年寄り対ゾンビを見せかけたコメディ映画 - ロンドンゾンビ紀行の感想

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年寄り対ゾンビを見せかけたコメディ映画

3.03.0
映像
3.0
脚本
2.5
キャスト
3.0
音楽
2.5
演出
2.5

目次

ゾンビ映画好きにはたまらない 年寄り対ゾンビ

筆者は“ゾンビモノ”と呼ばれる作品が好きだ。ゾンビ映画を語れる友達が欲しいと常に思っている。ゾンビに意思はあるのか? ゾンビはそもそも感染した生者なのか死んだ人間なのかということについて考えはじめると、仕事時間の午前中なんてあっという間に過ぎてしまう。時にグロテスク・ホラーといった“恐怖”の対象であり、時に爽快感溢れるシューティングの“的”になり、時に怪物へと変容する仲間を映す“悲劇”のモチーフともある。ゾンビの万能性と可能性について論文を書いてもいいぐらいだ。

しかし、多くの「ゾンビ×ホラー」、「ゾンビ×アクション」になじんでいても、「ゾンビ×コメディ」はさほど造形がなかった。そんな筆者が、今回観たのが『ロンドンゾンビ紀行』である。

ロンドンを舞台に、突如発生したゾンビとエセ銀行強盗の若者たちとの闘いを描く。主役となるのはこの若者たちだが、彼らは敬愛する「おじいちゃん」の住む老人ホームを守るために金を盗もうと画策している、要は義賊的な小悪党なのだ。

彼らのおじいちゃんたちが住む老人ホームにも、おそろしいゾンビたちが迫る。若者たちはおじいちゃんを助けるため、移動を続けながら老人ホームを目指しイーストエンドから脱出する、というのがメインのストーリーだ。

だが、『ロンドンゾンビ紀行』最大の見どころは、ゾンビ対老人、というシュールな光景だろう。

老人たちは耳も遠く足も遅いが、それはゾンビも同じこと。老人たちは互いの経験を活かし、救助が来るまで老人ホームに立てこもる……。

予告編こそが最大の見せ場 本編は……

しかし、非常に残念なことに、本作の一番見どころであり独自の魅力である「老人対ゾンビ」は、ストーリーのメインに据えられてはいないのだ。「老人対ゾンビ」は本編のごく一部でしかなく、若者たちに助けてもらうまでは非力で途方に暮れる社会的弱者の姿が見えるだけだった。

予告編やメディアでの紹介では、いかにも『老人がゾンビを倒す』というように作られていることが多かったため、これには筆者もがっかりさせられた。元軍人のおじいちゃんや主婦のおばあちゃんが、銃を持ち無双する話だと思ったのに……!!おばあちゃんが銃を手慣れた様子で持ち、「UZIね」とにやりと笑う姿にドキドキしたあのときの純情を返してほしい。

しかしながら、義足を噛まれ「噛む足を間違えたな」や、ゾンビ化した女性介護士に「すっかり気持ちが冷めたよ」などと言ってのける、シルバー世代独自のブラックユーモアは非常に小気味良く面白い。

これだけで構成されればB級映画の傑作にもなれただろうに、実際映画のなかでは若者たちの添え物になってしまっているのが非常に残念でならない。割合でいえば若者が8・年寄りが2で、あくまでも主役は若者なのだ。テンポも悪く、ゾンビものとしてのストーリーも実に無難。犠牲者となるキャラも「いかにも」なキャラクターばかりで、新鮮味がない。あえて言うならミッキーが最高にクレイジー(褒め言葉)でかっこよかったが、それぐらいだ。

もっと年寄りの出番が増えてくれれば、もっとも面白い作品になっていたことは間違いない(ただし、筆者の個人的好みであることは否定できない、と言い添えておこう)。 

C級映画だが、これを機にコメディ映画が増えてくれることを祈る 

ゾンビメイクも三流、テンポも悪く、宣伝詐欺とさえ思ってしまう『ロンドンゾンビ紀行』であるが、一つだけ評価しておきたいところがある。

それは、「ゾンビ×年寄り」という新たなゾンビモノのメソッドを作りあげたところだ。「ゾンビ×コメディ」はさほど珍しくもないが、「年寄り」を取り扱った作品はおそらく『ロンドンゾンビ紀行』が最初なのではないだろうか(間違っていたらスミマセン)。

考えてみれば、「ゾンビ×年寄り」は無限の可能性を秘めている。そもそも人間が変化する怪物として、「いつ、どこにでも、大量に」発生するのがゾンビというモンスターの魅力なのだ。時には子供も主婦も、身近なものを武器に闘わなければならない。

そんなとき、活躍できるのが年寄りだ。何故なら人生における経験値も度胸も違う。車の整備も出来るし、家も補強できる。「なぁに、○○戦争の地獄に比べればましさ」などとテンプレートの台詞も吐き放題。愛する者との別れも大多数が経験済なので、「あいつを殺しちまった、ううう」などと感傷に浸る必要もない! ついでに年寄り=社会的弱者という方程式も覆せる、まさにシルバー人材の輝く場所としてうってつけなのである。国産のゾンビ映画が増えてくれればなお言うことなしだ。ちょうど『アイアムアヒーロー』の実写もヒットしたことだし、邦画でもやりましょうよ団塊オブザデッド。

と、言いたいことを言ってとてもすっきりした。やはり年寄り×ゾンビは夢があるのだ。

さて、次はゾンビコメディの大作『ショーン・オブ・ザ・デッド』でも観ようかしら。

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