独特だけど正直な物語 - 美しい人の感想

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ドラマレビュー数 1,147件

美しい人

3.953.95
映像
4.75
脚本
4.00
キャスト
4.25
音楽
4.40
演出
3.40
感想数
2
観た人
5

独特だけど正直な物語

4.04.0
映像
5.0
脚本
4.0
キャスト
4.0
音楽
5.0
演出
3.0

目次

役者を選ばず、役者を問う脚本

舞台で見たらもっと美しかったかな、と思いました。セリフもそんな雰囲気の言葉が多かったですし。テレビドラマにしては歯が浮くようだと言われても否めません。舞台だったら、すごくしっくりきて、入り込めそう。この脚本で、役者や演出が変わるとどうなるのかも見てみたいです。誰がこなしても、役者のオリジナリティが生かされる物語だと思います。舞台で、何年もいろんな役者が演じ続けられるような、スタンダードな脚本になってしまってもいいんじゃないかな。シェイクスピアみたいな。放浪記みたいな。

そんなに好きなストーリーではないですが、役者がそれぞれの役をどうとらえて演じるのかに注目すると、興味深く、面白いです。登場人物一人一人が複雑なものを抱えているので、一度見ただけですっきりと理解できる内容ではないと思います。「あー大変だねー。」って終わらせることも、途中から見ないこともできる物語なのですが、見ると、もやもやとした運命の絡まりのようなものを解きたい気分にさせられます。

テレビドラマでやるなら、リメイクもいいじゃないかと。放送されたときは、田村正和と常盤貴子、大沢たかお、がぴったりだったとよく分かりますが、また違う役者さんで、その時代、その時代でリメイクされても面白そうだと思います。柳沢慎吾・お笑い芸人の宮迫なども個性的で印象深いです。それでも、これもまた、違う人がやってみるのもいいと思うのです。池脇・内山の女子高生役も、彼女たちがはまり役だと思うのですが、もう彼女たちは大人になってしまいましたし…。

美しい人は何

池脇千鶴はいつ見ても惹かれますが、今作は特に「池脇がこれやってくれて良かったなあ」と思いました。まさにラストの池脇は「美しい人」だったと言えます。「美しい人」は多分、田村の演じた岬先生のことを指しているようなラストでしたが、その辺りはやんわりにおわせる程度だったので、とらえ方は自由。登場人物それぞれにとって、「美しい人」が存在するんだなあ、と私は感じました。それじゃあ、つまり「人は美しい」ということだったのかもしれません。

何でこの人と結婚したのだろう、というのは、良くも悪くも運命なんだと思います。結婚して、気持ちや態度が変わってしまったり、思わぬトラブルや秘密があったり、このドラマを見ると、結婚でどのくらい恋を延長させられるのだろうかと疑問に感じます。作中では、愛と言う言葉がよく出てきますが、その割には愛が見せる美しいものは見当たらなかった気がします。むしろ、愛が見せる恐ろしいもの醜いものがほいほいでてくるなあと。人の不幸を見て重たく感じながらも、そういうこともあるだろうと、見つめ返すことが出来る、そういう愛の作品なのだと思います。人と人というのはおかしなものです、出会って別れるので。嬉しいことも悲しいことのひとつなのですから。

詩の世界

野島伸司ワールドへ入ると、平和な自分が嫌になったり、不幸な自分が案外しっかり者だと思えたりします。今回もそういう、嫌でも自分を省みて、向き合うような自己評価の世界へ連れて行かれました。見る人によっては、全然違うことを思うのでしょう、何を思うのか聞いてみたいのですが、みんなうーんって黙ってしまうようなところが、野島伸司の脚本作品にはあると思います。

今作は、以前までの作品よりキザなところや、少女漫画か妖精の童話か…メルヘン?ファンタジー?そういう部分が所々で目立っていたなあと感じます。視聴者プレゼントに野島伸司の「詩集」があると放送されていて、今作は詩なんだと、その時分かりました。毎回ハーブの花言葉や言い伝えなどがモチーフにされて、物語になぞらえるようなところがあったりして、主題歌とのマッチングも「詩」を作るために設えていたのでしょう。怖くて嫌なお話なのに、また見てみたい気がするのは、そのためでしょうか。

バスを待つシーン

テレビドラマでよかった!と思ったのは、バス停での雨のシーンです。このシーンは舞台では表現しにくかったと思うので、雨と光(自然光の美しさ!)と雨音と、二人がバス停に座っていて、それはそれは、綺麗な映像でした。見過ごすような何でもない景色に、物語が加わると、とても愛おしい景色に見えるんですね。自分が普段目にしている、日常の何気ないシーンにも、そこにいる人たちの運命が絡み合って形になり、現れているのだな、なんて。それを改めて知らされた、そんなシーンでした。

そんな岬先生とみゆきがバスを待つシーン。美しいですが、本当のところを考えると、結婚している女性が、知らない(記憶にない)おじさんに付きまとわれて、結構気持ち悪い変な絵なんですよね。こちらは岬先生の視点で眺めているので、そこまで気になりませんが、みゆきの視点で見ると、ちょっと危ないおじさんだなあ、大丈夫かなあと、そういうちょっと怖い場面なのです。にもかかわらず、岬先生の話を聞いて優しくしてあげるみゆきが、より美しい人に思えてきます。心の綺麗な、良い人だと。それを伝えるために描かれたシーンかは分かりませんが、(多分、みゆきの中に先生がいることが描きたかった場面ですよね)このドラマを見て、作中のいろいろなことに思い当たっても、最後は誰かの思いやりがぽわんとクッションのように置かれている、それが今作のすごいところだと思うのです。

思いやり

岬先生が妻に愛されていたことも、彼らを知る友達も、娘も、思いやりの跳ね返しで、うまく愛を受け取れなかったり、誤解もありましたが、最後はどこをとっても優しさに辿り着きます。「環境や、トラウマから生まれるのではない、その人が生まれながらに持つ悪」があるというようなセリフもありましたが、その悪を受けてしまい、どう浄化していくのかが、テーマだったのではないでしょうか。そして悪そのものが全然裁かれないのも絶対に良いとは言えないのに、例えば、村雨への門倉純の笑顔は、私たちの悪への反発心を抑え込んだように思います。悪を受けたのは村雨本人でもあるのだから。

これは、悪を憎んで人を憎まずなのか、ただ相性があるのか…悪が発動しない相性、なのか。わからないですが、わからないから運命と言ったりするのだけれど。生きていて、とても辛いことがあっても、ふとしたときに癒される時がくる、そういう出会いがある。そんなメッセージを感じる作品でした。起きたことに取り返しはつかないので、見方によってはバッドエンドですが、最悪ではない、まだ希望が持てるので、ここは、ハッピーエンドだととらえたいです。岬先生とみゆきがこの先どうなるのか、幸せについても思いをめぐらされます。

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他のレビュアーの感想・評価

穏やかさと激しさの恋愛。

「美しい人」は野島伸司脚本です。野島伸司さん独特のそれぞれに何か抱えている過去があり、それを抱えたもの同士が惹かれあっていく切ない恋愛ドラマです。今でこそDVはよく聞く言葉ですが、この頃はまだDVなんて言葉すらなかったような気がします。常盤貴子が、暴力的な旦那の大沢たかおから顔を整形してまで逃れ、そして穏やかな美容整形外科医の田村正和と恋に堕ちていきます。田村正和演じる美容整形外科医の自宅には無数のハーブがあり、ハーブに水をやるシーンは窓から光が差し込み、毎回とても綺麗な映像で印象に残っています。そして見所は初回の頃は穏やかだった田村正和が、常盤貴子と恋に堕ちていくにつれ必死に常盤貴子を守ろうと翻弄する姿へと変化していくところです。穏やかに過ごしたいと願いながらも、恋をしてしまうと人は冷静さや穏やかささえも失っていく姿を田村正和が熱演しています。野島伸司特有のドラマ序盤は切なくも心温まる話...この感想を読む

3.93.9
  • まいこはんまいこはん
  • 336view
  • 510文字

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