいです。誰にも相手にされない孤独な男性と関わるのは危険だな、と思った次第です。
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