子どもたちの情操を養う役割を担った作品
メルヘンアニメとは言うけれど
本作品はタツノコプロのメルヘンアニメ代表作と称されている。メルヘンというとほのぼのとした印象を受けるが、本作品はその肩書に似合わず非常に厳しいストーリーが展開されていく。主人公や登場する昆虫たちが幾度となく死と隣り合わせの出来事に遭遇していき、命を落とす場面も数多く描かれている。しかし子供たちの情操を養うとても良い作品である。ここではそのことを考察していく。
ストレートな表現
まず、タイトルに「みなしご」という言葉が使われていることである。本放送の1970年代当時はそれほど意識されていなかったかもしれないが、今ではこの言葉は差別用語として使われなくなってしまった。その証拠に、2010年に公開されたハッチの映画のタイトルは「みつばちハッチ」となっている。また、差別を連想する言葉についても当時はこの作品に限らずストレートに発せられており、再放送時にはその部分の音声をカットしたり、冒頭で「不適切な表現があります」と表示したりされている。さらに部落問題を連想させる回では、本草掃除、再放送時共に放送休止などの措置をとった放送局がある。また、本作品では主人公ハッチがいじめの対象になる場面も多くみられるが、そのシーンでも暴言を吐かれることはもちろん、石を投げられるなどかなりきつい表現になっている。主人公ではないが、そのいじめを受けて死んでしまう者も出てきてしまっている。このようなストレートな表現は、いじめの問題が深刻になりつつあった当時の子供に対するメッセージであるとも受け取れる。やんわりとして表現で包み隠すのではなくストレートな表現によって、アニメを通してではあるがいじめについて真剣に考えてほしいという願いも込められていたのではないだろうか。このストレートな表現は、動物の世界の厳しさについても同様である。寿命の短さや捕食関係といった内容がやはり“死”をもって重く厳しく描かれている。今まさに死に向かおうとしている者を前にして、安易に助けることはいいこととは限らない、ということも描写されている。これらによって、命のはかなさと大切さを学んでほしい、という願いがうかがえる。
環境問題
本作品では人間は、動物たちが自然で生きていくための環境を壊す悪役、さらに昆虫を捕まえてしまう(当時は昆虫採集が人気であった)悪役として登場している。これらの人間は、必ずしもあからさまに壊してやろうとしているわけではなく、普段の生活をしていく中で何気ないふとした行動が自然破壊につながっていることもあり、それも描写されている。これらの人間の姿を通して自分自身の行いを振り返るとともに、自然環境を守るにはどうすればいいかを考えるきっかけにしてほしい、ということだろう。
フィクションで重いテーマを扱う作品、その役割
主人公のハッチは男の子、つまりオスという設定である。しかし実際の働き蜂はメスである。オスの蜂は成長するまでは巣の中におり、交尾できる状態になったら他の巣の女王蜂と交尾をするために外に出る。交尾ができたオスは交尾によって腹が破壊されて死ぬのである。交尾できなかったオス蜂も巣に戻れず(入れてもらえない)に死ぬのである。蜂の世界に王子に相当する身分は無いし、生みの親の女王蜂を探すこともないのである。ましてや、オス蜂の寿命はひと月ほど。番組のような展開は現実では絶対に起こりえず、完全なフィクションである。もちろんアニメなのだから完全なフィクションで構わないのである。が、現代のアニメ作品でこのようなフィクションにしながらもある世界(本作品の場合は動物世界)の過酷さを通して現実世界の重いテーマを描く作品というのはほとんど存在しない。扱う内容が厳しすぎるという評価なのかもしれないが、我々が人間として日常生活を送るうえで、また、地球上に住む一生物の人類として美しい環境を守っていくうえで大切なことを、教えてくれている。それを、フィクションとしてかわいいキャラクターを使って扱うことで、年齢が低い視聴者にも伝えることができるのである。本作放送当時の子供たちはこういったアニメ作品を通してもいろいろなことを学ぶことができたのである。そういう、重要や役割を持つ類の作品だと考える。本作のような内容のアニメ作品は当時(1970年代)は数多く存在した。しかし現代は先ほども述べたように皆無である。現代の子供は、相手の気持ちが分からなかったり自分勝手な振る舞いをしたりということも少なくない。もちろん、両親の共働きによるコミュニケーション不足など、さまざまな原因があり、これだ、という明確な原因があるわけではない。しかし、本作のように子供にも考えてほしい重いテーマを訴えかけてくるアニメ作品がなくなったことも、原因の一つとしてあげられると考えられる。そういう現代だからこそ、復活してほしい部類の作品である。
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