道徳とは
加害者の残虐性
私がまずこの漫画を見て抱いたのは加害者は全員残虐性が大いにあるため、見ていて「気持ち悪い」という感情がわき出てこない点である。
第一話、まだ年端もいかない子供を窓から放り捨てる加害者、その描写を見て0歳児を抱える私は心の底から憤った。
まさに殺したいと思った。ほかの話も同様である。
まるで人間の扱いではない、家畜のように思われている被害者たちを見て、その度に腹が立った。
小学生殺しをした奴も、最初のうちは「うん、まぁ確かに腹立つよな・・」と同感する場面もあった。
しかし、徐々に狂気を醸し出し、殺し終えた後には「ワハハハ」とバラエティ番組を見ながら晩酌を楽しんでいる。
何の反省の色も見せない。
奈々子を襲った編集者はその最たるものだと思う。一家を惨殺し、女性の写真をオカズに自慰行為、そして食事、ゲーム・・・なぜ、人間を殺した後に普通の生活をできるのだろうか。
思うに、やはりこういった人を殺す行為をする人間というのは精神に大きな欠陥があるとしか思えない。
彼らにとって、人を殺すという行為は、虫を殺すのと同じなのであろう。
邪魔だから殺した。うるさいから、言うことを聞かないから。
彼らにとって、人とはなんなのだろうか。私にはどれだけ考えても理解が出来ない。
被害者の味方
さんざん嫌な気分にさせられたところで気持ちを払拭してくれていたのが主人公二人、カモ&トラのコンビだ。
見ていてスカッとする。やってほしいことをやり遂げてくれるので、毎回「ざまーみろ!」と思わざるを得ない。
しかし前述したとおり、この二人は殺す目標を「屑」に絞っているだけで、彼らも同様精神的に大きな欠陥があると思える。
正義のヒーローといえば聞こえは良いが、被害者がされたことを同じだけ復讐するには、加害者と同じだけの残虐さがないと成り立たない。
それだけの思いを、彼らは味わってきたのかと考えると心が痛まれる。
トラの過去について、本編では触れている。トラの母親がひったくりに遭い、その最中加害者に振り払われ死んでしまった。その出来事をきっかけにしてこの世の屑を殺していくと決めたという描写されていたが、正直その神経が私にはわからなかった。
そのシーンを見てみると、振り払われはするものの、間接的に亡くなったように見えるのだ。
私なら、もちろんひったくり犯にも腹が立つが、その状況を恨むだろうなと思ってしまう。
トラの場合、それまでがファイターとして活動してたこともあり、また母への愛が重く熱かった。
だからこそ異常なまでに悪に対し≪殺していく≫という発想に至ったのではないだろうか。
それが功を奏し(?)さまざまな人間の復讐に役に立っている。
そして殺人編集者に狙われている奈々子だが、奈々子は自身の家族が殺されたというのもあり、率先的に彼らのもとで役に立とうとしているが、私が思うに彼女はあとから自己嫌悪感に苛まれないだろうかと考えてしまう。
なぜなら、トラやカモのように彼女からは狂気が感じられないのだ。一見、普通の現代を生きる若者だ。復讐という名の殺人に手をかけるほどの心持を持っていないように思う。
きっと今は正義の味方である、という意識で彼らをサポートしているが、この先、殺人編集者が復讐され、これから普通の生活をするとなったら、彼女は自分のしたことに罪悪感を感じるのが目に見える。
酒におぼれさせられレイプされた被害者遺族の女性も語っていたが、自分で手を下さずとも、さまざまな感情が入り乱れていたと言っているのを見ると、奈々子が同じ気持ちになるのも時間の問題だろう。
被害者の味方、その生き方は逞しくもあるが同時に繊細さをもつものだ、と考える。
外道の歌への期待
善悪の屑は4巻までだが、外道の歌という第二部がある。
その漫画の中ではカモの過去についても触れられる。
私は外道の歌もすでに一巻を読んだが、カモはトラと比較するのもおかしいとは思うが、大きな絶望を味わってきた。
トラの母のような間接的な死ではなく、直接的に手を下され、それもこれまでの被害者同様残虐性をもった犯罪だった。
カモが書店を営みつつも復讐する理由がそこにはあるが、今回はあまり触れないでおこうと思う。
総合的に見て
この作品の中でもう一つ着眼したいのが、カモの言葉ひとつひとつに重さを感じられることだ。
小学生殺しに言った、
「人間を殺すなんてやろうと思えば誰にでもできることなんだよ」という言葉。
この一言には彼自身のことも投影されているように思える。
それまで幸せに、有意義に生きてきた日常が壊される悲しさ。
それをどちらの立場からでも理解している彼らだからこそ、復讐ができるのだろう。
復讐のためだけに殺すカモ達、人を殺したいから殺す加害者たち。
視点、考え方は違えど、結果は同じだ。
ではなぜ人を殺してはいけないのか?
殺すことが悪ならば、カモ達は悪なのか。
正解は、悪なんだと彼は言うだろう。
人を殺す屑は、俺たちだけでいい。彼らは必要悪になりたがっているのだと、私は思う。
「善悪の区別をつけなさい」と、私達は義務教育を過ごしてきた。
人を殺すのはとても簡単でとても罪深いことであると。
道徳というものについて考え直させられる漫画であった。
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