幻想的な矢沢ワールドに引き込まれて
幻想的に描かれたホラー
矢沢あいの作品の中では異色の作品ですね。いや、漫画としても異色ですよね。こちらの作品あたりから作風が大人向けにシフトチェンジされてきたように思います。キュンキュンするような甘いラブストーリーではなく、胸にジーンと染みてくるようなラブストーリーが美しくもあり儚くもあり・・・。さらにホラーとミステリー要素が織り交ざり、見事に少女漫画の概念を覆す矢沢ワールド全開で、もう彼女以外の作品が読めるかどうか分かりません。
1コマが映像のように
矢沢あいさんの画力はやっぱり繊細で素敵です。さらにポイントとなるシーンは映像が流れるかのように入ってくるから不思議です。最初と最後の交差点のシーンなんて台詞がなくても画だけで登場人物の感情が入ってきます。柵のシーンは逆にとてもシンプルで、より異空間というか無機質さがでていて好きでした。
練り込まれているストーリー
なんといっても下弦の月の魅力は、画に負けない練りこまれた美しいストーリー。そもそも下弦の月というタイトルが既に惹かれます。月の神秘さと冒頭から謎めいていたアダムの人物像、そして蛍にしか見えないイブ。この設定と演出が相まって幻想的なまとまりが作られているのではないでしょうか。ストーリーの構成もかなり複雑でしたね。事故からストーリーが始まるのですもの。完全に冒頭から引き込まれます。複雑に絡み合った紐を解いていく中で、イブと蛍の間に生まれた絆も並行していく。さらに蛍が紗絵や正輝、哲との友情も深まっていく模様。そして愛情の重さは変わらずとも、伝え方与え方が変わっていく様。ストーリーは現実離れしているのに、共感できる感情模様がいつも矢沢あいさんの作品では随所に見られます。
確立されたキャラクター
こちらも下弦の月に限らず矢沢あいさんの作品はいつも、主人公以外の登場人物を含めキャラクターが確立されています。サブキャラクターで別のストーリーができるのでは(実際に描かれているキャラクターもありますが)というくらいキャラクターが完成されています。下弦の月で練りこまれていたキャラクターはやはり、蛍の友人達でしょう。それぞれ個性があり役割を持ち、ストーリーをより一層奥深くしています。キャラクターが子供とあって設定を掘り下げていくのも難しいと思いますが。少しインパクトで物足りなさがあった智己ですが、最後の病院のシーンなんかは思わずカッコイイ!と思ってしまいました。このシーンのインパクトをより高める為にも、序盤では淡白な描かれ方だったのかもしれません。
最後に
今回の作品は少女漫画の中でも異色なので、読みたい時の気分に左右されますが何度読み返しても読んで良かったと思える作品です。この作品を最初に読んだのは中学生の時でしたが、大人になってからも読み返し奥深さに浸れる作品でした。
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