女の子がホストに!超お金持ち高校の優雅(?)な日常
"少女漫画"の枠をはみ出た作品
まずは多くの人が、タイトルと表紙を二度見してしまうであろう。『桜蘭高校ホスト部』(以下『桜蘭』)という題名。そして1巻の表紙は、花束を持った少年と、金髪の美少年2人が描かれている。この表紙に関しては「最初に見た時、BL漫画かと思った」という感想も多々寄せられたようだ。花束を持った少年は、主人公の藤岡ハルヒ。正真正銘の女性である。
舞台は、桜蘭高校という日本屈指の超お金持ち高校。大手会社の跡取り息子、財閥令嬢と、庶民とはかけ離れたレベルの暮らしをする者達が優雅に学校生活を送っている。
そんな学校に、庶民ながらも特待制度で合格・入学したのが主人公藤岡ハルヒだ。高価な制服を買う余裕もなく、長かった髪も短くざんばら切りにしてしまった彼女は、読者の目から見ても男子生徒であると勘違いする人もいたのではないだろうか。
そんな彼女が、女の子を喜ばせもてなす為の部活動「ホスト部」に出会い、とある失敗から入部し、指名客100人を目指すという内容で、物語は導入する。
第一話から登場するのは、美麗な男子生徒6人と耳もとろける(?)甘い台詞、そしてぶっ飛んだお金持ち思考とギャグ、ギャグ、ギャグ。シリアスとギャグ、日常と非日常の比率が完全に合っていないように思える。そして少女漫画に必要不可欠である恋愛要素も、最初の段階ではよく見えない。というよりも、主人公の恋愛観がなさすぎるのだ。(実際、主人公にはっきりと恋愛感情が芽生えるのは12巻から。かなり終盤である)
"少女漫画らしくない"ストーリー展開を広げていく桜蘭だが、そんなイレギュラーさが筆者自身含め、男女関係なく多くの人の心を掴んだようだ。
個性的な登場人物、心に響く話、根底にある過去
桜蘭の魅力はなんと言っても、一つの話ごとのメッセージ性だ。主人公と相手の恋愛要素のみで物語が進行するのではなく、まずは登場人物の人間性、それぞれのいい所悪い所を丁寧に描写しながら、季節が流れていく。読めば読むほどに、彼ら彼女らの心の内側を覗くことができ、周囲の人間との関係性もゆっくりと変化していく。それだけでなく、言葉やストーリーに込められた温かな思いは、読者の心にぐっと来るものも多いだろう。『星の王子さま』を人生のバイブルにするように、もしかしたら桜蘭をそういった存在にしている人もいるのでは、と思う程である。
特に主人公の言葉には、頷かざるを得ないものがたくさんある。「枠で人を測ってたら、本当に大切なものが、何も見えなくなるよ」これは筆者の好きな台詞の一つだ。
ゲーム好きのあまりに、ホスト部員たちを"見た目"や"イメージ"でキャラ付けをし、それを押し付けてしまっていた女子生徒に対する言葉で、これは私達の日常の人間関係の中にも当てはまることなのでは、と感じる。口コミや周りからの評判で固められたイメージがよくないからと敬遠してしまっている人が、周りに一人はいるだろう。そんな「枠」にとらわれてしまっていれば、その人の本当の姿は見えてこないのだ。そういったことに気付かされるようなエピソード、そして言葉であった。
また、ホスト部のリーダーである須王環(すおうたまき)は、ストーリーの進行上で最も主人公に影響する人物だ。見目麗しく成績も優秀だが、底抜けに明るく、そして優しく、庶民の暮らしに猛烈な興味を示し、毎回突拍子もない提案を出す。所謂"ボケ担当"であり、周りからもバカだなんだと罵られる、ちょっと残念な位置づけである。それでもかつて、バラバラだった部員たちをその人柄で説得しホスト部を作り上げた人物で、部員たちを家族のように想っている。人間関係に冷めていたり、悩んでいた彼らを強引に引っ張りあげ繋げる姿は、まさに名前のごとく物語の"環(わ)"を担っているのだ。
ただ、そういった人柄も、彼の過去を土台として出来上がっている。環は最愛の母親と引き離され、二度と会うことを許されなくなった過去があるのだ。そんな過去があるからこそ、彼の人を想う温かい気持ちは一層強まっているのである。
環だけではない。母親にさえ見分けてもらえずに周囲を拒絶した双子や、どうやったって跡取りにはなれない三男坊として生まれたことに密かに劣等感を抱いていた副部長、本当の自分を出さずひたすらに努力していた先輩。ホスト部の根底には、今の彼らを作り上げた過去が静かに隠れていたのである。
それでも前に進んだ彼らは、主人公と関わることによって更に変化していく。藤岡ハルヒの存在は、彼らにとっての更なる救いであったのだ。そこで彼らとハルヒ自身に芽生える葛藤や、恋の感情を、巻を追うごとにじっくりと楽しむことができる。
必見すべきは"コスプレ"!?
ストーリーやキャラクターの他に、桜蘭を楽しむポイントは"コスプレ"だ。ホスト部は、お客様である女子生徒たちを楽しませる為に、度々コスチュームチェンジをする。新選組や平安時代、琉球、南国、トルコ、果ては警察官や海賊、着ぐるみなど、様々なバリエーションの服装が登場するのだ。作者の葉鳥ビスコも「考えるのが楽しい」と記しており、一つ一つの衣装の描写も正確で綺麗に描かれている。魅力的なキャラクターの個性をもっと引き出す"コスプレ"も、桜蘭ならではと言えるであろう。
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