コメディ映画ですが男の哀愁が彩られた一品
おしゃれで小粋でスピーディーな展開
保険会社に勤めるバクスターは、自分のアパートを上司の情事のために貸している。そして、そのうち大ボス、シェルドレイクがその噂を聞きつけ鍵を借りに来る。そしてその相手がバクスターが惚れている女性フランだと知り。。。という展開。
まず、今の感覚から、自分のアパートをそんな風に貸すだろうか、というこの物語の設定への疑問がありますが、ワイルダー監督はそういう話を実話として聞いてこのストーリーを考えたということらしい。ドラマティックで、喜劇的で、ストーリー運びがうまいと感じます。
そして何より非常にしゃれたムードが全編を覆っていて、アメリカの大手保険会社のオフィスや街の描写を通して、当時の都会のサラリーマン生活のようなものが垣間見えますし、登場人物が一様にシンプルかつおしゃれな格好をしていて、小粋でスピーディーなセリフ回しと展開があって、映画そのものに好感度が持てます。
フランの自殺未遂で物語は急展開
上司にいい顔をしたいために、アパートの使われ方を知りながら、陽気になに食わぬ顔で貸していたバクスターが、大ボスの相手がフランだと知ると、内心の葛藤が始まります。このあたりのバクスター役のジャック・レモンの演技が素晴らしい。
一方で、フランは全くバクスターを気にかけていません。そしてどうやらシェルドレイクとフランは不倫関係から結婚へと約束をしているらしいのだが、ある夜、口ばかりでなかなか離婚しくれず、家のことばかり気にしているシェルドレイクに失望したフランが、バクスターのアパートで自殺を図るという事件が起こります。
バクスターは明るく一途に看病し、フランは回復するのですが、次にシェルドレイクが彼を昇進させ、鍵を貸せと迫る時には、バクスターは断固これを断るのです。あれほど素直に明るく従っていたジャック・レモンが駄々っ子のような表情で断る姿に思わず感情移入せずにはいられませんし、笑わずにはいられません。
ついには、会社を辞め、街を出ようとするバクスター。一方、その話をシェルドレイクから聞いたフランは、バクスターのもとに走るのです。
セリフや小道具の使い方が見事
後半からラストまでの展開が切なく、ハッピーエンドに向かって見事に収束していきま。コンパクトミラーや銃の話と最後のシャンパンを抜く音、カードといった小道具がよく効いています。
バクスターが語った「ケーキを毎年、振られた女に送っている」という逸話と最後のフランのセリフ(シェルドレイクに「これから毎年ケーキを送るわ」)や愛していると告白するバクスターに「黙ってカードを配って」と満身の笑みで答えるフランのセリフもお見事。フランの表情が非常にいい。ここで「私も愛している」なんて嘘っぽく返さないのが断然いいですね。
出世、出世と言いながら、自分の最も純粋な部分では、自分に嘘はつけないというバクスターと、そういう潔さに心を動かされるフラン。みんな思い切った事をしたいし、現状を打破したいのだという底辺に流れるテーマ性も感じます。とにかくラスト前は何度見ても感動します。全編笑いという感じではなく、ジャック・レモンが醸し出す男の哀愁と、フラン役のシャーリー・マクレーンのかわいい魅力が彩る極上の一編でした。
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