ありがとうヴァッシュ・ザ・スタンピード!
人々とつながっていく、最高の物語。
「トライガン・マキシマム」として復活させてくださってありがとうございます、少年画報社様!
フィフス・ムーン事件から2年後という設定で、ヴァッシュは片田舎で名前をエリクスと呼ばれながら少女リィナと彼女の祖母・シェイルと暮らしているところから始まります。
疲れ果てたヴァッシュが夢見ていた、静かな暮らし。フィフス・ムーン事件で身体共に衰弱していた彼は、リィナたちによって少しずつ回復し、普通の人が送る普通の生活になじんでいました。リィナが攫われ、ウルフウッドと再会したときに言った言葉は彼の本心だったと言えましょう。
そして彼はこの2年のうちに「家族」を手に入れていました。おばあちゃんに妹と、少ない家族ではありますが、きっとヴァッシュがほしかった「帰る場所」はこの二人の元なのは明確です。だからまた旅立つことができたんでしょうが、髪が半分黒髪になっていたのが気になりました。これが何かの伏線だとは思っていましたが……。
そして相変わらずアグレッシブなメリルとミリィ。メリルが誕生日祝ってもらってますが、フィフス・ムーン事件のときには21歳って言ってました。ってことはミリィあの時いくつだったんだ。未成年なのは間違いない。
メリルのヴァッシュに対する恐れ、ミリィがウルフウッドの死を知ったときの心情。彼女達もまたそれらを乗り越えて、強くたくましく生きています。ノーマンズランドの人々みんながそうであるように。
人々の心、救われた人々。
ある町でヴァッシュは「先生」とブラドに会い、新しい装備を手に入れます。やっぱりヴァッシュは真紅のコートじゃなくっちゃね!とかシップの連中は思ってるんでしょうか。それとも素材の色がこれしかないとか。このコートのデザインもカッコイイんですが、その隣にいるウルフウッドの黒スーツ姿もシンプルで素敵ですよね。牧師っぽくはないけれど。
ブラドは13年前に会ったヴァッシュが少しも変わらないことに驚いていました。「時の外に居るものたち」と言うけど、本当に時の外に居るわけじゃないってことを彼は知らないんですよね。ただ、人よりも長く、生きられるだけってことなんですが。彼からは、乱暴な言葉の中にも優しさを感じます。13年前は小さかった自分の手が大きくなったのに……って言葉に、ヴァッシュへの憧れと恐れが心にあるのがわかります。ま、ジェシカに振られたのが言葉を乱暴にさせちゃったのもあるって先生言ってましたが。
GUNG-HO-GUNSのレオノフ・ザ・パペットマスターも元はシップの子供だったのに、何があって殺戮異能集団に入ったのかはわかりませんが、ヴァッシュと戦っているうちに本当の名を思い出し、大切な人・イザベラと一緒に消えていきます。イザベラは人形になってましたが、まだ「エミリオ」だった頃の心が彼女を大切にしていたんでしょうね。彼はヴァッシュの手を振り切ったときに殺人鬼から人へと救われたのだと思います。
そして、意外な人物も救われています。
レガート・ブルーサマーズ。
彼の生い立ちはもうご存知かと思いますが、ナイブズが大虐殺を行ったときに1人だけ生き残り、レガートは一度殺されそうになったけれど、死を受け入れ笑顔の彼をナイブズが受け入れました。その時からレガートは絶対の忠誠を誓ってます。ナイブズを恐れて逃げようとしたミッドバレイ・ザ・ホーンフリークも殺しちゃいましたしね。狂信者と言っても過言ではないですが、彼はナイブズに必要とされたことにより、壊れそうな心を救われたんでしょう。正直壊れてますが。
最後の戦い。ナイブズからプラント達が離れていき、ヴァッシュVSナイブズの激しい戦いが始まります。兄弟だけどわかりあえなくて、でも兄弟だからわかってほしくて互いの心をむき出しにして戦う二人。そして雌雄が決したときにヴァッシュは力を使い、ナイブズを抱えて何処かに飛んでいきます。二人の心が空を飛んでいる間に通じ合って、孤独から、憎悪から救われたからこそ、ヴァッシュを辺境の医師に「こいつはあんた達に必要な男だ」と言えたんじゃないかと思います。
殺人異能集団・GUNG-HO-GUNS。
彼等の存在は前作からありましたが、全員が全員ナイブズに忠誠を誓っているわけじゃありませんでしたね。先も言いましたがミッドバレイはナイブズを恐れて逃げる気満々でしたし、ガントレットはヴァッシュへの私怨満載。雷泥は人以外を斬ってみたい。ザジは「砂蟲(ワムズ)」の意識の集合体で特にナイブズに敬意を払っちゃいない上にナイブズを裏切ってます。エレンディラはレガートの次くらいに忠誠心はあったと思うんですが、正直彼……いや彼女は忠誠心とは少し違うと思うんです。確かに忠誠心はあるけれど、自分も死ぬけど世界の終わりを見てみたい。その興味が大きかっただけなのではないかと思われます。レオノフも忠誠とは何か違うものを感じます。ナインライヴズはもう何がなんだか。中の人達は知能はあるようですが、9人がかりでアレを動かしてたのを知ったときに「戦隊ロボか」とちょっとだけ思いました。忠誠心、あったんでしょうか。
ヴァッシュとウルフウッド。
最初の頃はヴァッシュもウルフウッドもぶつかっていましたね。ウルフウッドなんて自分の命はって「撃て」とヴァッシュに言い、自分に銃を突きつけます。不殺を信条にしているヴァッシュに生き残るためならためらいなく引き金を引くウルフウッド。「相手を重く見てるのか、自分を軽く見てるのか」とウルフウッドは呟きますが、前者は当たりで後者ははずれなんじゃないかと思ってます。ヴァッシュは自分の命を軽く見てるわけじゃなく、ただ人間が好きなだけで、殺したくないだけで生きてる。それを少しずつ知っていくウルフウッドに、物語が進むにつれ変化が見て取れます。その集大成が10巻なのでしょう。
激しい戦いが繰り広げられる中、教会のおばちゃんと子供たちを、リヴィオを助けたくて、自分の命を懸けて戦います。相手はマスターチャペルとラズロ。人を超えてしまった殺戮マシーンのような二人を相手に、彼等からリヴィオを取り戻すために。
絶体絶命なその時、教会のおばちゃんに「友達……できてんで」と心の中で呟いたとき、胸が熱くなりました。
ミカエルの眼にスカウトされてから命のやり取りばかりで、気を許す相手は誰もいなかった。ヴァッシュと旅してたら、背中を預けることができる戦いができるまでに信頼できるようになった。そして互いを思いあいながら一緒に戦い続けた彼を「友達」と呼べるようになったウルフウッドには死んでほしくありませんでした。
そしてマスターチャペルを倒し、リヴィオがラズロに打ち勝って、ウルフウッドは勝利しました。大きな代償と引き換えに。
でも、おばちゃんが子供たちに真実を伝え、子供たちが船から紙吹雪を降らせたときにウルフウッドに聞こえた「おかえりなさい」は、血にまみれた自分を救ってくれて、帰りたかった教会に帰れたことを意味し、最後に酌み交わしたヴァッシュに感謝しながら逝った彼の死に顔は、薄く目を開けてはいましたが安らかなものでした。
当然ですが号泣したのはヴァッシュだけじゃなく私もです。皆さんも涙したと思ってます。っていうかあれが泣けないわけがない。
ウルフウッドからリヴィオに相棒が変わりましたが、ヴァッシュの中での本当の相棒はずっとウルフウッドであってほしい。そう願わずにはいられません。
頑張れリヴィオ、ヴァッシュの相棒になるのは並大抵じゃなれないぞ。
最後に。
この物語は人と人ならざるもの=プラント達との共存、人と人のつながりを描いていましたが、これは現実世界の私達にも言えることではないかと思うのです。
ナイブズと同じように孤独を抱え、思わぬ暴挙に出る人の側に、ヴァッシュのように寄り添う存在がいたとしたらどうでしょう。人と動物、自然との共存もプラント達との共存に近しいものを感じます。
それ故にヴァッシュはいつも心に「地には平和を、そして慈しみを(ラブアンドピース)」を抱いていたと思っています。
最後はドタバタで終わりましたが、最高の幕引きでした。ありがとう内藤先生。
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