中国武術のメンツ - イップ・マン 葉問の感想

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イップ・マン 葉問

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中国武術のメンツ

5.05.0
映像
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脚本
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キャスト
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音楽
5.0
演出
5.0

目次

前作からの踏襲

イップ・マンという人物像に焦点が当てられ、人物像の魅力を打ち出した作品づくりがされていることは、前作から踏襲されています。

「序章」と名付けられた前作も、非常に良い興行成績を残した作品です。イメージを崩すことなく、丁寧に制作されていることが伺えます。とても、妻想いの良い旦那像であり、武術家としても尊敬できる人物像です。そんなイップ・マンの魅力が、映画作品の面白さとして感じられ、とても好感がもてる作品といえます。

ただ、背景となっていた場所は、香港を舞台にしており、史実に則り、忠実に再現されていると考えられます。また、妻がご懐妊したことで、イップ・マンの良い旦那ぶりは前作より強調するような内容だったのではないでしょうか。

シリーズものにおいては、制作するにあたって、前作を超えることを意識されることでしょう。

スケールや本編の面白さは、前作を凌ぐものではなくてはならないと意識することが当然だと考えられるのです。そして、本編の魅力をイップ・マンの人物像に委ねられている当作品は、前作よりイップ・マンの良い人物像を強調するものだったと考えられます。イップ・マンの「良い人アピール」をすることが、当作品の魅力といえると考えられるのです。

そのことから、前作より、さらにイップ・マンは善人として描写されていたのではないでしょうか。

イップ・マンのキャラクター性が前作より、遥かに増して善人になっているのです。

前作から作品そのものの方向性を変えられることなく、イップ・マンの善人性を増すことで、前作より面白い作品づくりをしようとされていると考えられます。

生活苦が強調されていた

前作より強調されていた要素として、生活苦が挙げられるのではないでしょうか。

貧しい生活を余儀なくされても、嫌な顔を見せないのが、イップ・マンの魅力として映し出されていました。ただ、良い旦那像としては、印象が壊れていく場面ではなかったでしょうか。生活苦で悩んでいたのは、間違いなく奥さんの方です。

お金を稼ぐことがうまくいかないイップ・マンは、これまでの聖人君子の印象とは、別の姿に映ったことではなないでしょうか。

特に妊娠して身重になった奥さんの存在は、イップ・マンを可哀そうだという感情移入をさせつつ、情けない旦那像にも映ったと思うのです。そして、雲の上のようなイップ・マンという人物像を身近な存在に感じることができたのではないでしょうか。

しかし、それでも清き心が汚れることなく、真っ当に生きているイップ・マンの姿が印象的です。

また、新しく道場を開いても、弟子から授業料を回収することができませんでした。お金は必要だけど、弟子から無理に撒きあげるようなことができない心の葛藤が悩ましかったのではないでしょうか。

そして、道場の家賃が払えずに、手放さざるを得なくなってしまいました。

少しずつ周囲の環境や状況に追い詰められていくイップ・マンと、それにも負けず、決して腐ることのない姿が、イップ・マンという人物像を強調しているのだと考えられます。

メンツを重んじる中国武術

イップ・マンが他流派の師匠たちと闘った場面は、カンフー映画として華のある場面でした。

特に、ホン師匠を演じるサモ・ハン・キンポーの存在は光り輝いていました。大物俳優を登場させることで、その俳優がもつ圧倒的な強さを本編の中に印象付けることができます。サモ・ハン・キンポーが演じる役が弱いわけはありません。イップ・マンにとって、好敵手であることは間違いなく、本編での闘いにおいても引き分けるかたちに決着しました。

ただ、イップ・マンは本気で闘い、ホン師匠と引き分けたのでしょうか。

イップ・マンはホン師匠のメンツを重んじて、引き分け決着をしたのだと考えられるのです。大勢の師匠が居る前で勝つことをしなかったのは、イップ・マンの優しさだったのではないでしょうか。この後にも、イップ・マンとホン師匠が闘いそうになる場面がありましたが、イップ・マンの方から引いているのです。武術家としての腕前比べを重視するのであれば、イップ・マンとホン師匠は再戦していたのだと考えられるのです。しかし、それをしなかった背景には、ホン師匠のメンツを重んじ、敢えて決着をつけなかったイップ・マンの優しさがあったのだと考えられるのです。

奥さまの思いやり

イップ・マンがツイスターと試合するにあたり、奥さまの気遣いの深さが素晴らしいものです。

良き旦那像であるイップ・マンに対し、奥さまも全力で試合に臨めるように、実家に戻って出産することを決めています。また、産気付いて出産する場面においても、奥さんは、イップ・マンに対する気遣いから知らせないでほしいと願い出ます。

この奥さんが居て、イップ・マンという人物像が成り立っていることの表れなのだと考えられます。

お互いに支え合うのが、夫婦としての理想像なら、見事に理想像としての夫婦を描いたものだと考えられるのです。夫婦としての相乗効果が発揮されている場面だといえるのではないでしょうか。そして、奥さんが、夫のイップ・マンに向けた感情や気持ちは、勝つことではなかったものと考えられます。亡くなってしまったホン師匠の二の舞になってほしくなかった気持ちの方が強かったのではないでしょうか。

中国人・中国拳法のメンツより、下手したら死んでしまうであろう夫を気遣い、全力で修練ができる環境作りをしたのだと考えられます。

ボクシングとの対決

ホン師匠は、ツイスターとの試合で、命を落としてしまいます。

ホン師匠は、勝てないことは分かっていたと分かっていたのだと考えられます。ホン師匠ほどの実力をもった人物なら、確実に対戦相手の力量を見定めていたと思われるのです。そして、勝てないことも理解していたはずです。事実として、イップ・マンも、試合を棄権するように促していました。

しかし、ホン師匠は、自ら、試合で死ぬことを選んだのだと考えられます。

どうしてそんな行動をとったのか、それは中国人・中国武術のメンツに他ならないでしょう。

生き延びて生き恥を晒すくらいなら、死ぬことを選んだのが、ホン師匠だったと考えられるのです。

それは、ホン師匠の武人としての誇りや意気込みだったのではないでしょうか。そして、仇を打つことを決めたイップ・マンの背景にあった感情も、中国人・中国武術のメンツを挙げられますが、ホン師匠のメンツも守りたかったという気持ちもあったと考えられるのです。

そうでなければ、イップ・マンは試合前に修練するようなことはなかったでしょう。中国人・中国武術のメンツというのであれば、イップ・マンとツイスターの力比べで終わったはずなのです。しかし、ホン師匠の死があったからこそ、イップ・マンにとって、ツイスターに勝たなくてはならなくなったと考えられます。勝たなくてはならないからこその、試合の前の修練だったと考えられるのです。

そして、イップ・マンはツイスターを殺すことをしませんでした。殺すことはしませんでしたが、必要以上に叩きのめしました。それは、ホン師匠の仇討という気持ちが、イップ・マンに強かったから、そうさせたのではないでしょうか。

聖人君子のようなイップ・マンに、必要以上に相手を叩きのめすという行為は似合いません。しかし、ツイスターを叩きのめしたイップ・マンには、ホン師匠の死んでいく様が脳裏に焼きついており、そうさせたと考えられるのです。

詠春拳VSボクシング

どちらの格闘技スタイルにも、共通したものがあります。それは手技を重んじる格闘スタイルであることだと考えられます。

しかし、イップ・マンは手技を重んじる格闘スタイルを捨てて、蹴り技を多用していることに驚かされます。これは、体格による不利を解消しようとする意図があるのだと考えられます。明らかに、イップ・マンより体格が大きいツイスターは、リーチが長く、間合いの中に入り込むことが容易ではないと判断したのだと考えられます。

しかし、試合の途中で、蹴り技を禁止されてしまいました。

これは明らかにイップ・マンを勝たせたくない、運営側による嫌がらせと考えるべきなのではないでしょうか。圧倒的にイップ・マンが有利に進めていた試合運びが逆転してしまいます。そもそも、ボクシングは体重による体格分けをされている競技なので、試合が始まったときより、イップ・マンは圧倒的に不利な展開だったといえるのです。

また、詠春拳においては、体力作りを重視しない拳法なのだそうです。

あくまで、テクニカル部分においての修練を重視する拳法のようで、体格の違うツイスターに勝つことは、相当に困難だったと考えることができます。また、ボクシングにおいては、詠春拳と同じように、連続攻撃を主とする性格もあります。俗にいうコンビネーション攻撃と呼ばれるものです。パンチを練習するだけではなく、パンチとパンチの繋ぎにおける動作を一連のものとして、攻撃を仕掛けるスタイルをもっているのです。

息をつかせぬ連続攻撃を信条とする詠春拳と同じ性格をもっていると考えられます。

ただ、詠春拳の強みとして、ボクシングより手技だけに限定したとしても、バリエーションが豊富なことといえるでしょう。拳による打撃に限定されているボクシングと比較しても、肘技や、指を用いた急所攻撃をすることが可能です。また、グローブをつけるボクシングに対し、ベアナックルで戦うというメリットもあります。

お互いの格闘技スタイルの性質から、ツイスターの間合いに飛び込むことができるようになってから、イップ・マンの強さが発揮されました。試合が長期化することで、ツイスターもパンチの打ち疲れのような症状がみまれました。しかし、それは、パンチを打たれ続け、その状況に導いたイップ・マンの根性によるものが大きかったと考えられます。

異種格闘技戦として、この場面を観てみても、お互いのファイトスタイルを合理的に組み立てられて制作されていることが伺えます。

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