ホラー映画のはずが青春映画?
前作「青鬼」と同じ登場人物たち
この映画は無料配信ゲームを映画化した作品ですが、ゲームを知らない人でもゲーム感覚で見ることのできる作品です。しかしこの作品は前作と同じ登場人物たちのため、続編だと思ってこの映画を見た人たちは少し混乱してしまうでしょう。Vol.2は続編ではなく、バージョンアップのため登場人物が同じなのでしょう。このゲームを知っている人であれば「青鬼2」とか「続 青鬼」といったタイトルではなく「Vol.2」となっているところから、ゲームと同じように続編ではなくバージョンアップ編だと予測できるのかもしれません。今回もいじめグループが洋館に閉じ込められ、青鬼に襲われていくという設定は同じですが、こちらはゲームのプログラマーであるシュンは、自宅でゲームを進めています。前作ではシュンが、自分がつくったゲームと同じシチュエーションなのに気づき、リアル脱出ゲームを進めていきますが、今作ではシュンがつくったゲームと同じだと気づき、脱出を進めていくのはヒロシです。
いじめグループに対するバーチャル世界での仕返し
ゲームの中で「青鬼」に次々と襲われているのは、自分をいじめている卓郎たちです。現実では到底かなわないため、自分が得意なゲームの中でこのいじめグループをやっつけようというところでしょう。ゲームでやっつけることが第一の目的のためか、絶対に登場人物が攻略できないように設定されているようです。現実以外でいじめグループに仕返しをする方法として、ゲームを作成するというところはいかにも現代的でしょう。小説や漫画とは違い実際にキャラクターが動くので、仕返しとしてはリアル感が増し達成感が得られるのかもしれません。
いじめグループに仕返しする小説・漫画・ゲームは多数存在していて、その内容は残虐なものが多いようです。いじめていた方側からすると、あまりに残虐すぎると思うのかもしれません。しかし言い換えれば自分たちがいじめた子に対して行っていた行為は、いじめられた子からすると、それくらい同じように残虐な行為だったと言えるのでしょう。そう思ってみると「イジメ」という行為は、いじめる側・いじめられる側双方にゆがんだ感情を生むだけの行為だと言えるでしょう
情報社会が生む「イジメ」
過去にはTVでいじめをした子の実名が放送されたり、ネットで流れたりしたこともあったようです。そのため今度は「いじめていた側」が「いじめられる側」になったという例もあります。ネットを介しての「いじめ」のため誰が行っているのか、得体のしれない不気味さが「いじめ」をより陰険で悪質にしているのかもしれません。ネットでは書き込みに匿名性があるため、書いている本人も事実であるかどうか確認せずに書いたとしても、あまり罪悪感を抱かないのかもしれません。いじめている現場を動画で流しているものもあるようです。しかしネットでの拡散はアップした本人が思っている以上に早く、いろいろな人の目に触れるため自分が思ってもいない方向に影響が及びます。そのため「いじめ側」として実名がネットに流れた場合、それが本当でも嘘でも実名を書かれた人は現実社会で何らかの影響を受けることとなります。
ネット上では「いじめられる側」の心的外傷を考えれば、「いじめる側」の実名を公表して社会的に抹消すべきだという意見もあります。しかし、これはあくまでも「いじめられた側」が行った場合は「いじめた側」は、それほどひどく傷つけていたことを真摯に受け止めるべきことだと思いますが、第三者が行った場合は、「いじめられた側」「いじめた側」両方の気持ちを無視している行為ではないでしょうか?
この映画では卓郎が「ジェイルハウス」で起こったことを動画で配信していますが、配信した後の影響を考えずに誰でも簡単に動画をネット上にアップできるという危険性も込められているように思えます。
改心することでみんなを助けた「卓郎」
最初は典型的な「いじめっ子」的キャラクターの卓郎ですが、映画の最後では「ジェイルハウス」での様々な経験を経て人の痛みがわかる人物へと変わっていきます。てっきり見捨てられると思ったところからひろしに助けられたことで、見捨てられる側の気持ちを味わったことがきっかけだったのかもしれません。そして「人の気持ちがわからない」と言っていたひろしが自分を助けるために犠牲となったことが、変わろうとする自分を後押ししたのかもしれません。以前の卓郎であれば、ひろしが犠牲になったとしても何も感じなかったでしょう。
「いじめた側」が人の痛みを知っていじめなくなる。これこそ「いじめられていた側」の一番の願いでしょう。しかし卓郎が改心したのは自分に命の危険が訪れたからです。そんな究極の状況に陥らなくても、人の痛みがわかる人間になれたらと思わせられます。青鬼が人を襲うシーンは相変わらずグロテスクですが、最後には改心したいじめっ子をいじめられていた子が許すという青春ものの映画のようになっていて、純粋にホラー映画を楽しみたかった人にとっては物足らないものとなったかもしれません。
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