人の心の内面をじっくり描く、洗練されたヒューマンサスペンスドラマ - 名もなき毒の感想

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名もなき毒

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映像
3.75
脚本
4.75
キャスト
4.00
音楽
4.00
演出
4.25
感想数
2
観た人
3

人の心の内面をじっくり描く、洗練されたヒューマンサスペンスドラマ

4.54.5
映像
4.0
脚本
4.5
キャスト
4.5
音楽
4.5
演出
4.5

目次

人の心の闇という「毒」

宮部みゆき原作の「杉村三郎」シリーズをドラマ化。

シリーズ1作目「誰か Somebody」を前半の一話から5話まで、

シリーズ2作目「名もなき毒」を後半の6話から11話まで、

という構成で 放映された。

そういう事情を知らずに当時見てたので、当時は少々面食らった。

が、内容はかなり見応え十分だった。

タイトルの「名もなき毒」にもあるが、

誰の心の中にも潜んでいる心の闇を「毒」と表現し、

様々な登場人物たちの様々な「毒」をリアルに描いている。

「心の中で毒づく」なんていう言葉があるけど、

確かに私自身も、自分の中の「毒」に怖気づいてしまうことも稀にある。

「毒」ってのは、おもしろい質感だと思う。

切れたり破れたり、という外科的な刺激というより、

内服したり塗布したり、いずれにしても

身体の内側に浸透して作用していくもので、

じわじわと細胞に沁みこんでいく。

「毒」と「薬」はある意味紙一重、

作用の仕方も、効能も、よく似ている。

だからなのか・・・

「毒」と耳にしたり意識すると一瞬、

ある種の甘美な響きを感じてしまう。

単純に「悪いもの」では済まされない、

「悪を超えた何か」を瞬間的に感じるのかもしれない。

実際、「毒舌」なんて言われる人の鋭い指摘によって

現状が打破されたり、思わぬ刺激で状況が改善する、なんてこともある。

とはいえ、好んで「毒」を喰らう人もいないだろうが。

このドラマの登場人物たちはみな、

平凡な暮らしをしている ありふれた人物ばかりだ。 

でも、そんな当たり前の日常の中にも

様々な人間ドラマはあって、

知らず知らずのうちに 自らの内に「毒」を生成していき、 

自分を蝕み、身近な人を蝕んでいく。

その「毒」は名前もないほど、些細で身近で、

だからこそ余計に恐ろしいのだ。

人間というのは、

そんな「毒」といかにうまく付き合い、

「毒」の扱い方をいかに学んでいくか、

だとも、言えるのかもしれない、と思った。

「杉村三郎」という主人公と、ハマり役の小泉孝太郎

主人公の「杉村三郎」という人物が、

色んな意味で魅力的でいいキャラをしてる。

今多コンツェルンの会長の娘婿だが、

出世欲はまるでなく、人あたりも良く、、

そのため、色んな事件や他人の事情に

なぜか首を突っ込むハメになるのだが

意外にも冷静沈着で、なんだかんだでみんな、

どこか彼に頼っている。

この「杉村三郎」、小泉孝太郎さんはハマり役だなあ!と思って見てた。

人がうらやむような「逆玉の輿」のお婿さん。

けど、本人には本人にしか分からない苦悩がある。

複雑な心理が、ある。

会長の娘婿、というだけで、

社内の人間は誰も本音で自分と接してはくれない。

勝手に妬まれたりやっかまれて、好き放題言われることもある。

そんな孤独も、彼はひとり静かに受け止めている。

誰に愚痴るでもなく、自分の人生に後悔するでもなく、

だからといって悩んでないわけではなく。。

でも、普段は人当たりが良くて、穏やかで頼りになる好青年。

自分のことより他人のために一生懸命になってしまうお人よし。

だからこそ、彼の心の中の「毒」には

誰も、彼自身ですら、分かりえないとも言える。

「いい人」なんだよね、「三郎」さん。

けど、「いい人」は時として他人を傷つける。

頼まれてもいないのに他人の人生に首を突っ込めば

結局相手の「生きる自由」を奪うし、

言われたくないことを言われたりもして

結果的に自分自身が傷つく。

そんな場面もうまく表現されていた。

そして、彼のナレーションでドラマは進むんだけど、

人当たり良く、お人よしで、温和な彼の数々の対応と、

その冷静な視点と落ち着いた分析、というギャップが

ドラマに独特の緩急を生み出し、

そんなお人良しな彼の心の内にも「毒」は確かにあるのだ、

ということをじわじわと感じさせてくれる、

洗練されたサスペンスドラマに仕上がっている気がする。

地味、なんだけどね、役も、ドラマも。

けど、味があるんだなあ。

小泉孝太郎さん、好きな俳優さんのひとりだけど、

このシリーズは小泉さんの「ど真ん中」な役どころ、なんて

勝手に思っている。

数クール後の「ペテロの葬列」も見たけど、

相変わらず・・・絶好調でした。

「原田いずみ」とインナーチャイルド

私は個人的に、後半の話の方が面白かった。

なんといっても、キーマンの人物「原田いずみ」が 

ぶっ飛んでいたからだ。

役柄も、彼女演じる「江口のりこ」さんの演技も、

とにかく鳥肌モノだった。

「杉村」の職場に中途採用でやってきた「原田いずみ」は

年齢も学歴も職歴もすべて詐称、 常識外れの勤務態度で結局クビに。 

それを逆恨みして、あの手この手で

グループ広報室に刑事事件にまで発展するような嫌がらせを始め、

最終的には「杉村」と彼の家族にまで手をかける。

彼女は小さいころから、常に何かに対して怒っていて

実の親ですらお手上げで、彼女を身捨てて逃げた。

その彼女の行為は、確かに常軌を逸しているんだけど、 

私は確かにこのテのエネルギーを、よく知っている。

実際に行動に移さなくても、

表現方法も同じではなくても、

「原田いずみ」のように生きている人は

案外たくさんいるような気がする。

身近な友人の中にも

かつての職場にも

私の身の周りにも確かにいた。 

つきつめれば、

誰も自分を分かってくれない

誰も自分を大切にしてくれない

誰も自分に気づいてくれない

そんな思いが怒りとなっていて

それが「原田いずみ」のように 

他者に攻撃として向くタイプと

自分に向くタイプといて、

それぞれ行動パターンが全然違うから 

一見別のタイプに思えるけど

根っこは同じだったりする。

「原田いずみ」は、異常なほどの攻撃性で

他者に向いてしまうタイプだから

事件やトラブルに発展してしまうけど

ある意味分かりやすい。

自分に向くタイプは

分かりにくいかもしれないけど

結局、自分を責めるということは

同時に他人を間接的に責めていて

結果的には他者に向こうが自分に向こうが 同じことだ。 

「原田いずみ」の極限の孤独の怒りの狂気を

「江口のりこ」さんがそれはそれはスサマジイ演技で

魅せてくれた。

世の中すべてを呪い罵るような目、

幸せに満ちているものすべてへの憎悪、

究極にふてくされてスネている 

インナーチャイルドの姿。

そう、その、全身で愛を欲している「内なる子供」の姿を

江口さんが体当たりで演じてくれていてシビレタ。

「原田いずみ」とまではいかなくても、

誰の心にも、「内なる子供」はいると思う。

自分は愛されていないのだと勘違いしているその子供は

時に駄々をこね

時に賢く人を欺き

あの手この手でその存在をアピールして

愛を得ようとする。

最終回で「原田いずみ」が「杉村」に言うのだ。

「あやまってよ!!あやまれ!!

 何から何まで全部あやまれ!

 アンタたちが幸せなこと、アンタたちが存在してること、

 アンタたちが頂点にいること、

 だからますますこっちが不幸になるんだよ!」 

と。 

この叫びはほんとうは・・・

「原田いずみ」が自分に対して叫んでる言葉なのだと思う。 

「自分は幸せなのだ、存在しているだけで幸せなのだ、と 思えず、

 何から何まで勘違いして生きてきた自分にあやまれ!

 そう思えないから、他人と自分を比べ、

 自分をますます不幸にしてるんだよ!!」

と。

自分という存在の幸せを見失ったときから人は

自分の中に「毒」を作り始めるのかも、しれない。

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他のレビュアーの感想・評価

数年前に見てたドラマ

祖父が宮部みゆきさんの大ファンと言うこともあり、一緒に見てました。逆玉の輿をした小泉孝太郎演じる杉村三郎。杉村三郎の第一印象は“女々しい”“ナヨナヨしてる!”とイライラしてくるほど頼りのない男。逆玉の輿をして肩身の狭さを感じながらも全うに仕事をこなすサラリーマンです。「名もなき毒」のタイトル通り、人は必ず毒をかかえている、と言わんばかりのドラマ。杉村三郎がひょんなことから事件に巻き込まれ、あらゆる手がかりを探してゆくのですがストーリーがちょうどいい長さで区切られて行くので見てて飽きません。杉村三郎とタッグを組むムロツヨシさん演じる手島雄一郎が重苦しくなりそうな場面をさらっとすくってくれるのがほっこりしました。淡々と事件を解決に導く杉村三郎の人間性が見れば見るほど伝わってくる作品でした。頼りない三郎が抱えてる闇がひしひしと感じられ妙に共感します。言葉はよくないですが私は杉村三郎に同情して...この感想を読む

3.53.5
  • ぬぬちゃんぬぬちゃん
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