柔軟な考えを持つことが呪いを解くカギ
本当のことを言えないということ
トムとエレナは、ビーストのことまたビーストの呪いを解く旅に出ていることを、ほかの誰にも言ってはいけないとアデュロから口止めをされていました。そのためボートを借りたい本当の理由をカルムの父に話せませんでした。本当の理由を知らないためカルムの父はボートを貸してくれません。なぜならそのボートは村に残った最後の1つだったからです。このボートを失ってしまったら漁に出ることができなくなってしまいます。いくらいまは湖に魚がいないとしても、また魚が戻ってきたときに漁に出るボートがなくなってしまったらと思うと、ボートの修理を手伝ってもらった子どもたちだったとしても貸すことはできないでしょう。
秘密の任務とはいえ、肝心なことを話すことができないというのは、協力を得るのにも大きな障害となってしまいます。なぜならこの場合、津波や湖に魚がいなくなったのは海竜セブロンが呪いにかかっているからで、セブロンに近づきその呪いを解くためにボートを貸してほしいと言えば貸してもらえたかもしれないからです。このときはカルムの手助けでカルムの父には黙ってボートを借りていきます。しかし結果的にみんなの助けになるとはいえ、泥棒みたいなことをしないと任務が遂行できない状況というのは本人たちが一番心苦しかったでしょう。
現実的な大人と、直感を信じる子ども
ここではカルムとカルムの父が対照的な立場で描かれています。ボートは最後の一つであるため貸すことができないという「現実的な大人」であるカルムの父と、トムたちが悪い人には見えないという「直感を信じる子ども」であるカルムです。カルムは朝早くボートを勝手に借りていこうとするトムたちに対し、悪い印象を持つことができませんでした。なぜならトムたちはボートの修理を手伝い、カルムの妹を炎からたすけてくれたからです。そんなトムたちが、父にダメと言われてもボートを勝手に持ち出そうとするにはそれなりの理由があると感じたからです。
大人になると自分の直感より現実的に考えることを重視してしまいます。現実的に考えることは悪いことではありませんが、現実的に考えることと直感を信じることは実は全く別なことではありません。それはどちらも自分の経験をもとに得られるものだからです。簡単に言うと「現実的に考える」と貸したボートが返ってくる保証がないということです。ボートを貸して戻ってこなかった場合、漁に出るときにボートがないのは困る・子どもに貸してまたボートが壊れてしまっては困るという現実的なことを考えて結論を出しています。「直感的に考える」という根拠にはボートの修理を助けてくれたから、妹を助けてくれたから悪い人ではないだろうという感覚的なことを考えて結論をだしています。どちらが優れていてどちらが劣っているということはありませんが、ここでは直感を信じてトムたちを手助けしたカルムが正しくカルムの父親が間違っているという結論となっています。大人には子どもの言葉や考えを信じること、子どもには自分の考えを信じることの大切さが描かれているように思えます。
呪いのアイテムを解くカギは別にあった
「火龍フェルノ」につづいて「海竜セブロン」の呪いのアイテムも金の首輪です。「海竜セブロン」は湖を守っているビーストです。そして普段は湖の底にいるため呪いを解こうにも、セブロンのもとまで光が届かず水の中に入ると水面がどこにあるのかもわかりません。そこでトムはエレナに盾で光を反射してもらい水面の場所が分かるようにしてもらいます。しかし今回は「火龍フェルノ」の金の首輪を外したカギは鍵穴と合いませんでした。トムは機転を利かせて自分が持っていた剣を鍵穴に差し込み首輪を外しました。今回手に入れたアイテムは「象牙色の牙」でそれは水から身を守る効果がありました。
今回は「剣は戦うもの」「盾は身を守る物」といった先入観を捨てることで、ビーストを呪いから解くことができました。光をあてるものや、合うカギを探していたらいつまでたっても呪いを解くことはできなかったでしょう。今あるもの今できることで最善をつくす、望み通りのものがなかったとしても工夫をする、そんな柔軟な考えを持つことが目の前にある問題を解決する最も良い手段なのかもしれません。確かにきちんと計画を立てて準備万端にすることも大切です。しかし準備万端にするということは、いろいろな場合を考えてどういう状況になっても対処できるように準備をするということです。それにはそのいろいろな場合を考えることができるように、経験を積むことが必要になります。子どもたちや未熟なもののほうが柔軟な考えを持つことができるのは、準備万端にできるまでの代わりとなる力なのかもしれませんね。そう考えると完璧に準備を整えるためには柔軟な考えは大人になっても必要な力と言えます。「呪いを解くカギ」は「どんな状況でも対処できる柔軟な考え」なのかもしれません。
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