ラテラルシンキングのヒロイン・浅倉絢奈 - 特等添乗員αの難事件 Iの感想

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特等添乗員αの難事件 I

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ラテラルシンキングのヒロイン・浅倉絢奈

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文章力
3.5
ストーリー
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キャラクター
3.5
設定
4.0
演出
3.5

目次

松岡圭祐が生み出した次なるヒロインは、水平思考の持ち主

人気作・『万能鑑定士Q』シリーズの外伝的シリーズである『特等添乗員αの難事件』。その第一作目が、『特等添乗員αの難事件 I(以下、特等添乗員)』である。

『万能鑑定士Q』シリーズのヒロイン、凜田莉子はロジカルシンキングの持ち主であるのに対し、『特等添乗員』シリーズのヒロイン・浅倉絢奈は水平思考ーーラテラルシンキングの持ち主だ。

ロジカルシンキングとは違い、一般的に馴染みのないラテラルシンキング。『特等添乗員』で初めてその名前を聞いたという人も多いはずだ。流石に広範な知識を持ち、作品に盛んに取り入れる松岡圭祐はヒロインの特性づけすら個性的だ。

浅倉絢奈はこのラテラルシンキングに長けた女性であり、添乗員という仕事に活かしていく。第一巻である本作は、莉子と同様に劣等生(ニート)だった彼女が、自らの才能に気づき添乗員になるところまでを描いている。

『特等添乗員』は『万能鑑定士』に並ぶ人気シリーズになれるのか、次項から考察していきたい。

ラテラルシンキングは毒か薬か

『特等添乗員』シリーズでまず語らねばならないのは、やはりラテラルシンキングであろう。

『万能鑑定士』シリーズの莉子はロジカルシンキングからなされる「知力による不意打ち」によって謎を暴く。だが、絢奈はラテラルシンキングの持ち主であり、人の思いも寄らない思考(ずるい知恵、いわゆるチートと称されることも)で謎を暴いていくスタンスだ。

この「ラテラルシンキングを武器とした指摘」は、「ロジカルシンキングを武器とした推理」とは似て非なるものだ。というのも、やはりチートと称されるだけあって、絢奈の思考回路(あるいは推理)は人に理解されづらいものだからだ。

莉子の推理は、さすがに論理的で、莉子の説明を聞いていけば「あぁ、そうだったのか」と読者側も納得が出来る。

だが、絢奈の指摘(推理かどうかも怪しいラインだ)を聞いても、「うーん、そうなの?」と勘ぐってしまうのだ。

ここが、ラテラルシンキングの難しいところだろう。飛びぬけた思考回路であるがゆえに、物語の登場人物どころか読者にも理解されがたい主人公。実際に絢奈の数々の「指摘」を聞いて、すんなりと納得した人は少ないはずだ。

本家『万能鑑定士Q』シリーズと比べ、『特等添乗員』シリーズは5巻で刊行がストップされているのもそれが影響しているかもしれないが、果たして。

もう一つの課題は、微妙な恋愛模様とうまくまとまりすぎた結末

もう一つ、『特等添乗員』シリーズで惜しいと思う点がある。それは、絢奈が仕事も恋愛も、とんとん拍子にうまく行き過ぎているという点だ。

どこか鈍いため、小笠原との恋愛もいまいち発展せず、お人よしすぎてお金がたまらない莉子と違い、絢奈は壱条との恋もすんなりと進んでいく(のちのシリーズではいろいろトラブルもあるのだが)。

いわばシンデレラストーリー的なのだが、それにしてはあまり読みごたえがないのが正直なところだ。

日本人は判官びいきというか、主人公が困難な目にあい、乗り越えていくストーリーを好む傾向にある。確かに絢奈は家族とうまくいかず、ニートになってしまったという苦労を持つ人間ではあるのだが、純粋な莉子に比べてやや苦労が足りず、人間的魅力が薄いように感じられる(これは莉子という完璧なヒロインである先輩がいたことの弊害もあったのかもしれないが……)。

そんな絢奈が莉子を差し置いて玉の輿に乗ろうとしていては、読者としても面白くないだろう。しかも恋の相手である壱条は金持ちでイケメン、性格も良しのプリンスだ。

もちろん、『特等添乗員』シリーズは、作者・松岡圭祐の非凡なる才能のたまもので凡百の小説には及ばぬ魅力的な作品ではあるのだが、『万能鑑定士Q』シリーズと比べると、やや見劣りがするというのが正直なところである。

ミステリの部分でも、主人公と主人公の周囲の人間模様も、先輩たる『万能鑑定士Q』にはやや叶わない出来だ。

松岡圭祐のキレイなまとめ方にも、原因があるのではないだろうか。『万能鑑定士Q』シリーズでもそうであるが、一冊でミステリを綺麗に完結させるあまり、主人公が持ち上げられすぎるというところに欠点が生まれる。共感性の得にくい『特等添乗員』ではなおさらだ。

あえて落としどころをつけてくれるならもっと共感性のある作品になっていただろうに、本当に惜しい。物語は完璧にまとめりすぎてもいけない、『特等添乗員』はその反面教師になってくれた作品のようにも思う。

2014年観光の五作目を最後に、『特等添乗員』シリーズは続刊が絶えている。絢奈は『万能鑑定士』シリーズにも顔出しをしているが、彼女が主役の話ではない。

松岡圭祐は別シリーズを続々執筆中であり、続編が出るのか不明であるが、『探偵の鑑定』で”Qシリーズは一くぎり”とされている限り、状況は厳しい、かもしれない。

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